1色目~生まれたばかりの真っ白なぬいぐるみ
「できたわ!」
真っ暗な家の中。一人の女の子がそう喜び叫んでいました。
女の子の名前はピリカ。10歳の魔女見習いです。
「これで後はしゃべり出すのを待つだけね」
女の子が座る机の真ん前には一体のぬいぐるみ。
真っ白色なネコのぬいぐるみです。
そんなぬいぐるみの傍らには『動いてしゃべる人形の作り方』という本が置かれていました。
ピリカは魔法を使っておしゃべりができる人形を作ろうとしていたのです。
ただ、お家に人形がなかったので代わりにぬいぐるみを使ったわけですが。無事に魔法は成功したようです。
シュワシュワと白い煙がぬいぐるみから噴き出すと、次の瞬間。
ぴょいっとぬいぐるみは起き上がりました。
「ごきげんよう、リトルレディ! ボクを生み出してくれたのは君だね? すばらしい、本当に感謝しているよ!」
そう言って丁寧におじぎをするぬいぐるみ。
ですが、ピリカの顔は何故か不満そうでした。
「……思ってたのと、なんか違う」
「ええっ!? どうして…こんなにも紳士でステキじゃないか。なのにどこがダメなんだい?」
ピリカの言葉に驚くぬいぐるみは、彼女の顔をずずいっと覗き込みます。
そんなぬいぐるみの顔を押しながらピリカは言いました。
「すっごく優しいぬいぐるみが良いって願ったけれど…あたしが思ってたのはもっと落ち着いてるっていうか、大人っぽいぬいぐるみだったんだもん」
それを聞いてぬいぐるみはがっかりとうなだれてしまいます。
しかし、すぐにぬいぐるみは元気を取り戻します。
「そ、それは―――つまり…ボクの良さがまだ君に伝わっていないからだね! 大丈夫だよリトルレディ。ボクのすばらしさ、カッコよさはすぐに見せられると思うからさ!」
とても明るく前向きなぬいぐるみ。
クルクルとその場を回るとぬいぐるみはピリカの前で片ひざをつきました。
「なんたってボクは君を守るナイトになるんだから。困ったときは一緒に悩んであげるし、助けが必要なときは一緒に叫んであげるよ」
とても賑やかに話すぬいぐるみに、少しばかり戸惑うピリカですが、彼女は「わかった」とうなずきました。
「それじゃあ早速、よろしくのあいさつだね」
そう言ってぬいぐるみはピリカの手を取り、その手の甲に自分の頭を寄せます。
どうやら『口づけ』をしているつもりのようです。
「ところで…リトルレディ、いくつか質問があるのだけれど…良いかな?」
「なに?」
「ボクの名前はなんて言うんだい? ボク自身が付けても良いなら付けるけど―――」
「ププだよ」
その名前を聞いたとたん、ぬいぐるみの動きがピタリと止まりました。
小さな声で「ププ…」と呟いており、名前に不満があるようでした。
しかし、ピリカが小さな頃から『ププ』と呼んで大切にしていたネコのぬいぐるみ。
その名前を変えるつもりはありません。
「…仕方がない。百歩ゆずってププという名前で満足しようじゃないか。けれど、もう一つだけゆずれないものがあるんだ」
「なあに…?」
「この白色のボディ…なんとかならないかな?」
クルクルと見せつけるように回るぬいぐるみのププ。
ですが、そのお願いにもピリカは良い顔をしません。
「多分むずかしいわ。魔法を掛けてできたモノはね…魔法の力が注がれた布生地や色の素を使わないといけないから…」
「つまりは魔法で生み出されたボクをカスタムするには、魔法の力が込められた材料が必要だと…?」
こくんと頷くピリカ。
「すばらしいよ! 魔法の力が込められた材料で身体の色が変わるなんてステキじゃないか!」
そう言ってププはとても大喜びします。
一方でピリカはよりいっそうと不安な顔を浮かべています。
「そんな簡単に言わないでよ…取りに行くのってすごく大変なんだから…」
「確かに大変かもしれない…けれど、君はボクを生み出せた才能があるじゃないか」
「そ、それは…そこまでむずかしいことじゃなかったから…」
「それにボクだっているよ! ボクが一緒なら百人力さ。何があっても必ずリトルレディを守ってあげるよ」
だから行こうよ。
そうせがまれてしまい、ピリカは断ることができませんでした。
「…わかった」
「ありがとうリトルレディ! それじゃあ早速、材料集めに行こうじゃないか!」
ププはおじぎをしてそう言うとピリカの手を引っ張って、早速出かけようとします。
「待って。何色になりたいかで集めに行く場所が違うの…何色に変わりたいの…?」
足を止め、しばらくププは考えます。
それからポンと手を合わせ、言いました。
「レインボー?」
「それはイヤ」