雑居だよ!!全員集合!!
いよいよ本格的に懲役生活がはじまる。雑居房での集団生活。これが最もつらいといえるかもしれな。そんな刑務所の日常をご紹介します。「は~~~~い一名様ご案内」
俺がこの刑務所に収監されて1か月ほどが経った。
刑務所に収監されて2週間ほど新入工場での訓練を受けてきたわけだが、今日からいよいよ一般工場に配属され【懲役】としてお務めを果たさなければならない。
【懲役】とは読んで字のごとく【懲らしめられる役】というくらいだから決して楽な暮らしではない。
そんなことは当たり前だが、一般の懲役は『雑居房』と呼ばれる大部屋で、数人の懲役と一緒に生活を送ることになる。
何が一番辛いかというと、この雑居生活における人間関係が本当につらい。
刑務所の暮らしなので、自由な時間は少ないし行動も著しく制限される。
これまで自由気ままにやりたい放題やってきた犯罪者たちにとって自由を制限されることは最も重大な懲らしめと言えるだろう。
刑務官からは24時間監視され、タバコも吸えない。
読書や勉強ですら一日2時間ほどしかできない。
とは言え、自由気ままが信条の懲役たちの中で、向上心をもって勉強に励む人間などほんの一握りだが。
とにかく、自由を奪われた懲らしめられる男たちは年がら年中ストレスをため込んで生活している。
いつ爆発してもおかしくないパンパンの風船みたいなもんだ。
そんな荒くれたちが、たった10畳ほどの部屋で8人からの人数で共同生活を送るのだ。
自分のスペースは1畳ほどしかない。
仲の良い懲役が集まって生活できればなんの問題もない。
しかし、
「先生、僕はあの人と一緒の部屋がいいです」「僕はあの人と同じ部屋は嫌です」
なんて希望が通るようであれば懲らしめられる役とは言えない。
そんなことを言い出せば、鬼のような顔した刑務官から
「お前はここに何しに来てるんだぁっっ!!」
と、怒鳴りつけられることだろう。
同部屋の人間は選ぶことはできないのだ。
しかし、ある程度刑務所側もきちんと調査をしていて、暴力団組織に属する者同士で、敵対組織にあたる者同士は基本同じ部屋にはしない。
一時期、国内最大の暴力団組織の内部抗争が激化し、刑務所の中でも殺人ですら起こりかねない雰囲気だったので、刑務所側もそのあたりは気をつけていたようだ。
今まで縁もゆかりもなかった犯罪者たちが24時間同じ部屋で、食卓を囲み、アクリル板で仕切られただけの便所で尻を出して糞を垂れている姿を笑いあい、ときにお互いの辛い境遇に涙を流して肩を叩きあう。
そんな出会いも少なくはない。
が、基本みんなストレスが溜まっている。
夜寝ているときにいびきでもかこうものなら、叩き起こされ
「おい。いびきがうるせぇんだよ横向いて寝ろや」
と脅しつけられたり、時にはいびきが原因で喧嘩に発展したりもする。
俺も何度か目撃したことがあるが
夜中寝ていると突然「ぐわああぁぁっ!!」と雄たけびが上がり何事かと飛び起きると、同部屋の懲役が血だらけになって蹲っている。
何が起きたのかと思ったが、いびきのうるささに耐えきれなくなった懲役が、いびきをかいていた懲役の顔にボールペンを突き刺したのだ。
刺したほうの懲役は、それが傷害事件として扱われ刑期が2年ほど伸びてしまった。
冷静になれば、刺したほうの懲役もそんなことをしても解決にはならないし、自分が損をすることが分かっているのだが、ストレスというものは人間から冷静な思考能力を奪うという、最も顕著な例と言えるだろう。
そういった暴力沙汰は日常茶飯事だ。
いじめなんかも結構多い。
おとなしい懲役はいじめのターゲットにされることが多い。
いじめに耐えきれなくなった懲役は自ら懲罰を受けるような行動を起こし、部屋から脱出を試みるしかない。
どのようにして、脱出を試みるかというと。
工場で割り当てられた仕事を放棄する【作業拒否】や、朝工場への出勤を拒否する【出房拒否】、工場での作業を終えて舎房に戻ってから、静まり返った時間を見計らって、刑務官が飛んでくるまで舎房の鉄扉をたたき続ける【静音阻害】などだ。
これらの反則行為を行ったものは、通常2週間ほどの懲罰を受けたのち、また新たな工場へと再配属されることとなる。
・・・なればよいのだが、たまに懲罰だけ受けて同じ工場、同じ舎房へ戻される不運な懲役もいたりする。
そういう懲役を見かけたときは、心の中でそっと
「気の毒になぁ。成仏してくれなよぁ。」
とお悔やみを申し上げるしかない。
そんなストレスだらけの暮らしが何年も続くのだ。
実際、俺も刑務所の暮らしに慣れるまでは数か月かかった。
楽しみと言ったら本を読むことくらいだ。
おかげで、今まで本など読んだこともなかったが年間80~100冊ほどのペースで読書を楽しむことはできた。
その多くはミステリー小説だったが、「この小説の物語や設定、登場人物の心理などををもっと深く理解したい」と思うようになり、小説以外にも心理学、物理、天体に関する書籍にも興味を持つようになり勉強することができた。
それまでは読書といえば「少年ジャンプ」くらいしか読んだことがなっかた俺だが、本に興味を持つようになったのも一つの大きなきっかけがあった。
それは、次の機会に聞いてくれるかい?