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第18話 甘酸っぱい映画館

 やってきた沙織の誕生日。



 僕は待ち合わせの場所に向かっていた。



 待ち合わせの場所に着くと、沙織はすでに待っている。その姿を見ると、なんだか第一関門を突破したような安心感、それとまだまだ関門は続いているという緊張感が同時に押し寄せてきて。鞄の外側からしっかりとプレゼントがあることを確認すると、この前に桃谷言われたことが頭によぎる。



 途端に心臓の高鳴っていく、沙織に近づいていくごとに比例して。



 このまま近づいていけば心臓が爆発してしまいそうだ。少しコンビニなど言って気分を落ち着けたいところだが、目が合ってしまった。もう心臓が喉の奥あたりで鼓動しているんじゃないかと錯覚するほどで。出来るだけ自然を装って他の所を見ることで緊張を少しだけでも和らげないと近づけなかった。



 ある程度近づくと、耳元でヴィィンと機械の駆動音が鳴りだし、世界がぐにゃりと歪み、色が抜け、現実世界がその先から顔をのぞかせる。



 もうすでに機器のスイッチをONにしていたようだ。



 もう二週間ぶりくらいに現実世界へ帰ってこれたんだ。緊張で一杯だった頭に高揚感が湧き上がってきたおかげで緊張に潰されることなく沙織の元に辿り着き、声を掛けれた。



「おはよう」



 どこかぎこちない様子で声をかけた。



「おはよー」



 沙織がニコリと笑って向かい入れてくれた。久しぶりに現実世界で見たこともあって沙織の笑顔に過剰に心臓が反応する。



「う、うん」



 半ば無意識に目を背け必要のない返事をしていた。また強くなった緊張をどうにか抑えようと平然を装おう。その間もほとんど真っ白の頭でどうやってプレゼントを渡したらいいか考えていて。……流石に、すぐに渡すのはがっついているみたいだから一旦後で渡そう。



「いこっか! 今日は私の好きなところについてきてくれるんだよね!」



 と沙織が口を開いた。



「あっ、うん」



 そう言って、初めに連れていかれたのは映画館だった。観たのは最近話題になっている恋愛映画だった。



 映画は現実世界では見れないので、拡張現実に戻る。顔を取り繕わなくて済むこともあり、この時だけは少しだけホッとした。



 席につき、周りを見るとなんだか今までと違った緊張感。周りはカップルらしき人ばかりで、その時点で意識してしまう。そこから自分たちもそう思われているのではないかと考えてしまう。



 そう意識してしまった時点で、平然といれる訳もなく。



「映画楽しみだね~」



 そう何気ない沙織の一言ですら意識して、それでも平然を装って、「うん、そうだね」と同意することしか出来ない。



 頭の中では二人きりで恋愛映画って……などがぐるぐると回っていて。



 それは映画が始まっても同じだった。ヒロインが言ったセリフや、ドキッとさせられる場面で、不意に沙織の声で頭の中で再現される。気付くとストーリーが先先へと進んでいく。



 結局、最後までのめり込めないままエンディングが入って終わってしまった。



 ブゥゥンと音が鳴り、現実世界に戻った僕と沙織。



「いやぁ、いい話だった」



 そう背筋を伸ばしながら言う沙織。



「そうだね」



 僕はそう頷く。のめりこめなかったけど、見ていると面白そうだというのは分かった。



「あんなさ、シンプルな恋出来たらいいよね」



 恋愛映画を見たら出てくるような感想。



 でも、人の足音にまぎれて聞こえてきた沙織の声はどこか湿っぽくて何か達観しているような声色で、スクリーンの出口に向かっていた僕は振り向いた。



 沙織はどこか遠くを見ているような……。僕が振り返っていることを気付くとすぐに笑顔を作る。その態度にがなんだか違和感を覚えて、少しの間見ていると、



「ねぇ、拡張現実の私と現実の私どっちがかわいい?」



 これは映画のワンシーンにあったセリフをもじったもので、



「えっ」



 そうは分かっていたとしてもすぐに答えられる訳はなく、恥ずかしさがこみ上げてきて思わず視線をそらしてしまう。



「ハハハハ」



 なんだか手玉に取られ少し悔しかった。でも、僕は上手い返しなど言えるわけなく。頭の中では、変に思われてないのかなという心配と、どう返せばいいんだよというぼやきで一杯で。そのまま視線を逸らしたまま映画館を後にした。





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