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一日目の夜


 墨野(すみや)真嶋(ましま)を気遣っているんだろう。

 二人を見ると、墨野(すみや)真嶋(ましま)は気まずそうな顔をする。

 ははは、なんだお前らその顔は。

 まさかなんにもしていないのに、ベッドに寝たいと言わないだろうな?


「ベッドなら隣の部屋にもあるぞ」

「じゃ、じゃあおれは隣の部屋のベッドを使わせてもらう」

「ぼ、僕も……。向こうにツインの部屋がありましたから、そこを借りましょう」

高際(たかぎわ)ぁ、女子高生と同じ部屋で寝ようとか、言わないよな」

「当たり前だろ。俺は廊下で寝るよ。見張りも兼ねてな」

「え! 見張なら、私が!」

「ダメだよ、千代花(ちよか)ちゃんは絶対にきちんとよく寝て。心配しなくていいから」

「……あ……は、はい」


 と、いうわけで俺だけ廊下で休むぜ。

 こっっっっえええええええええぇーーー!

 ああは言ったけど、やっぱり薄暗くて薄寒い廊下で、いつゾンビが入ってくるかわからない場所で寝るのは怖すぎる!

 でも真嶋(ましま)と同じ部屋で寝るのもやなんだよ。

 あの部屋で寝ると金縛りに遭うから。

 ゲームでは、真嶋(ましま)高際(たかぎわ)が金縛りに遭い、文句を言いながら起きてくる。

 金縛りは普通にコテージ区画のボス。

 金縛りがひどすぎて、真嶋(ましま)は部屋で吐いていた。ゲームで。

 とりあえず真嶋(ましま)が金縛りになって、騒ぎ出すまでがここでの休息時間だ。


「ふう……」


 スマホのアラームをバイブレーションにして、一時間後にセットする。

 大丈夫。ここにゾンビは来ない。

 壁によりかかり、目を閉じるだけ。

 じっとして目を閉じているだけでも、睡眠時と同じくらい——とまではいかないが、疲労を取る効果があるとはるか昔のテレビで見たことがある。

 真相の方はわからないが、今は休めるだけでありがたい。

高際(たかぎわ)義樹(よしき)”の体は存外体力があって、俺が思ったより疲れてないけれど。

 これがリアルな“俺”だったら、管理棟に行ってもう疲れ果ててる。

 別におじさんだからってわけじゃないぞ。

 ゲーマーだって体力勝負だ。

 集中力は体力があってこそだからな。

 でも、なんていうか……やっぱり……!


 武器が欲しい!


 武器さえあれば俺だってゾンビと戦うのに!

 ゲーマーの射撃能力舐めるなよ!

 全部こめかみに当ててやんよ!

 ……武器……ハンドガン、スナイパーライフルでもあれば……くう。


「…………」


 ヴヴヴ ヴヴヴ ヴヴヴ ヴヴヴ


「!」


 寝てた!? いつの間に!?

 バイブレーションで目を覚めて体を起こす。

 痛っ……やっぱり座ったままの体勢はきつい。

 でも、寝てしまったのか。

 寝ないようにって思ってたのに——あ?


「これ……」


 ブランケットだ。

 肩からずり落ちた茶色いブランケットは、すっかり暖かくなっている。

 だいぶ前にかけてもらったんだ。

 でも、誰が?

 墨野(すみや)……そんな気が使えるやつではない。

 真嶋(ましま)……そんな気が使えるやつではない。

 じゃあ、千代花(ちよか)、か?

 あの子ならやりそうだな。


「俺のことなんて、気にしなくていいのにな」


 俺が君に媚を売らないといけないのに、君が俺に気を使う必要なんてないのに。

 でも、ありがたい。

 やっぱり寒かったしな。

 次にあったら、お礼を言って——。


「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁ!」

「!?」


 俺が寄りかかっていた壁側の扉が、突然開いた。

 驚いて見上げると、真嶋(ましま)が泣きながら飛び出して廊下に落ちる。

 そう、本当、落ちるって表現以外にない。

 べしゃあ、と床に顔面を擦りつけるように落ちて、うごうごとどうしたいのかわからないような動きをしていた。

 き、っっっも。

 引いていると目が合う。

 うわ、こわ。


「たたたたた高際(たかぎわ)さぁぁぁぁぁん!」

「きっも! いってぇ!」


 正直に叫んでしまう。

 しかし、真嶋(ましま)はそんなのお構いなし。

 俺の後頭部が壁にぶつかったって気にしない。

 きもいきもいきもい、この夜一番のホラーかもしれない。

 大学生の男子に力一杯泣き疲れて抱きしめられる。

 いや、フッツーに痛え!


「痛い痛い痛い! 離せ! なんだよクソ!」

「ででで出たんです! 出たんですよぉ! お化けが!」

「うるっせーな、静かにしろよ。ゾンビが寄ってきたらどうするんだよ」

「っ!」


 俺が睨みつけると、慌てて自分の口を両手で塞ぐ真嶋(ましま)

 とりあえず背中を軽く叩いて「落ち着け。息を吸って、吐いて」と宥める。

 何度か深呼吸を繰り返して、ブワッと泣き出す。


「か、体が、体が動かなくなったんですよ」

「金縛りか? そりゃ、こんな緊張が続いてたらなってもおかしくはねぇな」

「そんな、いえ! なにかに掴まれたんです!」

「落ち着けよ。金縛りは科学的にも疲労と緊張による脳の誤作動を、寝ている時に起こしてしまうって証明されてるよ」

「で、でも! ……でも、そ、そう、そんな……そっ……そう、なんでしょうか……?」

「昨日半日振り返ればそうなってもおかしくないよ。だろう?」

「…………、……はい、それは……まあ」


 まだ納得しきれていない真嶋(ましま)

 でも、そう思った方が自分の心を守れると、本能的に理解している。




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