表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

29/49

乙女の悩み 2


 千代花(ちよか)はまだ高校生の子ども。

 子どもを戦わせて、こそこそ隠れている俺にそこまで言われる価値はない。

 でも、それでも千代花(ちよか)には十分なのだろう。

 俺が共に戦おうとするだけで、それだけで価値があるらしい。

 こんな大人の男、カッコ悪いだけだと思うんだが。


「あ、もちろん戦闘のことだけじゃないですよ」

「え」

「案内所のこと、地図のこと、水のこと、食糧のこと、寝る場所のこと、駐車場のこと……私だけじゃやく、墨野(すみや)さんや真嶋(ましま)さんのことも気を遣ってくれて、なんかこう、リーダーシップがあって、安心するんです」


 りーだーしっぷ。

 ……は? はぁ?

 ただのサバイバル&ゲーム脳で乗り越えてきた感しかないんだが、俺は。

 しかし、顔を上げた千代花(ちよか)が笑顔でいる。

 千代花(ちよか)が笑っているのなら、それでいい。

 俺がどんなに情けなくて格好悪い事情で動いていても、最終的に千代花(ちよか)がいいのならそれでいいだろう。

 子どもと女の子は笑っているのが一番だ。


「……こんな俺でも、そう言ってもらえるのなら頑張った甲斐あるよ」

「はい。本当に救われてます。頼りに、してます。私、性格がきついって言われるので、今まで周りに、頼りになる人いなくて……高際(たかぎわ)さんは本当に、大人って感じで……その……憧れます」

「……っ」


 はにかむ笑顔。

 その時自覚した。

 俺の中での千代花(ちよか)は、気を張っている横顔ばかりが印象に残っている。

 でもやはり、女の子なのだ。

 年頃の、幼い、ただの……普通の。

 どんなに『おっぱいのついたイケメン』『ちよちゃんと結婚したい』とか言われる乙女ゲーヒロインであろうとも、きっと、本心では子どもらしく大人に頼りたいんだろう。

 それのなにが悪い。

 当たり前のことじゃないか。


「こんな状況なのに……いくら戦う力があるからと言って、未成年の女の子を最前線で戦わせる成人男性ってカッコ悪くない?」

「そんなことないです。それ以外のところですごく気を遣ってくれますし、高際(たかぎわ)さんのおかげで上手く回ってるっていうか……今日、墨野(すみや)さんが怪我しちゃいましたけど、高際(たかぎわ)さんがいなかったら、もっと早くバラバラになって、私も墨野(すみや)さんも真嶋(ましま)さんも、ゾンビの仲間入りしてたと思います」


 千代花(ちよか)はともかく——墨野(すみや)真嶋(ましま)は、確かにそうかもなぁ。


「そっか。役に立てたならよかった。ゲームの話だけど、俺、色んなゲームしててさ、サバイバルとか、対戦ゲームとか。そういうのの知識でなんとかやってきてて、正直自信なかったんだけど」

「ゲームの知識! すごいです!」

「俺は千代花(ちよか)ちゃんの方がすごいと思う。本当に。いきなりゾンビと素手で殴り合うとか、普通は無理だろ。それなのに、見ず知らずの俺らを守るために本当に化け物と戦ってくれて。千代花(ちよか)ちゃんは勇気あるよ。——尊敬する」

「……っ!!」


 これはガチめの本心である。

 素直に尊敬するし、気恥ずかしさもなくそれを伝えられる。

 この時の俺は千代花(ちよか)に褒められて浮かれてたのかもしれない。


「さ、そろそろちゃんと休んで」

「あ、は、はい。そうですね。そうします。あの、お話できて、少し、いえ、かなり……リラックスできました。ありがとうございます」

「あ、うん。それは俺も。話ができて楽しかった。見張り頑張る」

「はい」


 笑う千代花(ちよか)が素直に可愛い。

 この近距離で謎に手を振り合い、千代花(ちよか)は眠りにつく。

 その寝顔がまた可愛い。

 いつまででも見ていられる。

 この感覚、俺はすっかり攻略されてしまったのかもしれない。

 まあ、死なないためにも引き続き千代花(ちよか)には媚びていこう。

 千代花(ちよか)からの好感度はそのまま生存率だ。


 そうして見張りをしてみたものの、その夜は特になにもなく過ぎていった。

 ただ、俺はこの時すでに——明日マネージャーと合流できないな、と思った。




 ***




「開きませんね」

「なんとなくそんな気はしてたけどな」

「ど、どうしましょう?」

「ひとまず部屋に戻って千代花(ちよか)ちゃんと墨野(すみや)に合流しよう」


 翌朝。

 俺と真嶋(ましま)は屋上の扉に来て、入ってきた扉の開閉を確認していた。

 案の定、扉は開かない。

 マネージャーとはこれで合流不可能になった。

 食糧も持ち合わせはないし、水も残り少ない。

 墨野(すみや)は怪我しているし、千代花(ちよか)に来てもらって叩き壊すのもありなんだけど……。


「ドアの外、なにか鳴き声しましたよね?」

「鳴き声っていうか、デカい足音もしてたよな。外は相当ヤバいのがいると見て間違いない。墨野(すみや)を連れてコテージまで移動するのは、危険極まりないだろう。下手したら死人が出る」

「で、ですよね……。曇りガラスでよかったような、悪かったような……」

「あれ、多分曇りガラスっていうか強化ガラスだと思うぞ」

「っ、怪物たちの侵入を防ぐための……?」

「多分な」


 階段を下り、部屋に戻ると墨野(すみや)が起き上がっていた。

 顔色はだいぶいい。

 止血は成功したらしく、傷は一応塞がっている。

 無理に動かせばすぐに開くだろうが、部屋にあった鉄板を押しつけて布で再度固定した。

 骨折しているわけではないが、傷口を圧迫して開きづらくする。

 変な感じに傷口がくっつかないよう水で洗ってからだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【宣伝】

4g5a9fe526wsehtkgbrpk416aw51_vdb_c4_hs_3ekb.jpg
『転生大聖女の強くてニューゲーム ~私だけがレベルカンストしていたので、自由気ままな異世界旅を満喫します~』
詳しくはホームページへ。

ml4i5ot67d3mbxtk41qirpk5j5a_18lu_62_8w_15mn.jpg
『竜の聖女の刻印が現れたので、浮気性の殿下とは婚約破棄させていただきます!』発売中!
詳しくはホームページへ。

gjgmcpjmd12z7ignh8p1f541lwo0_f33_65_8w_12b0.jpg
8ld6cbz5da1l32s3kldlf1cjin4u_40g_65_8w_11p2.jpg
エンジェライト文庫様より電子書籍配信中!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ