第七章≧四部∞故郷
白銀の世界も寝静まった頃、赤い髪が起き上がった。ジェネシスは1人起き上がり、防具や荷物を身に付け、背中に大きな剣を巻き付ける。
そして音もなく全員が寝ているこの広場から立ち去ろうとした。
「ジェネシス?どうしたの?」
眠そうな目を擦りながら腰を起こす金髪の少女。
「寝てろ。」
慌てたように、しかし他に誰も起こさないように怒鳴る。
「ヤダ、私決めたもん。」
まっすぐジェネシスを見つめる。それは決意なのか意地なのか自信なのか、本人でもわからないものだった。
ジェネシスは困ったように頭を掻く。
「だったら早くしてくれ。お嬢にもいい機会かも知れないからな。」
意味深な言葉も寝起きだからか流して聞き入れた。
とりあえず了承を得ることが出来たので、せっせと準備し下宿所から出ていく。そしてまたこの場所が安息の場となった。
「行かなくてよいのか?」
「なんの事ですか?」
「素直じゃないのぉ。キララもぬしも変わらんもんじゃろが。」
夜の雪道は予想以上に歩き辛く、月明かりも無いのでジェネシスの持っているカンテラだけが頼りだった。
「どこ行くの?」
寒さと暗さでジェネシスにぴったりくっついているキララが呟く。
「行けばわかるよ。」
「だって私、北に来たの始めてだし。」
「場所がわからなくてもお嬢には意味がある場所だよ。」
複雑な道だが段々と山を登っているのがわかった。
そして見晴らしの良い場所に出る。遠くの方には大きな城があったであろう、今では崩れた岩地と化している場所が見えた。
「あそこが本当のガルバジア王国。今じゃあんな小さな町になってるがな。」
キララはふーんと間抜けな返事をした。
ジェネシスは崖になっているギリギリの場所まで行く。その先には2つのお墓が寄り添うようにそこにいた。
キララもジェネシスを追いかけてお墓に寄る。
ジェネシスはお墓の前で立ち止まりお墓を悲しそうな目で見つめる。沈黙の時間が少しだけその場を支配する。
「ハリナ、出てこいよ。着いてきてるのは知ってんだぞ。」
ジェネシスがやわらかい言葉で言うと、後ろの方の木の影から真っ黒い髪の少女が出てきた。
「こっちこい。」
少女もジェネシスの言う通りに近寄る。
「ダグラス様、リナ様。キララとハリナです。大きくなりましたよ。」
ジェネシスはしゃがんでお墓に喋りかける。それをそっと見守る2人。
「2人ともお2人にそっくりですよ。キララはリナ様のようにやさしく、ハリナはダグラス様のようにたくましくなりました。」
しんみりとする口調。
「残念ながら普通の生活は無理でした。やはりお2人の子でした。」
クスリと笑うジェネシス。2人は段々とこの2つのお墓が、なんのお墓なのかがわかり始めていた。
「オレ自信もダグラス様までとは言いませんが力を着けてきました。またお手合わせよろしくお願いします。また来ます。」
立ち上がりお墓に背を向けて歩き始める。
それを見て慌てて着いていくキララ。スターはゆっくりと追いかけていく。
「ジェネシス!」
「なんだ?」
止まらず、振り返らずに言葉を返すジェネシス。
「あのお墓って私のお父さんとお母さん?」
ジェネシスはなにも答えない。
「ハリナってスターの事?スターって私の姉妹なの?」
足早に来た道を戻っていく。ジェネシスは沈黙を保ったままだった。
「ねぇ、ジェネシス!答えてよ。」
その言葉でいきなり立ち止まるジェネシス。
「あの墓はお嬢の父と母だよ。」
ゆっくりと、自分の言葉を噛み締めながら言う。
「ハリナはスターでスターはお嬢の妹だ。」
キララは返す言葉を失った。
「そして2人は双子。力を分けた唯一無二の家族だ。」
架空のような話し。キララはそんなことをはいそうですかと言えるほどこの状況を飲み込めなかった。
「冗談言わないでよ。」
唸るように言う。キララは真っ赤になった両手を握りしめる。
「いきなりなによ。」
断片的に吐かれる言葉。
「信じられるわけないじゃん。」
寒さからか、ちょっとだけ震えていた。
「信じられなくてもそれが真実だ。」
「なんで今更言うのよ!」
詰まり詰まった思いが束になった出る。
「ずっとずっと、隠してたわけ!?」
「あぁ。」
素直に置かれていく言葉を拾いながら、
「私はなんなの?」
一番の疑問をぶつけた。それに回答が戻ってこない時間が長く続いた。
「お嬢は…」
急に開かれた口。
「オレの大事な人だよ。」
そこにスターが近寄る。
「そうか。大事なのは姉さんだけか。」
意地悪くスターが言い放つ。ジェネシスは困った顔をした。
「まいっなぁ。スターも大切だよ。」
スターがクスクスと笑う。
「まったくだからレイ様もお前に着いて行くのだな。やっと理解できた。」
ジェネシスは小さくため息をつく。
「ハリナだっけ?スター。」
キララが聞く。
「ハリナはやめてくれ、姉さん。オレはそんなに偉くない。」
キララは笑顔になり、
「じゃぁスターも、姉さんはやめてキララって呼んでよね。」
「あぁ、」
2人は肩を並べるとまるで別人のようだった。しかし、ジェネシスにも入ることの出来ない場所がそこにはあった。
それを確認するかのように2人は手を繋いだ。
「はじめまして、妹。」
「はじめまして、姉。」
白銀の世界に2匹の蝶が出合い、咲くことのない永久凍地の木に止まり、今また羽ばたこうとしている。
行き場所は決まっていて2人とも一緒にずっといられる。そんな気がした。
まだ、この寒さが序の口の世界に入ったばかりの蝶は幸せだった。




