表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Bright  作者: 中山洋平
5/7

俺とデカ

 

両手にわっぱをかけられて、俺は警察車両に乗せられ新宿早稲田の警察署に連行された。


まず取調室に連行され、取り調べ刑事と監視官と3人きりで取り調べを受けることとなった。


自分が、詐欺という犯罪行為を行ったかどうか。

という罪状認否から調べられるわけだが、もう捕まってる以上ここで嘘をついたり白を切る必要もないので俺はすべて認め捜査に協力的な姿勢を示すことにした。


もともと、詐欺なんてやりたいわけではなかったんだ。

それが、どういうわけか詐欺を行うことになってしまったんだよなぁ。


俺は若いころ裏カジノのディーラーとして働いてたんだよ。

金も、そこそこ良い給料をもらえるし、元々暴力団員として所属していた事務所にカジノ関係者が出入りしていて、そのカジノ関係者が


「店で料理のできる人材を探している」


と、当時の兄貴分に相談していたところ

「おい、お前料理得意だろ。手伝ってやれ」


と言われカジノでキッチンシェフとして働くようになったんだよな。


そんなことをしばらく続けているうちに、見張り、ディーラー、黒服と本格的にカジノの店員として働くようになり、親しい客も多くなっていったんだ。


そんな客の中の一人に「お前もいつまでもこんな仕事してたんじゃ世に出れないぞ、俺がいい仕事紹介してやる」と言われ案内された会社が、パチンコ攻略法やら競馬の裏情報なんかを取り扱う会社だったんだ。


まぁ、もちろん詐欺なんだけど、その会社自身が雑誌を出版してたり、パチンコ攻略用のショールーム持ってたり、事務所も渋谷の道玄坂にあるでかいビルのテナントだったから、初めはまともな会社なのかと騙されちまったよ。


俺は結構営業でも肉体労働でも頭脳労働でもこなせるほうなんだが、そこでも俺はどういうわけか持ち前の器用さを発揮してしまい成績が良く、周りの社員たちから

「入社したばかりで、毎日売上作るような新人今まで見たことない」

なんて言われて俺も調子に乗ってたんだろうな。



そこのリーダー格の人に

「違う部署で実力を発揮してもらいたい、そこで良い結果を出せれば君のやりたいことを仕事にするために会社が資金面でも支援する」


なんて言われて、「これはチャンスだ、金がじゃんじゃん入ってくればドラッグを買う金も困らないし、遊ぶ金にも困らない。ここで成功して念願の自分の飲食店を持たせてもらおう」って胸を躍らせて行ってみたら超本格的な詐欺やらされることになっちまったんだ。


まぁ、それでも詐欺とわかってて俺も片棒担いじまったんだから、誰のせいにもできないよな。


安易な道を選んじまった俺がいけないんだ。


詐欺をやっているころは金もじゃんじゃん入ってくるし、そのあたりの感覚がマヒしてたんだろうな。


少しでも早く金を貯めて、当時付き合ってた彼女と結婚してマンションを買おうなんて甘い夢見て人を騙してたわけだし、捕まったのは全部自業自得ってわけだ。



それでも、俺たちが捕まったあと、すぐに首謀者たちが海外に逃亡したと聞いて腹もたったし、刑事に質問されたことは全部正直に話した。


おかげで取り調べ初日から連日、朝の9時から夜の21時まで、ず~っと取り調べが続いた。


特殊な詐欺に加え組織犯罪ということで、裁判も何度も開廷され検察庁にも何度も取り調べで呼び出され留置場に1年近く留置されることになった。


当時俺の取り調べ刑事だった鳥取警察署の刑事さんには大変感謝している。

今俺がこうして立ち直ることができたのも、その刑事さんのおかげと言える。


俺の取り調べを1年近く担当していた中で、俺の生い立ちについても知ることになった刑事は取り調べのたびにコーラとコーヒーを差し入れしてくれて(*当時は取り調べ中の喫煙や飲食が許されていた)調べの合間に雑談を交わすようになり、俺に立ち直ってほしいと常に口にしてくれていた。


1年近く続いた取り調べの最終日にはケーキを食べきれないほど買ってきてくれて、パソコンでDVDを観せてくれたんだが、その内容は貧しさや苦労にも負けずひたむきに生きる在日外国人のドキュメンタリーだった。


その刑事は俺にどうしても観せたかったと後で話していた。



俺が刑務所に入ってからも、手紙をくれたり、小説を送ってくれたりした。

俺はそれまで、少年ジャンプ以外の本を読んだことがなかったが、その刑事のおかげで小説や本を読む楽しみを知った。


今でも印象深いのは、刑務所に入ってすぐ、その刑事から届いた絵葉書だ。


でっかいひまわりの絵葉書に

「負けるな、がんばれ」

とだけ書いてあった。


空手が趣味で、口下手な、無骨丸出しの刑事の姿が目に浮かび、思わず笑っちまったが、なんかありがたくて涙が出ちまったよ。


警察のルールも年々厳しくなり、手紙などのやり取りもできなくなっちまって、その刑事さんとのやり取りもできなくなっちまったけど、また会えることが有ったらぜひお礼を言いたい。


ガキのころから、毎日覚せい剤やって、人を騙したり脅したり奪って生きてきたことを知ってる、あの刑事さんに

 

「俺!!あれから犯罪は一つも犯してません!!あんたのおかげだよ!!ありがとうっ!!」


って言ったら、「馬鹿野郎」って笑ってくれるだろうな。


今も立派な人間になれたわけじゃなく、失った10年間を埋めるのに必死だけど


あの刑事さんが俺のことを本気で思ってくれたのが伝わったから俺は立ち直ることができたんだと思う。


俺が立ち直ることができたのは、多くの人の思いや、本気の熱い言葉があったからだと思う。


でもよぅ。

人間なかなか急には変われないんだわ。


今でも腹の立つことがあると、場所も時間も関係なく喧嘩したり、理不尽なことをされたり言われたりすると、相手が怖がるまで脅しつけたりはしちゃうんだよなぁ。


刑事さん。

俺もまだまだ修行が足りないよな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ