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Bright  作者: 中山洋平
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俺と親友の『ブッチ』

俺には、20年くらいの付き合いになる親友がいるんだよ。

歳は俺より3つ上で俺からしたら年の近い兄弟みたいな感覚だ。


そいつと知り合ったのは刑務所の中なんだけど、俺が当時28歳だったか。

その年で親友ができるなんて、なかなか無いよな。


とても物静かな奴で、怒っているのをほとんど見たことがない。


いや、2回だけあるがブッチの女友達が俺の大切なギターを壊してしまった時と、俺がお世話になってた東京都品川区の生活福祉課の担当職員が横柄だった時だ。


いずれも俺は大して気にしていなかったが、ブッチは俺が馬鹿にされたと思ったようでめちゃくちゃ切れてた。


『おお、こいつも怒ることあるんだな。』

と驚くとともに

『自分が馬鹿にされても怒ったことなんかないのに、仲間の為ならここまでブチ切れるなんていい奴だな』て思ったよ。


俺は刑務所を出て以来彼女の一人もできず孤独な夜を過ごしているが、ブッチは性格がよく、顔もよいので女にとてももてる。



出所してからは自分の部屋に引きこもっているが、まぁ一言で言うと「植物みたいなやつ」だよ。

よく、俺たちは『面白いくらい正反対なコンビですね』って言われるわ。


俺なんかは、すぐに熱くなって突っ走るタイプだけど、俺の親友の『ブッチ』は常に物静か。


科学や政治、宗教、生物の進化についてなど、二人で議論することが多いんだが、意見も考え方も全く違うから何時間も議論が続く。


初めて会った時の印象だが

「なんで、こんなおとなしそうなやつが刑務所なんかにいるんだ?」

って思ったよ。


大麻の栽培で逮捕されたというのは仲良くなってから聞いたんだけど、まぁ納得できたわ。

人に迷惑をかけるような奴じゃぁないからね。


心の優しい、おとなしい奴だからさ。


何人かの受刑者が共同で生活する『雑居房』で一緒に生活してたんだけど、話が合うし刑務所の中では常に一緒に行動してたな。


過剰収容が問題となってて、雑居房も8人部屋に11人収容されていたり、たった3畳しかない独居房に2人で収容されたりと受刑者へのストレスも半端じゃなかったけど、俺とブッチは二人で相談して


「性格の合わない懲役と2人一組で同じ部屋にされる前に、俺たちからオヤジに頼んで同じ部屋にしてもらおうぜ」


ということになり、半年くらい二人で3畳しかない部屋での共同生活を送ってたよ。



俺は、その後同じ工場の『谷口』っていう奴に喧嘩を吹っ掛けられて、挑発に乗ってしまい喧嘩騒ぎを起こして懲罰送りとなり、工場も変えられ、数年間はブッチと顔をあわせる機会がなかったんだが、俺もブッチも刑務所の中でそれぞれ協力者が大勢いて、手紙のやり取りなんかはできていたので連絡はちょこちょこ取りあってた。



手紙っていっても郵便ポストが有るわけでもないし、配達員なんかもちろんいない、そもそも手紙のやり取りは禁止されている。



刑務所の中では、受刑者の生活や身の回りの世話は受刑者自身で行うんだよ。


例えば、ご飯を作る『調理工場』

受刑者たちの洗濯物を洗濯する『洗濯工場』


そして、受刑者たちにご飯を配膳する『配食係』

工場や刑務所施設内を掃除する『衛生係』


老朽化した施設の点検や修繕を担当する『営繕』


刑務所内も高齢化が進んでいて、寝たきりや認知症の高齢受刑者のお世話をする受刑者たちもいる。



前置きが長くなったが、手紙のやり取りについては、刑務官に見つかると『不正連絡』という懲罰対象事案となってしまうため手紙のやり取りをどうしていたかって言うと、居室舎房の配食を担当する受刑者に


『おい、この手紙を○○工場の○○に届けてくれや』

と、頼むことが多かった。


舎房配食担当の受刑者が、配食時や食器下げの時に、他の工場の受刑者とすれ違う一瞬の隙を見計らって、他の工場受刑者に手渡し、渡された受刑者は更に他の工場の配食担当受刑者に


『○○工場の○○さんから、○○工場の○○さんまで』


って具合にまわりまわって大抵数日で宛先まで届く。

この刑務所独自の郵便システムがあって俺もブッチも活用していた。


俺は天涯孤独という人生を生きてきたので、出所後は行く当てもなく、迎えに来てくれる家族もいない、所持金もほとんどない事から出所後はどうしたらよいか何か良い考えもなかったが、ブッチがとても心配してくれていて


「俺のほうが一足早く出所するからお前の出所日には俺が迎えに来てやるから、俺の実家に来いよ」

と申し出てくれた。


刑務所では、『俺は組長だから出所したら面倒見てやる』とか『俺は実は大きな会社を経営している社長だから出所後は面倒見てやる』なんて嘘で他の受刑者のマウントを取りたがる奴が本当に多いから、ブッチの申し出もありがたいとは思いながらも半分はあてにしていなかったんだ。



だけど、ブッチは出所後も偽名を使って娑婆から俺に宛てて手紙を書いてくれたりしてくれて、俺の出所の日は何と本当に迎えに来てくれたんだ。



しかも、ブッチの父親も一緒に。


俺はブッチの両親から『ゴンちゃん』と呼ばれているんだが、ブッチの親父さんは遠く離れた自分の家から、刑期を終えたとはいえ元犯罪者である俺のため車を運転して俺の出所時間に合わせて来てくれて疲れた顔や嫌な顔は一切見せず。


『ゴンちゃん、息子がお世話になりました。せっかく自由になったんだから行きたいところあったら言って。みんなで寄り道して帰ろう』


なんて言ってくれたんだ。

俺は

『ガンダムが見たいっす!!』

とお願いして、当時静岡に設置されていた等身大のガンダムを見に連れて行ってもらったよ。


子供のころから大好きだったガンダムが、等身大で目の前に。胸から煙を吐いて、首も動いてる姿を見たとき、童心に帰り

『す、すっげえぇぇぇっ!!』

と素直に感動したよ。


そのご、ブッチの親父さんの提案で『三保松原』を三人で散策したっけ。

それから、しばらくブッチの実家にお世話になることになったんだ。

毎日お母さんが手作りのごはん作ってくれて、毎日風呂に入って、ふかふかの布団で寝かせてもらい、刑務所でたまりにたまったストレスや疲れを癒させてもらったんだ。


そして、今も俺にとってブッチは一番の親友であり、会う機会は少なくなってしなったが、ブッチのご両親もたまに顔を出すと温かく迎え入れてくれる。


俺は、あまり人から歓迎されたことはない人生を生きてきたので、ご両親が歓迎してくれるのが照れ臭いやら嬉しいやらで、感情が追い付かずついつい照れ隠しで変なことを言ってしまう。


そんな出会いも刑務所にはあった。


まぁ、そんな感動的な出会いは少ないが刑務所には本当に色んな人種が国の境を超えて大勢収容されているので勉強になることも多い。


中国人の貧しい農村に生まれた『チェン』の身の上話を聞いたときは、流石に度肝を抜かれたし気のいい若者の『チェン』が体験した壮絶な人生を聞かされた時は、貧富の差というものが俺たち人間を支配しているという事実に腹が立った。


チェンの話はこの次の機会に話すよ。





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