街
「くそ、天上界の奴らめ。」
ごおんごおんと轟音が鳴り響く空を見上げて少年がひとり呟いた。
「ああ、腹が減ったな。」
今日もゴソゴソと転がっているごみを拾い集めて売れるものと売れない物を分別していた。
「今日は少ししか取れなかったな。明日はもう一つ下の方へ行ってみるか。」
道具も何もない中金属片を集めるのは容易ではない。しかし孤児の子供ができる仕事もそれくらいしかなかったのだ。
「ははは、はは…。」
屑屋に向かう路地では目の焦点が合わずに何か笑い続けている男が何かを口に含んでいた。
「ふふふ、お兄さん、今日は楽しまない?」
そのすぐ近くでは女の人が誰か別の男に声を掛けていた。
ドシン。
「おう、小僧気負つけろ。」
ぶつかった拍子にバランスを崩すが、相手の大男は睨みつけるようにして向こうに行ってしまった。
少年は無視して袋をよいしょっと担ぎなおし、目的の屑やの扉をたたいた。
「こんにちは。」
「はーい。あれ、小僧じゃないか。今日はなんだい。」
「はい、これを買っていただきたいと。」
袋のひもを解いて中身を見せた。
「じゃあ、この中に入れてくれ。」
「はい。」
少年は部屋の隅にある機械の口に袋の中身を注ぎ込んだ。
ゴウンゴウンと機械が動き出し、金属片を分別していく。
「ふーむ、まあ1000エンぐらいだね。300エンおまけするよ。」
「ダンキーさんありがとうございます。」
1300エンの硬貨を握りしめた少年は笑顔になった。
「じゃあ、また溜まったらきてくれよ。」
「はい。」
少年は袋を腰につるして店を後にした。
「くそー、騙しやがって。バカヤロー。」
外では酔っぱらった女が道に突っ伏してしくしく泣き声をあげていた。
少年はそれを一瞥して弓なりに避けるように塒へと急いだ。
「おーい、ただいま。」
「おう、サク、いくら持ってきた。」
自分よりも体の大きな少年が顔を出す。
「はい、これだけです。」
「へっ、まあいい。お前も飲め。」
差し出されたしろい液体をごくんと飲んだ。
「あー、疲れが取れる。」
「まあ、サリアにも持っててくれ。あいつうるさいんだ。」
サリアはダイの妹だ。
「はい。」
「それから、次はお前もアレを売れよ。」
「分かりました。やり方を教えてください。」
「ヤスに聞け。」
「はい。」
ヤスは自分より年上の少年だ。
塒も結構広い。板を張り合わせた塒を次々と渡り歩く。
「ヤスさん。」
「おう、サクか。」
「アレの売り方、今度一緒にお願いします。」
「おう、量を間違えるなよ。」
「はい。」
ヤスは後ろの箱から袋を取り出した。
「いつも飲んでいるやつより大人は量が多い。間違えると報復が来るから慎重にな。」
「どのくらいですか。」
「まあ見てろって。」
その袋の中身をザザーと蓆の上に流した。
「まあ、この位だ。」
軽くひと掬いと言ったところか。
「はい。」
「あまりに壊れたやつには売るな。」
「はい。」
「代金はもらえねえ。」
「はい。」
「女には少し多めにが、こつだ。」
「はい。」
「また来てくれる。」
「はい。」
「それに時に壊れたやつじゃなく、たくさんの量を買っていくやつがいるが、これは定量だ。」
「はい。」
「多くても少なくてもいけない。」
「はい。」
「じゃあ、明日ついてこい。」
「はい。」
後はダイの妹の所へ寄る。
「サリアさん。」
「いいわよ。」
「失礼します。」
中では酸えた臭いと、何か獣のような臭いがした。
「ダイさんから、これを。」
「はは、待ってたわ。」
袋をバシッと受け取ると、その中の塊を口に含んだ。
「ああ、最高。」
その顔がトロンとなる。
「それでは失礼します。」
サクはサリアの塒を後にした。