予定の話し合い
もちろん最悪を想定するのは悪いことじゃないと思う。
でも、真嶋の理屈を逆で当てはめる——ゲームの中の「テロリストサイドの実験」と考えると、政府関係に助けを求めることは逆に俺たちを「テロリストの実験を冷静に通報した被害者」という政府的には守る価値のあるものになる。
でも、さすがにそれは本来俺が知ることではない。
口には出せないから、やんわり誘導するしかないんだよな。
「不安なことがたくさんあるし、先が見通せないから色々心配になるのもわかるけど憶測を前提にするより確実性の高いところから試していくべきだろう。とりあえず今夜の寝床。そして明日以降の飯だ」
「飯……!」
「だ、確かにご飯は重要な問題ですね……!」
「はい!」
三人とも空腹の地獄は思い知ったばかりだから、同意がめちゃくちゃ強い。
「この様子なら俺たちが最初に襲われたところのソロキャンやファミリーキャンプエリアのクーラーボックスにも、まだなにか残っているかもしれない。本当ならずっと駐車場側でマネージャーが来るのを待っていたいが、それも難しいだろう。二手に分かれたほうが効率がいいけど、どう思う?」
俺一人でポンポン決めるのは簡単だが、戦う術のある千代花は一人しかいない。
食糧探しはゾンビとの遭遇率が高いから危険極まりないが、マネージャーの顔がわかるのは俺だけだ。
マネージャーに事情を話す役目も俺にしかできないだろうから、俺は明日駐車場側から動けない。
となると、食糧探しをする者と千代花を歩かせる方が効率がいいんだよな。
とはいえ、みんなの運命を握っているのは俺とマネージャーといっても過言ではないし。
「千代花ちゃんは——俺と駐車場でマネージャーを待つのと、この二人のどちらかと食糧を探しに行くの、どっちがいい?」
ここはやはり千代花に決めさせた方がいいかな。
千代花は判断力も高いし、主人公だ。
千代花の選択に従うのがいいだろう。
「危険度は、多分食糧探しの方が高いと思うんだが」
というのも、一応判断材料としてつけ加えておく。
それを聞いて、千代花は——
「……高際さんと駐車場にいたい、です。その……私の着けているこの、パワードスーツ……これについて、話しておくべきだと思います……から」
少し言いづらそうに、千代花は自分の手足を見つめる。
確かに、千代花の今の姿はカタギじゃない。
普通に見たらコスプレだ。
しかし、千代花のパワードスーツはゴテゴテの本物。
……うん、それはそう。
そもそも千代花が乗れる車……なんだ? あるのか? この世に。
軽トラか?
軽トラの後ろって、人乗せちゃダメだった気がするんだよね。
このあと肩アームと腰当て、胸当てが追加されるんだが、それを装着した状態で乗れる車ってある?
やはり軽トラしかないのでは?
トラック?
でも確か背中パーツをゲットすると飛行もできるようになるよな?
…………飛行。
「!」
そうだ、飛行脳になる背中パーツ!
あれがあれば俺たちを抱えてフェンスを飛び越えられるはず!
確か、攻略対象とちゃんと恋愛イベントをこなして特殊ボスを倒したあと手に入る背中パーツで、脱出するエンディングもあったはず!
ああ、でも背中パーツは肩パーツと腰当て、胸当てパーツのすべてを手に入れないと装着できないレアパーツでもあったな。
ってことは、あれだけ手に入れても無理、かぁー。
くっそー!
「いや、うん。でも、確かにそれはそうだな。千代花ちゃんの装備しているものは、明らかにゾンビと戦うためのもののようだもんな」
「は、はい。それに、着けたはいいんですけど、外し方もわかりません。このままじゃお風呂にも入れないです」
それは深刻な問題だな。
女子高生にとっては死活問題じゃないか?
パーツ集めしよう、とか言いそうになったけど、千代花ちゃんはこれ以上パーツを増やしたくないだろう。
なぜならお風呂に入れなくなるので。
「鬼武さんの、そのパワードスーツも謎ですよね。助けられてはいますけど」
残りの野菜と肉を鉄板の上にどんどん並べる真嶋が、千代花を見ながら今更そこに触れるか。
「女性用なんだよな。ゾンビの出現といい、鬼武ちゃんのそのパワードスーツといい……やっぱりこのキャンプ場、なにかの実験場なんじゃないか?」
「陰謀論はやめとけって言っただろう」
「わ、わかっているぞ、高際ぁ」
墨野、さっき真嶋が陰謀論振り翳してた時は否定派たっただろうが。
どんだけ染まりやすいんじゃテメー。
「話を戻すが、千代花ちゃんが明日俺と駐車場側で待っているとなると、墨野と真嶋にソロキャンエリアとファミリーキャンプエリアの食糧を探しに行ってもらうことになるんだが」
「そ、そんなの無理ですよ!」
「無理だぞ俺たちだけなんて! ゾンビに出会したら死んじまう!」
即答である。
やっぱダメだな『おわきん』攻略対象。
使えねー。








