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ただ事ではないと思った三名が屋敷からワタワタと出てきます。


一人の騎士が前に出ました。


「我々は王国騎士団の者だ。

ダニー・クラベリック、マナビリア・クラベリック、そしてエリア・クラベリック。

お前たちには違法呪具保有、そして使用の疑いで捕縛状が下された!」


一枚の紙を掲げて、その内容を読み上げる騎士の方。


お父様は困惑している様子だけれども、その顔色は悪くなり、そしてマナビリアさんとエリアさんは心当たりがあるから、青褪め、そして震えていました。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!呪具の使用?保有?心当たりがない!何かの間違いだ!!」


お父様が無罪を騎士の方に訴えます。

お父様自身は呪具とは無関係と主張していますが、完全に無関係ではありません。

お父様のその手でお母様にお渡ししていたのですから。


「…法、そして陛下の決定に異を唱えると?」


「い、いえ…決してそのような…」


ギロリと睨まれたお父様は小さく縮こまりました。


「…これはスターレンズ公爵と王族直属の調査隊による調査結果に基づく決定だ。

無実であるというならば法廷で述べよ」


「………ッ」


お父様が口を閉ざす姿を確認して、書状を掲げていた騎士の方が後ろにいた騎士の皆さんに指示を出しました。

一人の騎士がお父様につき、そしてマナビリアとエリアには各二人の騎士がつきます。


「ちょっと待ってよ!なんで私達だけなのよ!アイツは!?

アイツだけ捕まらないなんておかしいじゃない!」


「……どういうことだ?」


「どういうことだじゃないわよ!普通に考えて一緒の家に暮らしてたんだから、アイツも”保有していた”に当てはまるじゃない!」


エリアの言葉に騎士の人がマナビリアに視線を向けます。


「…あの子のブレスレットを調べてみる事ね」


ニヤリとした笑みを私に向けるマナビリアは、どうやら私も道連れにしようとしているみたいでした。


ミーラが慌てて口を開こうとする姿が横目に映り、私は咄嗟に魔法でミーラの口を塞ぎます。


「くくくっ」


「な、なにがおかしいの…」


殿下が面白そうに笑いだします。

マナビリアはあれだけお茶会に参加していたにも関わらず、殿下の顔を知らないのか、殿下を睨みつけました。


「ねぇ、アンタさ本当にこれが呪具だと言ってるの?」


「…そうよ」


「アニー嬢、この腕輪はどこでもらった?」


殿下の問いかけに私は胸を張り、そして少し顎を引きました。


「この腕輪はお母様から譲り受けた品物です。

まだお父様とお母様が婚姻する前、お父様にプレゼントされたと言っていました」


「な!?」


私の言葉にお父様が驚愕します。

……お父様はお母様にプレゼントした物を覚えていないのでしょうね。


「おい、“男爵”。お前は先程自分は無罪と言っていたな。

お前が“プレゼント”したアクセサリーを、お前の女は“呪具”だと言ってるんだが?」


「知らない!私は本当に知らない!

呪具だっていうのもこの女のでたらめに違いない!」


「アニー嬢、あれを」


「はい。…ミーラ、殿下に呪具探知機をお渡しして」


探知機を持っていたミーラに殿下に渡すように告げ、私は手首に嵌めていたブレスレットを外して手を伸ばしていたヴァル様に手渡しました。


「これは公爵家で保有している呪具探知機だ。

呪具と判断したものに触れると点灯する仕組みになっている」


「探知機…?ならば早くブレスレットを試してみてくれ!!!

絶対呪具なんかではない!!!」


そんなお父様の願いもむなしく、私がヴァル様にお渡しした腕輪はお父様の目の前でもピーという音を奏で点灯しました。


「そ、そんな…そんな馬鹿なことが…」


「衝撃を受けているところ悪いが、これだけではない。

お前が”クラベリック前侯爵”にプレゼントしたありとあらゆる品物が呪具だと判明した」


「その通りです。私が確認しました」


一歩前に出て告げると、ギロッとまるで人を殺せるかのような目つきで睨まれました。

でも怯むつもりはありません。


「ですが見つけた呪具は全て”端末”であり、親機ではありませんでした」


「…ほぉ、ちなみにだがこんな話は聞いたことはないか?

”呪術者は発信機である親機を常に身につけているものなのだ”と」


殿下とヴァル様は一歩ずつ、ゆっくりとした歩行でマナビリアに歩み寄ります。


「そしてもう一つ、”クラベリック侯爵夫人は常に血のように真っ赤なネックレスを身につけている”」


ビクリと体を跳ねらせるマナビリアは、伸ばされたヴァル様の手から逃れようと暴れだしました。


「あああああああああ!!!触れるな!私に触れるなああああああ!!!」


だけど二人の騎士がマナビリアを押さえつけていたために、どう暴れても逃げることは出来ませんでした。


ブチッとチェーンが切れ、真っ赤なネックレスがヴァル様の手に収まりました。

殿下がそのネックレスに呪具探知機を当て…


そして「ピー」と呪具探知機が鳴り響きました。



「貴族を殺害した罪、そして保有・使用禁止物違法の罪でお前は処刑されるだろう」


殿下がマナビリアを見下ろしてそう告げました。


「…うまく…全てうまくいっていたのに……」


「お前がいなければ私達は幸せに過ごせていたのよ!!!疫病神が!!」


「そうだ…、そうだ!全てお前が悪いんだ!」


マナビリア、エリア、そしてお父様と、次々と浴びせられる暴言に私は眉を顰めました。

「黙れ」と騎士の方々が三人の顔を地面に押し付けます。

口が強制的に閉ざされたため言葉での責めはなくなりましたが、視線は相も変わらずに鋭いままでした。


「お父様、呪具だと知らなかったは言い訳にしかなりません。

貴族として、見聞を深めることをお勧めします」


「”マナビリア”、平民の貴女が貴族を死に追いやった罪、きちんと償っていただきます」


「そしてエリア。

貴女も同様の罪で裁かれるでしょう」


言いたいことは沢山あります。

ですがこの方たちに言っても無駄な気がして、私は最低限の言葉だけを一人一人目を合わせて言いました。


私はヴァル様、そして騎士の皆さんと目を合わせました。


すると先程も聞いたドドドドドドドドドという地鳴りのような馬の走行音が聞こえてきました。


「あら?もう終わったの?ざんねーん」


「公爵夫人…」


「お、君がヴァルの婚約者か!初めましてだな!」


「スターレンズ公爵…」


何をしに来たのかといえば言葉が悪いですが、心当たりのない私は首を傾げました。

そしてすかさず頭を下げます。


「初めましてアニー・クラベリックと申します。

このような場で挨拶することとなってしまい…」


「いやいい。連絡もなしに来たのは私達の方だからな」


確かに夫人は陛下にお父様の事、そして領地の現状を報告してくださるとは言っていましたが……。


「陛下直々の言葉を届けに来た。

“ダニー・クラベリック!人々の手本になるべき存在の貴族が率先して法を犯し、更には能力不足が領地を治めるなど豪語同断!貴様から身分を剥奪する!”

だってさ」


「ま、待ってくれ!能力不足?!私は今までうまくやって…」


「誰に対して口を聞いている」


「うっ、…しかし私は今までもうまくやってきました。

それなのに能力不足で身分を剥奪…納得ができません」


「前侯爵が亡くなった後の数年間の帳簿は既に見た。意味も分かっていない数字の羅列に頭が痛くなったよ。

この分だとアニー嬢が出て行ってからのこの数カ月の帳簿は果たしてどうなっているのか……それに他の領地に比べて異常な程の税の高さに、この邸の現状…ハハハ。

今まで耐えてきていたアニー嬢や使用人たちには尊敬に値するな」


そういえば私、邸の管理と侯爵の仕事に手が一杯で手伝い始めた以前の帳簿にはまだ手がつけれていませんでしたわ。


「な、何故あの子供の名前が出てくるんだ…?」


「……はぁ…。お前の理解力には期待できんな。

だが一つ教えてやろう。


”領地管理は決してお前ごときが出来るものではない”


さて!アニー嬢よ、ダニー・クラベリックが当主から外された今クラベリック侯爵の爵位を継ぐのは君だ。

……君はクラベリック領をどうしたい?」


スターレンズ公爵にそう問われ、私はずっと考えていたことをこの場で話しました。



「私は…」










あれから私は公爵家に戻り、ヴァル様の婚約者として教育を受け、そして遂にヴァル様の妻として白いドレスを身に纏っていました。


お母様の形見としてずっと手首に嵌められていたブレスレットは呪具の為もうありませんが、代わりにヴァル様から贈られた指輪が輝いています。


「肯定されてしまえば困るが………後悔はしていないか?」


「しておりません」


侯爵として後を継ぐという事は、次期公爵のヴァル様との結婚が難しいという事でもあります。

家族だと思っていた方々に裏切られ利用されてきた私は、本当に愛する方と共になりたい。

今度こそ、幸せになりたいと思っているのです。


「それに……」


「それに?」


首を傾げるヴァル様に私はにこりと微笑みました。


「私すごく我儘なのです」




あの時スターレンズ公爵、ヴァル様のお父様から問われた私は王家への領地返上を願いました。


将来お母様のような立派な領主として侯爵を継ぐことを目指して勉学に育んでいましたが、このような問題を起こしてしまった私には資格がないと諦めました。


ですが魔法使いとして殿下に貢献し、そして私が行ってきた領主管理能力をかってくれた陛下がスターレンズ公爵にそのままクラベリック領を与えてくださると約束してくれたのです。


ちなみにこの事はまだヴァル様は知りません。









そして数年後、魔法使いだということを明かした私は名乗り出ることを恐れていた魔法使いたちを旧クラベリック領に招き、様々な魔道具を開発していきました。


有り得ないほどに高い税を課せ、領民が逃げてしまった旧クラベリック領は今とても繁栄しています。



私はお母様の遺体を旧クラベリック領全てを見渡せるよう高い場所に移しました。

そして立派な墓に、私はヴァル様と一緒に綺麗な花を置いて手を合わせます。


(お母様、見てくれていますか?)



お母様との”魔法を使えることは内緒”という約束は破ってしまいましたが、でもとても信頼できる方たちなのです。



だからこそお母様の土地をここまで繁栄させることができ、そして私も愛する人と幸せに暮らすことが出来ました。



あ、そうそう。お父様とマナビリア、そしてエリアの処罰についてご報告しますね。


お父様は平民への降格。

ただの能力不足なら元々男爵の身分だったお父様は降格しても貴族の籍は失わずにすんでいたかもしれませんが、どうやら呪術に協力したという事実が平民へと降格した原因らしいです。

勿論本当に知らなかったことと、私の実の父親ということもあり陛下の恩情で命までは取ることはなさりませんでした。


そしてマナビリア。

貴族であったお母様の殺害と私の洗脳、そして呪術者という点から極刑が下されました。


またエリアについてもマナビリアと同様極刑が下されました。

エリアは呪術者としての能力は低いと判断されたらしいのですが、マナビリアと共に呪術を行う積極性が決め手となったというものです。

どうやら娼婦だったマナビリアの代わりにエリアが長い間呪具を購入していたことが明らかにされ、

そしてエリアの部屋から見つかった呪具も、侯爵家を辞めた”誰か”を呪おうと新たに購入した呪具だとわかったのです。

そしてあの水晶は然程出来は良くないそうですが、探しモノを見つけるための魔道具らしいです。

誰を探そうとしていたのかわかりませんが、それでも簡単に人を呪ったり、殺そうとする行為も思考も、本当に許すことが出来ないことをする人たちでした。


勿論彼女たちの極刑は既に執行されております。



(だから安心してくださいね)






そして私はヴァル様と共に手を繋いで、私の今の家に帰りました。








end


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[良い点] ・主人公の相手役の性格が面白かった。あのまま意図を伝えられない空回り君でも良かった気がする [気になる点] 大団円ですが主人公が自分に権利のある爵位と領地を手放したのが残念でした。 爵位を…
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