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第47話 半分で上等

 そのまま車に乗り込むと、八木が口を開く。


「それで、最初の話に戻るが……」


「……うん。……分かってる。やる………。やらないと……」


 桃谷の顔が脳裏に浮かんで。


 これからは逃げたら駄目だと分かっていた。これを逃げたらもう自分を一生許せない……。


「……学校に戻ってください。これだけは俺がやらないといけない……」


 俺は出来るだけ強い気持ちを込めて言ったつもりだが、声に自信が無いことは自分でも分かった。


 くそ、こんなんじゃまた伝えられずに終わるぞ……。


 そう悶々とした中、自分への激励の言葉をかけ続ける俺。だが、どれもしっくりとこない。


 そんな中だった。八木が口を開く。


「これは助言になるか分からないが、未来の自分に期待しすぎるなよ」


「……どういう……?」


「俺も最近大失敗してな、その時気付いたんだ。俺はそれ以前に100パーセント上手くいく予定で言うことを考えていたことにさ……。そんなの俺が行けるわけないんだよ。緊張もする。結局、100パーセントの予定で行ったから何もできなくて0パーセントで……。それなら最初から完璧にいかないことを考慮しておけば良かったって思ってな。50パーセントでも仕方ないと思えば、最低これだけはしておくことを持っとけば、まだ上手くやれたかなって」


 八木は説明の仕方が気に食わなかったのか、言った後に少し首をひねって、


「まぁ、無理だろうって分かってるんだったら、完璧求めるんじゃなくて、これだけはやるってことを思えばまだ楽な気がするって話だ」


 これだけは伝えるか……。


 そう考えていた内に、学校に戻ってきた俺と修一と八木。八木が言うには、俺と修一の席にはもう既にアンドロイドが入れ替わって授業を受けている。


 教室の前につくと、修一はCAREを取り外し、八木に渡す。


 八木は修一のCAREに三浦のデータをインストールし始める。新たなCAREの支給を待つとしばらくかかるそうで、修一のCAREを使うことになったのだ。それが終わり次第、桃谷と話しあうという状況なのだが……。


 席順から桃谷らしき人を見つけて、修一に桃谷で間違えていないか尋ねる。修一は神妙な顔をして頷いた。


 俺は教室の窓を通じて授業を受ける桃谷に視線を向けた。


 桃谷の口元は緩みきっている。表情から幸せオーラが読み取れて……胸が痛む。


 さらに何度も授業を受ける拡張現実上の俺のいる方に視線を向け、その度に顔を一層綻ばせてすぐに視線を外している。


 そのいじらしい姿がこれほどまで胸を抉ってくるとは……罪悪感で見れない。見たくない。


 でも、こんな所で逃げてたら何も言えないまま終わってしまう。


 もう自分の頭を角に押し付けて……。少しでも痛めつけようとした。もう、無茶苦茶に殴りつけたかった。自分で自分を強く殴れないことを恨むほどに。


「インストールが終わった」


 八木の神妙で大きくはない声、でもはっきりと聞き取れた。途端に緊張感が一気に喉もとまで迫ってくる。頭の中にあるもの全てが空回りし始める感覚。


 最後に数秒の間、俺は桃谷を見つめた。出来るだけ罪悪感を保つために……。瞼に焼き付けるために。


「俺たちは近くにいるよ」


 八木はそう言って修一のCAREを渡してくる。


「…………はい」


 CAREを装着した。途端に八木と修一の姿は消え、周りの景色はいつもの学校に戻る。


 それとほとんど同時にチャイムが鳴った。俺は屋上に向かう。ドアを開けると、一気に風が吹き込み緊張で火照った体の熱を奪っていく。だが、全然熱いままで……。


 少しすると、ドアが開く音がして、ドアの陰から桃谷が姿を現す。命令通りに拡張現実の三浦は桃谷に屋上で待ってるから来て欲しいと言ったようだ。


「どうしたの?」


 そう尋ねる桃谷。頬はほんのりと赤くて……、どこか恥ずかしさげで……。




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