第三章∞過去、真実は眠りて
きらきら星と流れ星の意味がここに…
とても、静かなよる。毎日のように降り続ける雪。普遍的に続く日常。変わらない人達の想い。それは数字で表された1と0の無限の羅列が無限と続けられた時間の中で全く変わらずに続いてきた。
軸が狂ったのは何時からだろうか。誰があの変わらない世界を破壊したのか。私は何をしたのだろうか。あぁ、記憶が壊れていく。
ここはどこ、私は何者。記憶にあるのはあの雪道を歩いてきた事だけ。
「お目覚めかな?」
目をゆっくりと開く。霞んでよく見えない。ただ、ガラス越しに一人の子供がいる事はわかる。その子は喋っているのではなく思念波によって語り掛けてくる。
「君の力が欲しいんだ。」
たまに浮き上がる気泡が視界を邪魔して結局のところよく見えない。
「こっちおいでよ。」
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ものスゴいノイズ。頭の中をグルグル掻き回されているかのような感覚。
「………さ…」
遠くになにか聞こえる。助けて…
「…ナ……」
助けて…
「リナさま!」
ハッと目を覚ましたリナ。冷や汗をかいており、大変心配したイヴは隣で十字架を持ってリナの体を揺さぶり名前を叫んでいたようだ。
「よかった、」
イヴはひと安心し一息つく。
「ありがとう。嫌な夢を見たようだ。」
まだ息が荒いリナ。しかし十字架を見て明らかにおかしいと思ったのか聞いてみた。
「え!?変ですか?」
リナはゆっくりと頷く。
「やっぱりニンニクですかね?」
とどこからともなくたくさんのニンニクが束ねられた紐が出てきた。
「お前はドラキュラ退治でも行くつもりか?」
そこにジェネシスが口を割って入ってきた。
「これも違うのか?!」
騒ぎがひどく、ドアの向こうには団員全員が野次馬と化していた。
「リナ様、お平気ですか?」
「大丈夫よ、ジェネシス。」
ジェネシスはリナの右手首をとる。
「少し落ち着いて下さい。ただの悪魔のイタズラですから。」
「悪魔だってニンニクに…」
「黙ってろ!」
ドアの向こうから野次が飛んできた。それ以降ニンニクは出て来なかったと言う。
「大丈夫でしょうか、」
大きな部屋にジェネシスとフィークがいる。
「さぁぁな。ただの悪夢にしてはおかしいと思わねぇか。」
「はい。しかし、本当に悪魔の仕業とは、」
「そうとは限らねぇ。ただ、悪魔と言うよりは神がやったと言えるかもな。」
出産も近い。安静にさせなければ。
「結界を敷きます。」
「お前がかぁ?」
「はい。」
「勝手にしやがれぇ。」
ジェネシスはその場を走って出ていった。
「ゾフィめ。何をそんなに怖がっているのだ。」
無事に結界を敷き、それ以来悪夢は見なくなった。そして時は順調に過ぎていった。
オギャア、オギャア、
産まれたのだ。元気な女の子。しかも、2人。
「リナ様!双子ですよ!」
イヴが片方を抱きジェネシスがもう片方をリナに渡した。
「良かったわ。」
リナの緊張の糸が切れた。涙が溢れてくる。
「どっちも女の子です。名前はどうします!」
「あんまり急かすな、イヴ。」
いつものやり取りがここでも行われる。
「先に産まれた子は夜空に一番輝いて欲しい、キララ。後に産まれた子は流れ星のように力強くあって欲しい、ハリナ。」
イヴは相変わらず気持ちを高ぶらせている。
「じゃぁこっちの子が、キララちゃん。」
「いや、ハリナだ。」
その場は笑いに包まれた。
それからリナは度々母親の顔をするようになった。誰よりもキララとハリナを愛し、誰よりもこの子達を守ろうとしたに違いない。
そして、事件が起きた。
結界が破られた。
「みぃつけた。神の子。」
ゾフィが一人で攻めて来たのだ。
しかし、それをすでに予想していた。フィークは、ジェネシスとマッシュとイヴを引き連れ、真っ正面から戦いを挑んだ。
雪は何を見守ったのか。どちらが勝ったのか、それは本人達でもわからなかった。
「お前ら!城の中に戻れ!」
それは逃げろの合図だった。フィークを置いて。
3人はおのおの拡散し、ジェネシスがリナの所に行った。
「リナ様!」
リナは窓辺に座り外を見ていた。ジェネシスの声に反応しない。
「リナ様!」
気付いていないのか?
「ジェネシス。」
「はい。」
ジェネシスが驚いた。
「キララをお願い。」
何を言っているんだ。ジェネシスは理解することが出来なかった。
「普通の生活をさせてあげて。」
ジェネシスは取り乱した。
「お願いね。」
いつのまにかジェネシスの隣にいた。肩に触れそのままドアから出ていった。
リナの顔を見れなかった。冷静な口調だが…。
リナは外に出た。
「なにしてんだ!さっさと行け!」
薄い寝間着に裸足で雪空の中に立った。
「フィーク、ハリナをお願い。」
顔は泣いていた。なにを思っているのだ。
「バカ言うなぁ!あいつらにはお前が必要なんだよ!」
「普通の生活をさせてあげて。」
フィークの話を聞いていないようだ。
「ははは!見つけた!」
抑えつけていたゾフィが瞬間移動の如くリナに向かった。
【聖徳の槍】
リナの出された右手から光輝くものがゾフィの心臓を捕えた。
「貴方の相手は私、」
【聖域】
そして消えて行った。子供2人を置いて。
いつから歯車が狂いはじめたのか。ジェネシスは自分を責めた。しかしリナは戻って来ることはなかった。
イヴはリナを探すために旅に出た。まだ生きていると信じて。
マッシュは団を抜けた。理由は不明だ。
キララ、ハリナ。お前達には何を教えて、何に嘘をついたらいいのか。
「おい、ジェネシス。」
「はい。」
ジェネシスはまだ迷宮をさまよっていた。
「キララを南に連れていけ。」
「なぜです!」
急な話だった。
「2人を離して置く。いいな。」
何を考えているんだ。
「そして必ずリナのこと、双子であること、王族であることを言うなよ。」
ジェネシスは理解しなかった。しようとしなかった。ただ、今は言う通りにしようとしか考えなかった。
ジェネシスは南に旅をすることにした。キララと2人で。
フィークはハリナを団の後継者として育てる事にした。本当の名前を伏せて。
そして、今に至る。
第三章終了!物語はここから始まる!