第七章≧三部∞寒さ
雪が深々と積もっている地域、北の地に足を踏み入れた。
「寒い。」
キララは白い息を悴んだ手に吐きかける。
「ぬしは初めてじゃな。どうじゃ?雪の感触は?」
そんなことを言われても寒さで手足の感覚が無くなっていて感触とか、歩いてる感覚すらすでに無い。
「ジェネシス、町によろう。キララが死ぬぞ。」
「そうだな。もう少しで町だから我慢しろよ。」
すぐに町に着いた。そして温かな室内でさえもキララは手を擦り、凍えた体を微動させている。
「ここに風呂はあるか?」
フロントでスターはそう訊ねる。
「奥にあります。」
業務的に対応する宿主に会釈し、スターはキララの側により、
「風呂に行こう。それが一番だ。」
と言い、手を引っ張って奥へと進んだ。
だだっぴろい脱衣場で旅服を脱ぎ、お風呂場に入る。
足下は冷えておりずっと付けているだけでまた体がブルッと震える。
「何をしている。こっちにこい。」
スターに手を引かれお湯の溜まった場所の手前まで連れていかれる。
「目、つぶれ。」
言われるがままに目を閉じるキララ。
「一瞬息を止めろよ!」
止めた瞬間だった。
頭から熱いものがかかり驚きの余り転ける。
「暴れるな。怪我するぞ。」
と言ってもう一度桶に湯船のお湯を入れかける。
「熱いよ!」
「凍え死ぬよりましだろ。」
もう一度ぶっかける。
キララの冷えきった体が段々と温まっていく。手足はジンジンとして火傷したような痛みがあった。
スターは自分も一度頭からお湯を被り湯船に入る。湯船に溜まったお湯が溢れだしキララの足に触れる。
両腕を湯船の縁に乗せて気持ち良さそうに声を漏らすスター。
「はやく入れ。冷えるぞ。」
片目で睨み付けられたキララは我に戻ったように立ち上がり、ゆっくりと足を入れる。
そうしてると後ろから押され頭からお湯に入っていき、水しぶきが上がった。
「あはは!キララ大丈夫?」
「なにするのよ!マモリ!危ないじゃない!」
湯船から勢いよく立ち上がりよく響く風呂場で怒鳴る。
「さっさと入ってさっさと出た方が気持ちいいよ。そんなゆっくりしてないで。」
と言い湯船にダイブする。飛び散るお湯を顔に浴びながらため息をつくスター。
「みんなでお風呂。楽しいな。」
マモリが愉快そうに歌い始める。キララはまたゆっくりと肩までつかる。
「マモリは寒いの平気なの?」
マモリは、ん?とかわいく後ろを向きにこやかな顔でキララを見据えた。
「森だって雪降ったりするからね。中部地区の北側生まれだから寒いの慣れてるんだ。」
ふーんとあどけない声を発して口を湯船に入れてブクブクと息を吹いた。
またマモリが歌い始めた。
「なにやら楽しそうじゃな。」
「あ!レイ様!」
マモリが大きく手を振る。
「空いとるかな?」
「空いてますよ。」
「じゃぁおじゃまさせていただくか。」
レイもまた近くに置いてあった桶で湯船のお湯をすくい肩からゆっくりと被る。
ゆっくりと湯船につかる。
「あぁ。気持ち良いのぉ。」
「レイ様、老いてますよ。」
とスターが言った瞬間スターはお湯に顔を埋められていた。ばしゃばしゃと手をもがくが頭を鷲掴みされているためはずれない。
「なにか言ったかな?」
ブクブクと泡が上がる。
「反省したか?」
頭を縦に振る。
「本当だな?」
また縦に振る。
「そうか。」
と言ったが手を水から上げさせようとしない。
「レイ様…死んじゃいますよ。」
「そうだな。ワシを侮辱した罰じゃ。」
そのうちもがくことを止めたスター。
「死んでません?死んでますよ!?」
「どこがじゃ。ったく悪知恵がはたらくのぉ。」
と言って手を離した。しかしスターは上がって来ない。
「大丈夫ですよね。」
「あぁ。」
「ほんとに?」
「あ、あぁ。」
「まだ上がって来ませんよ。」
「大丈夫か?」
レイが心配する素振りを見せた瞬間だった。バザッと水しぶきが上がり平然そうな顔をしてにやりて笑った。
「全然大丈夫ですよ。レ・イ・さ・ま。」
その瞬間だった。レイは爆笑し肩までつかる。
「してやられたわ。まったく、若いもんには敵わんの。」
愉快なのは間違いないが、どこか悲しそうな顔をしている。
「ここまでにして下さったのはレイ様ですよ。」
ゆっくりとため息をつくスター。
「そうですよ。レイ様がいなかったら私はずっと子供でしたし。」
レイに向かってニッコリと微笑んで見せたキララ。
「頼もしくなったもんじゃな。」
「なにを老いているんですか。老いるのはゾフィをギャフンと言わせてからですよ。」
「わかっとるわ。」
そのあと水の流れる音のみがのどかに響いた。
「どうでも良いがこやつは大丈夫か?」
レイが目で目の前のマモリをさす。
「マモリ〜、へいき〜?」
キララの間抜けな声が響いた。少し間を置いても言葉が帰ってこない。
「マモリ〜?」
キララはマモリに手をかけ顔を覗いた。
顔は真っ赤になり、目を回していた。
「…のぼせてます。」
「めんどいのぉ。よし、でるかのぉ。」
なんやかんやでマモリを脱衣場まで連れていき横にして少し放置する。
旅服は洗濯するために今日の所は寝間着に着替える3人。
「ほい、いるかの?」
レイが茶色い液体の入ったビンを四本持ってきた。
「オレ、貰います。」
不思議そうにそれを眺めるキララ。
「キララ、とりあえず飲んでみぃ。湯上がりの一杯も上手いぞ。」
キララは無理やり渡された。口の部分には紙で蓋がされていた。それを綺麗に取り、一口飲む。
「美味しい…」
「じゃろ。」
こんなに美味しい物を飲んだのは始めてだった。笑顔のレイも蓋をあけ一気に飲み干す。
「あぁ、たまらんのぉ。」
やっぱり老いているのは気にしないことにしたスター。スターもまた一気に飲み干す。
「レイ様。マモリに飲ませますので、いただきます。」
と言ってもう一本貰った。そのまま全裸の状態で横になっているマモリのそばに寄っていくスター。
マモリを起こし、蓋をあけたビンを口に持っていき傾かせる。
するとよみがえったように目は開ききり勢いよくビンを奪い取り、立ち上がりマモリもまた一気に飲み干す。
「くぅー、たまらないね。この為に生きてるよ、うん。」
突っ込むのも挫折するくらい変化ぶりが急だった。
「さっさと着替えろよ。ワシは先に部屋に戻っておるぞ。」
「はーい。」
少ししてキララたちも寝室に向かうのだった。
翌日、曇天の空に白銀の天使が舞い降りてくるそんな朝だった。
一行はすでに旅支度を終えておりすでに町を出発していた。
キララも昨日の教訓を生かし町で買ったコートを着ていた。
これから何日も歩き続け北の果て、フィルデスタへと向かう。
そこへ向かうのには最後の補給地の町となるガルバジア。特に名産品があるわけでもなく、ただの民家が密集した場所である。
そんな所に宿があるわけがなく、下宿所のような所に一泊することになった。