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第9話 メッセージの主

 次の日、一日中、ずっとうわの空で授業など何をしていたのか全く頭に残ってない。ただじれったいと思う気持ちを押し込め、時計を睨みつけていた。



 一体メッセージの差出人は誰なんだ……? 何が起こるのだろう。その後僕はどうなるんだろう。間違いなく、今から数時間後、僕は今までではありえない体験をしている。待ち遠しくてたまらない。



 自分でも意外に思ったが、何故かメッセージを書いた正体の分からない人への不安や心配はなかった。あるのは期待だけ。



  HRが終わると同時に教室を出て駆け足で屋上に向かう。いつもは三浦たちの話を少し聞いてフェードアウトするように帰るが、今日の僕はそんなことしている暇はない。CAREに注意されるが気にも留まらない。階段を二段飛ばしで上り、屋上のドアを勢いよく開けた。と同時にかけられる女性の声。



「あっ、来たね!」



 屋上にいたのは柵にもたれかかる女子生徒だった。黒紫のボブに目鼻立ちは優しく、美しい。更にどこかあどけなさが残っている、そんな顔つきをしていた。



「あっ……えっ……」



 僕は思わず声がどもった。戸惑いを隠せなかった。



 心のどこかで今までに関わったことがある人、もしくは如何にも見た目が凄そうな……そんな感じの人がいるのだろうと予想していた。でも、そこにいたのは見たことのないまだ僕と同じくらいの女子だった。唯一分かるのは同じ学校ということだけ。



 僕は顔を作り替えたのかもしれないと思い、CAREのログを見たがこの人と会話すらしていなかったことが分かる。



 名前は森沙織と言うらしい。



 ……本当に聞き覚えのない名前だ。人伝いに聞いたこともない。



 どうして僕なんかに執拗にメッセージを残したのか? とこみ上げてくる疑問。本当にこの人か? しかし、「来たね」と初めに言ったということは……。



 そんな自問自答を繰り返しているとき、不意に彼女の背負っているバッグに下げられている謎の動物のストラップに目が行った。



「そのストラップ……」



 あのサインと同じ……。



「かわいいでしょ! 私のお気に入り! 最近流行ってる奴なんだけどさ」



 サインとストラップが同じだと言いたかっただけなのだが、彼女は勘違いしたようで、ストラップを僕に見せつけ、そのストラップについて熱く語りだした。



 全く興味がないのに熱く語る彼女。屋上に来てからの予想の範疇を越えた怒涛の展開の数々に僕の頭は付いていけてなくて。



 すると、彼女は僕の顔をちらりと見て慌てて話を区切った。



「あっ、ごめんごめん。興味ないのか」



 興味がないということが表情にもろに出ていたのだろう。忘れていた、この子は現実の僕の顔が分かるんだった……。僕は慌てて取り繕おうと笑顔を作る。それを見て彼女は吹き出すように単色的な笑身を浮かべた。



「あはははっ! 笑い方すごく変だよ! いいよいいよ、私に気遣わなくて」



 なんだか恥ずかしい気分になる。



…………いや……。駄目だ、本来の目的を思い出せ。



 僕は気を取り直して彼女を見る。今の会話の内容を鑑みれば、すでに僕の現実の顔を見ているようだ。



 しかし、特段変わったところはない……。一体どうやって……?



「あの……」そう言って彼女は斜め下に俯く。



「そんなに、じろじろ見られたら恥ずかしいんだけど……」



「あっ、ごめん!」



 いつの間にか彼女に近距離まで迫っていた。



 僕は慌てて身を引く。その姿が滑稽だったのか彼女はまた笑いだした。なんだか掌の上で転がされているような心地になる。



「ごめんごめん、もう真面目に話すよ。まずはよろしくだね! 修一君」



 そう言って頭をぺこりと下げた。



「あっ、よろしく」と慌てて答える。



「いやぁ、よかったよ。あれだけだったら本当に来てくれるかちょっと心配してたんだよね~」



「そ、そうなんだ……」



 僕はそれに相槌を返すしか出来ない。会ってからずっと話の主導権を握られたままだ。僕は何しに来たんだ。聞きたいことだらけでだから来たというのに……。でも、いざ尋ねようとするも一体何から聞けばいいのか。頭は空回りするばかりで。



 しかし、彼女はそんな考えを見透かしたように、



「焦らないで、後でちゃんと説明するから。もう少し待って」



 そう言うと彼女はつかつかと僕の方に向かって歩きだし、そのまま僕の横を「ついてきて」とだけ言い残して通り過ぎる。そのままドアに向かって歩く彼女。



「えっ? どこか行くの?」



「うん、付いてきて」



 それだけ言ってドアノブに手をかけると彼女は思い出したようにこちらを振り向く。



「あっ、私のことは沙織って呼んでいいよ」



 それだけ言うと、沙織は返事を待たず屋上を後にした。



 完全に沙織の勢いに乗せられて何も出来てない。調子が狂い続けている。



 そんなことを思いつつも、胸は高鳴り続けたままで。その場で軽い身震いをすると、軽やかな足取りで沙織の後を追った。







♦お願い♦

最後までお読みくださりありがとうございます。

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少しでも小説で笑顔になる人を増やしていけるといいな〜

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