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異世界王女、日本を学ぶ  作者: 万間宮
6/7

ファンタジーか現実か

 画面を覗き込んだ鳴道は、小さく口を開けたままスマートフォンを受け取った。画像検索欄をスワイプすると、漫画の一コマであろう、ルルそっくりのイラストが次々表示される。

「見せていただけませんか」

 声の主を見る。

 真相はあっけなく単純なものだったのか?

 ルルは真剣なまなざしで鳴道の左手ごと液晶画面を包み込んだ。彼女に委ねながら、鳴道は先ほど公園にいた姿を思い返していた。

「これが本当に私の事ならば、オーフォンテのことを信じていただけます」

 鳴道の疑心とは裏腹に、ルルは確信を得ていたようだった。

 信じるも何も、現状このイラストがあるということは、“ルル・ベリット”は架空のキャラクターであり、実在しているこの少女は“扮している何者か”のはずだ。

 しかしながら、彼女は全く動じることなく、一縷の望みを見つけていた。

 鳴道は混乱していた。コスプレイヤーが人を騙していたとして、こんなに堂々としていられるものなのか?

 いつの間にか部屋に行っていたらしい美鈴は、リビングに戻るとダイニングテーブルに5冊のコミックを積んだ。

「マイナー漫画だから騙せると思った?残念だけど私『ディスデス』のファンなの。全部知ってるから」

 手に取り捲ると、勇者のような男性キャラクターと共に、「ルル」と呼ばれる、まさにルルそのもののキャラクターが頻繁に登場していた。2巻の表紙は、まさに今彼女が身に着けている赤いドレスが艶やかに描かれている。

「……これは本当に、オーフォンテの物語なのですか」

 コミックを手に取ったルルが呟くと、美鈴は呆れたように答える。

「もうそのキャラいいから。さっきから言ってるでしょ?ルル・ベリットはオーフォンテ王国の王女様。王族だけが許される深紅のドレスを着てるの。みんな魔法が使えるんだけど――」

 鳴道は、聞きながら涙をこぼすルルを見た。

「この本にはオーフォンテの史実が書かれているのですね」

「は?いや、漫画じゃん」

「私の国が存在しない世界に来てしまったのだと思っていました。ミスズさま、あなたがオーフォンテの証人でいてくれて、何と言えばいいか……」

 しびれを切らした美鈴は、ルルから漫画を取り上げた。

「だから、漫画って言ってるじゃん!ファンタジー!創作なの!」

 創作、という単語を耳にしてルルは動きを止めた。

 漫画そのものを手にしてもなおオーフォンテの存在を語り続けていた彼女は、そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだった。

「……この子、マジでヤバいんじゃないの」

 美鈴は鳴道にそっと耳打ちした。

 まるで信じがたいことだが、ルルのこの反応の筋道が最も正しくあるために、考え得る答えはひとつだった。

「この物語の舞台がどこかに実在していて、ルルさんはその世界から日本にやってきた――」

 口に出しながら、どこか冷静な自分が何を言っているのだとため息を漏らす。

 鳴道の代わりというように、美鈴がツッコむ。

「バカバカしっ。転生モノみたいな……」

「でもあの時……俺が声を掛けなかったら、誰にも助けを求められないままだったんだよ」

 ルルは顔を上げた。

 あり得ることとあり得ないこと、両者の正しさを比較するよりも、今の鳴道は自らが見てきたものを信じたかった。

「スマホも持ってないし、交番でも保護してもらえなくて、理由ははっきり分かんなくても、一人にしちゃいけないって思って……」

「男ってなんでこんなバカなんだろ……」

「違ぇから!こう、変な下心とかじゃなくて、うまく言えないんだけど……」

 大きな咳払いをしたのは母親だった。

「日本語の研究してる人がそんなもごもご言っちゃって情けない!」

 痛い点を突かれて、鳴道は言語化をあきらめた。

「今日のところはご飯食べて、お風呂入って、寝て、明日元気に起きる!帰れない女の子をこんな時間に追い出せないわよ」

 きっぱりと言い切られると、その場にいた誰ももう何も言いださなかった。

 テキパキと用意されるがまま、無言の食卓を囲む。

 ルルはほんの少しだけで良いと断り、初めてのカレーを口に運んだ。小さなサラダボウルに盛られたそれを食べて、彼女はこの味を国のみんなに伝えたいと思った。

 鳴道は、黙り込んだままのその姿を見つめていた。

 できれば、彼女に安心して食事をとらせたかった。



「ねぇ」

 ゲストルームへと向かうルルに声を掛けたのは美鈴だった。

 母親がどこからか引っぱり出してきたスウェットの上下は、美しい顔と髪には不釣り合いで少しシュールだ。

 ばつが悪そうに目を逸らすルルに、美鈴の気持ちは揺らぐことなく、むしろその俯き方に彼女の“罪悪感”を見たような気がした。

「全然信用できてないから先言っとくけど、あなたにとっては家出してるだけでも、兄ちゃんはあなたを誘拐して勝手に連れて帰った奴にされちゃうの。警察に捕まるかもしれないの、わかる?」

「警察は、交番にいる人、ですよね」

 鈍いその回答に、美鈴は顔をしかめる。

「私の言いたいことが分かるなら朝起きてすぐ家に帰って」

 でも、と振り向いて続けた。

「本気で分かんないなら、明日ちゃんと話を聞くよ」

 バスルームに向かう背中をルルはじっと見つめていた。




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