アスレチックエリアボス戦
千代花は優しいな。
正直シンプルにあの二人は荷物だ。
でも、人手という意味ではないよりある方が助かる。
頷きあってアスレチックエリアへと向かうが、二人の姿が見えない。
困ったな、連絡手段もないのに。
一応、無理だと思ったら駐車場に来るか、コテージに戻るよう言っているけど……コテージはゾンビを掻い潜って向かわねばならないから多分まだアスレチックエリアで隠れていると思うんだよな。
「! 高際さん! 上です!」
「え!」
俺の記憶ではアスレチックエリアにエネミーはいなかった。
しかし、俺が無理に物語を進めたせいなのか、ゲーム内にも登場しなかったエネミーが襲ってきた。
千代花に抱えられて距離を取る。
落ちてきた音と、砂埃。
げほ、と咳き込みながら落下地点を見ると、頭が八つもある三メートルの高さはある巨大ゾンビが頭を擡げた。
手足も八人分。
八人のゾンビがなんらかの事情で合体している?
どっちにしろきめえええぇ!
「なんだあれ……!」
「た、倒します!」
「う、うん。気をつけて!」
役に立たないので、岩陰に隠れる。
でも、よく見ればアスレチックがいくつか近くにあった。
まあ、アスレチックエリアだからあるのは当たり前なんだけど。
千代花が小回りのきく小柄な体を生かして木々をすり抜け、エネミーに接近して翻弄する。
「たあぁっ!」
『ガァァッ』
顔が八つもついているから、逆に素早い千代花の動きについていけてないのか。
手足が四方八方に伸びて、足が右に行こうとしたり左に行こうとしたりしてバランスが悪すぎる。
ついには木にぶつかり、転倒しやがった。
え? 雑魚?
「はぁっ!」
『ガァァァァァァァァァァア!』
千代花が踵落としで頭を潰す。
……ゲームに出てないエネミーだからと警戒したけど、弱。
失敗作ってやつだろうか?
あまりの弱さに震えてしまう。
ちょっと可哀想。
「……ふう。高際さん、大丈夫ですか?」
「ああ——、……! 千代花! まだだ!」
「え!」
『ゴァァァァァア!』
「くっ!」
頭を一つ潰しただけでは、あのエネミーは倒せないらしい。
がばりと起き上がり、千代花を捕まえようとする。
動きが先ほどよりはっきりとしているような……まさか!?
「まずい、あいつ……頭を潰すごとに他の体を融合して強くなるタイプだ……!」
忘れていた、後半の研究施設エリアに出てくるエネミーだ、あいつ。
中ボスとかではなく、中ボスくらい強い厄介な敵。
でも、研究施設エリアに出てくるヤツは三つの顔と六つの手足で、あんなにたくさん顔や手足がついていなかった。
体もあんなに大きくはない。
まさか! あの研究施設エリアに出てくるエネミー名称“ミツドモエ”の強化版!?
そんなのゲーム本編に出なかったじゃん!
「ヤバい、七つも融合したら中ボス並みに強くなっちまう……!」
ミツドモエは通常の敵よりやや強い、というタイプの敵だが、あれはそれよりも強くなってしまう。
普通のゾンビのように頭を潰さねば勝てないのだが、頭を潰せば潰すほど蠱毒のように体が融合していき、六つあった手足が左右一本ずつになり、の凝った頭が司令塔として知性的な動きをするようになる。
マジ、このエネミー考えたヤツ性格クソ悪いと思う。
そんなミツドモエの強化版とかめちゃくちゃヤバいだろ。
千代花が二つ目の頭を潰すと、手足がぶちぶちと融合して数が減る。
筋肉が増し、六つの頭が千代花を見下ろした。
明らかに最初と威圧感が桁違いだ。
まずい、ってことは多分硬さも格段に上がっている。
なんとかしないと、今の千代花では勝てない!
「……あれを使えるか……?」
北の方にどでかい網を使った遊具がある。
あれに誘い込んで、絡め取ってしまえば……!
「千代花ちゃん! あっちの網を使うんだ!」
「! は、はい! やってみます!」
ジャンプした千代花を、賢さが増したミツドモエは迷わずに追いかける。
速さも格段にあがってやがる……!
あれがさらに六倍になると思うと、やはり真正面から戦うのは危険だ。
千代花が俺の意図を汲み取り、網のアスレチックにミツドモエを上手く誘導した。
まだそこまでの知性が高まったわけではないミツドモエはまんまと網の真ん中に飛び込んだ。
そこで千代花が端を引き抜いて、ぐるぐる巻きに仕上げる。
元々遊具に使われていた杭を使って地面に貼りつけるが、捕まったミツドモエがうごうごと動いて今にも外れそう。
あのまま頭を潰せば、パワーアップして網も破られてしまうだろうから……。
「千代花ちゃん! 待て!」
「高際さん、危ないですよ!」
「多分その化け物は頭を潰すと強くなるんだ。頭が減った分の手足が、他の手足に吸収されていただろ?」
「え? あ、ほ、本当だ……減ってる!」
「そのまま頭を潰していくともっと強くなって、拘束も破られてしまう。もっと厳重に網を被せよう。向こうに橋の遊具もあるから、それを取ってきて巻いてしまおう」
「わかりました!」
話が早くて助かる。
千代花はすぐに他の網やロープを引き剥がし、橋の木板ごと巻き込んでミツドモエを縛り上げた。








