コテージエリアボス戦 1
それにしても、まさか千代花に意見を求められるとは思わなかった。
ゲームではグイグイ使えない男どもを引っ張っていくタイプだったのに。
「なんにしても、まずは飯だよ、飯! 炊事場に行こう!」
「炊事場って、食材置いてあるんだっけ?」
「さ、さあ?」
「僕も使ったことありません」
俺のイメージだと、食材を持ち込んで料理する共有の場所、のような気がするんだけど……。
食材が売ってたりもするのかな?
まあ、誰かが持ち込んだ食糧が残ってたりするかもしれないし、希望は捨てずに行ってみるのはありか。
でもその前にコテージエリアのボス戦なんだよ。
「お風呂にも入りたいですよね」
「「「あ〜〜〜〜」」」
千代花の困ったような笑顔で放たれた一言に、三人で心底同意の声を上げた。
文明的な生活に一刻も早く戻りたいものである。
その前に生き延びなければならないけれど。
「では、まずは私が周りの安全を確認してきます。大丈夫だったら、声をかけますので」
「よ、よろしくお願いします! 千代花さん!」
「頼んだぜ!」
「建物が多いから、できるだけ道路の真ん中を歩くといいぞ」
「あ、は、はい! なるほど! わかりました、高際さん」
すっごーく申し訳ないなー、と思いながら言ったアドバイスに、千代花が笑顔で「ありがとうございます!」と返してきて、不覚にもキュッとした。
俺もいよいよダメな大人だな。
千代花みたいな子どもを、エリアボスがいるとわかっていて送り出すのだ。
それなのに胸キュンはねぇわ。
まずい。これはまずい。
シンプルに自分自身を嫌いになりそうだ。
「ぐぅ、腹減ったな……」
「そうですね。もうなんでもいいから食べたいです……。今ゾンビを見たらゾンビも美味しそうに見えそうで……」
「ゾンビは食う前に食われるだろ……」
ああ、俺よりダメな大人が他にもいるって思うと安心するなぁ。
下には下がいるってことで。
「え! なんの音ですか?」
「もう千代花がゾンビと戦ってるのか!?」
は? 墨野テメェ、いつの間に千代花を呼び捨てにするようになりやがった?
やはりテメェが底辺か?
だが、確かにいきなり表が騒がしくなり始めた。
表が見えるダイニングへ降りて、覗き込む。
半透明な怪物が、無数の触手を伸ばしながら千代花に襲いかかる。
ゲームでも思ったが、マジ狙いづれぇ!
「な、なんですか、あれ!」
「イソギンチャクの化け物かぁ!?」
イソギンチャク。
墨野にしては勘がいい。
あれのモデルは多分イソギンチャク。
サボテンのような細かい針が触手の先端についており、触れると一定時間麻痺してしまう厄介な敵なのだ。
昨夜真嶋が金縛りのようになって動けなくなったのも、あれの触手が窓の隙間から入り込み、触れたから。
しかし本体は非常にすっとろく、夜目が利かないため暗い場所に入ると見つけづらくなる。
なので——。
「千代花を援護してくる。お前らはここでバリケードを張ってろ」
「え! た、高際さん、危険すぎませんか!」
「千代花がやられたあとのことを考えろ。あんなのと俺たちがどうやって戦うんだよ」
「「っ」」
俺には戦う術こそないが、ゲームの知識はあるのだ。
コテージエリアのコテージは八つ。
その中で、俺たちが泊まったのは一番南の端のコテージ。
そして、このエリアボスを倒すための秘策は——北の二つ目にあった、ような気がする。
あいにく何年も前のゲーム知識なので、細部は記憶が怪しい。
玄関からこっそりと出て、隙を見てき北の番目のコテージへ移動する。
やはり、玄関の鍵が開いている。
ビンゴ! ここだ!
「千代花ちゃん! こっちだ! そいつはきっと暗い場所に弱い!」
「高際さん!?」
「こっちに誘導して! 北側のコテージは陽があまり差さない!」
「っ、は、はい!」
千代花を呼び寄せ、二人で二番目のコテージに入る。
よく見れば千代花の足元には刺されたような赤い粒々の傷。
「大丈夫?」
「は、はい。少し足が痺れているだけです……」
いやいや、本当、普通の人間が食らえば真嶋のようにしばらく麻痺して動けないんだ。
千代花だからその程度で済んでいる。
……もちろん言わないけれど。
「腕を貸して」
「あ……」
千代花の腕を掴み、肩に回して担ぎ上げる。
金属のようなパワードアームが重い。
けど、そのまま横抱きにして二階に上がった。
構造は昨日のコテージと同じだが、一人部屋の片方に縦長い金属ケースを見つける。
やはり、あった。
「こ、これ! このカバン……! あのビルにあったものと同じものです!」
「あのビルにあったって、その腕の……?」
「はい! もしかして、同じものが入っているんでしょうか……」
俺から腕を外し、千代花が迷いなくケースを開ける。
そこに入っていたのは、パワードスーツのレック部分。
「これ、もしかして」
「つけるの?」
「つけます」
デザインも、色も、腕のパワードスーツのパーツにそっくりだ。
千代花は迷わなかった。
迷わずに、そのパーツへ足を突っ込む。
 








