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第45話 ドン底の人生

 その時の僕は全てさらけ出した三浦を前にして今までにない衝動に駆られていた。



「なんだよそれ」



 思わずその言葉が出ていた。分かっている。自殺を考えている人にしっかりと考えられていない言葉をかけるべきではないのは分かってる。



 でも、何故か言わなきゃいけない気がして……。普段では言わないことが口から零れていた。



「どこに羨ましい要素があるんだよ。僕なんて変に本物に憧れてるから嘘を見ただけで気分が悪くなる。CAREが作った笑顔が気持ち悪いんだよ。その奥では何を考えてるか分かったもんじゃない。



だから、拡張現実上の人を知ろうとしないで、踏み込もうとしないで……。でも、現実でも沙織のこと何も分からなかった。



……分かってるんだよ。僕は沙織のことを知ろうとしなかった。ただ表面だけ見て満足していたんだよ。



結局、僕はCAREに最も影響されてたんだよ。他人の表情、声色、言葉の奥を見ないようになってた。沙織のこと何にも知らなかった……。



それで、自分の弱さを認めたくなくて逃げて……。それのどこが羨ましいんだよ……」



 もう文脈として成り立ってないし、伝えるのにはもう情報が穴だらけで……。それでも一度開いた口は止まらず、頭に思い浮かんだ言葉がそっくりそのまま口から出て行く。



 思いのたけを全て出し切って落ち着くと、最後に不意に思い浮かんだ言葉をぽつりと呟いた。



「結局、嘘に浸ろうとしても、嘘を否定しても一緒だよ」



 脳裏には八木さんの言葉が蘇った。



『お前と三浦は似ている気がする』と……。      



 指を差してどこかとは言えないが、確かに三浦と僕はきっと似てるんだろうと感覚的に理解した。多分根本が……。僕らは全く別の方向に進んでいっただけで……。



 三浦もそれを感じ取ったのかは分からないが、やるせない表情を浮かべて……。次第に表情はぐしゃぐしゃに歪んでいって、



「……じゃあ、もうどうすればいいんだよ…………」



 そう掠れた声で言うと項垂れた。



「何しても上手くいかない。何をしても上手くいくと思えない。しんどすぎるだろ」



 そう三浦が言った時、瞬間的にある言葉が蘇った。



「だから、余計に幸せになる道を探さないといけないのか……」



 清水寺で沙織からかけられた言葉だった。



 今までとは違って、客観的な視点を得ることが出来たお陰で意味を少し理解できた言葉。沙織から僕はこう見えていたんだろうなと思って。



 それはもう伝えること言葉じゃなかった。ただ、自分で自分に言い聞かせるようにポツリと言った。



 不思議そうな表情をする三浦。今度は真っすぐに目を見て、伝えようと言葉を発した。



「不幸な時はさ、普通の人より余計に幸せを探さないといけないんだと思うよ」



 それを聞いた三浦は呆けた顔をして、



「……はぁ? それが見つからないんだよ」



 と反論して……。



 その反論も十二分に理解できた。それに否定は出来なかった。僕も三浦と同じ気持ちだ。僕も完璧に心変わりして沙織の言葉を言ったわけじゃない。でも、傍から見れば、これは結局、一番確実な言葉なんだろうということは分かった。



「分かるよ。ただ苦しみを耐えるので精一杯って……。



苦しみが強すぎてもう苦しみを見たくないんだ。少しでも考えたくない。苦しまない時間以外は苦しみから遠ざかりたいんだ。だから目を背ける。



結局耐えるしか選択肢がないんだ。そんな状況で幸せになろうとか気分的に思えないよな……」



 もうさっきから目の前に三浦がいるのに、気を抜くと、自分に言い聞かすように話してしまっていて……。



 だから、三浦もよく分からないのか口を挟んでこない。



「でも、耐えてるだけじゃ、何も変わらないまま苦しみ続けるだけで……。頼らなきゃ、誰も助けてくれない……。スタートは自分の力で切らないといけないのは分かってるけど……」



 もう最後の方は自分に言い聞かすように話していた。一体僕は何をしてるんだろうか……。でも、今までにない衝動が僕を突き動かしてくる。



 自分で盛り上がって自分で勝手にどうすればいいか分からなくなって何してるんだよ……。






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