第一章 第三話 因縁
僕は気がつくと、床で寝ていた、それに窓から見える景色がもう朝だと伝えている。
もう朝ではない、既に朝になっていた。状況を整理する、昨日の夕方頃に奈々葉と話して、奈々葉が帰った後に、読書しようとしたら、耳鳴りが聞こえて、オメガって聞こえて…そうだ、オメガって聞こえた。そう聞こえたのだけは覚えている。
ふと、僕の足元に何かがあるのに気づく、それを拾い上げる為に、手を伸ばす。その時だった。
僕の頭の中に、急速に情報が入ってくる、それはこのアイテムに関する説明だった。
今、僕が持っている物は『ギリシギア』僕が『ギリシ能力』を使用する時に使うらしい…なんだ?なんだよギリシ能力って?能力を僕が使う?大体、能力が使えるって漫画じゃないんだから…
でも機械種が世界に蔓延ってるんだし、あり得るのかも…っというより、この能力…?が機械種が出現したのと同じタイミングで出てくるって情報、本当ならこれって…
僕が長考しているその時だった、下の階からお母さんの声が聞こえた。
「晴翔〜朝ごはん食べなさ〜い?」
「…!お母さん…?」
僕は不思議に思う。いつもは仕事が忙しくて、ずっといないお母さんが朝食を作るなんて、っと思いつつも、僕はとりあえず下の階に向かう、机には僕の朝食が置いてあった。そして携帯電話で大事な話をしているお母さんがいた。
「お、おはよう…お母さん」
「あ、晴翔?それ、さっさと食べちゃいなさい?」
「う、うん…」
「あ、はい変わりました和泉です、例の取引の話は…」
よく分からない会話を聞きながらご飯を食べる。お母さんはたまに手料理を作ってくれる。とても美味しくて一番好きな料理だ。だけど最近は忙しくて作ってくれない。
お母さんはIT系?の会社に勤めてて、結構偉い立場の人らしい。僕にはよくわからない。
「それじゃ、お母さん、もうお仕事出るからね」
「あ、うん、いってらっしゃい〜」
お母さんが家を出て仕事へ行く、僕はギリシギアの事、ギリシ能力について考えてみる。…ギリシギアはギリシ能力を使う為に必要になるアイテム。…僕のギリシギアは『オメガギア』って名前で、どんな能力なのかも分からない、でもギリシギアの使い方は知ってる。
確か、ギリシギアを僕の腕に装着して、ボタンを押せば、能力が体全体に流れるんだっけ…?僕が誰かに説明する様に使ってみると、その瞬間、頭から足のつま先全てに電流が流れてきた。
「アガッァ!ア、ニギィ!グゲガガガ、アガガガガガガァァァァァァァァァ!!!!!」
僕は絶叫する。僕のイメージはこんなのじゃなかった。初めて能力を使って、謎の力に目覚めて、不思議な気持ちになったり、学園で力に目覚めて無双する様な、車に轢かれて別の世界に転生して、そんな感じなのかなとか、でもこれは違った。ただただ苦しいだけだった。今にも止めたかった。
「ウググググググ!グワアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
だけど、止まらなかった。苦しくても、痛くても、気絶しようにも気絶できない様になっていて、何故か死ななかった。でも、人間はやっぱり慣れてしまう物だった。この電流にも耐えられる様になっていった。そして、電流は急にピタリと止まった
「ふぅ…ふぅ…ふぅ…な、なんなんだよこれ…」
電流が僕に流れただけ。ただそれだけ、力を手に入れた感覚が無かった。僕はむしゃくしゃして椅子を蹴った。何かに起こりたくなった、けど一旦落ち着くことにした。
数分経った頃に、とりあえずいつものように生活しようと思い、リビングの扉のドアノブを開けようとした。その瞬間、ドアノブに静電気が走った、灰色の稲妻がピカッと光ってドアノブに纏わりついた。え?なにこれ?何この稲妻?ドアノブに触ってみようと思ったものの、触った瞬間感電するかもしれない、そう思ってフォークを近づける事にしてみた。
フォークを近づけると、灰色の稲妻がフォークに纏わりついてきた。僕はそれに驚き、フォークを落としそうになる、そしてドアノブから離すと、ドアノブの方に稲妻が戻った。フォークはなんとか掴んだが、分かったこともある。まず、この稲妻は僕に感電しないって事と、この稲妻はどうやら『静電気』らしい。本当に能力を手にしたのか?でも、これが幻覚って可能性も…と思うがそれも束の間、僕のスマホから水色の稲妻が出ている事に気づいた。これって『Wi-Fiの電磁波』が見えてるって事なんじゃ…?
僕は家から出て、外を見てみる。水色の稲妻がそこら中に見える。電柱のケーブルは黄色の稲妻が纏われていて、地面にはオレンジ色の稲妻が微妙に流れている。薄目で見ると、空気中には黄緑色の稲妻が流れている。歩き出すと、視界に見えるもの全部、カラフルな稲妻が見える。こんなにも楽しい散歩をした事がなかった、ただ歩いているだけで楽しくなった。
だけど、そんな事も束の間、急に体が震えた。違う、疼いた。厨二病とかで体が疼くみたいな、そんなのじゃない、中で何かが動く感触に鳥肌が立つ。周りの人が、僕に心配をかけてくれる、僕は、路地裏に逃げ込む、そして、僕は吐き気を感じる。
「う、うゥゥゥゥゥゥゥゥ………」
唸り声を、上げる、僕は、今、無性に、何かを、殺したくなった、その瞬間、腕に付いているギリシギアから音が聞こえた。
『OMEGA』
その音が聞こえ、自分の体に黒金色の稲妻が僕の体を纏った、その瞬間、僕の頭にまた色々な情報が急速に入ってきた。近くに機械反応があるのに気づく、大体4つの反応、明手根公園辺りらしい、僕は興味本位でそこに向かう、向かう為に飛び上がった、視界が急に高くなる、10階建てのビルの屋上が見える、一回ジャンプしただけで、ビルを越す高さまで飛んだ。そのまま僕は進もうとした、まるで飛行機みたいに、空を飛んでいた。
明手根公園に着地した時、下に何かがいた気がする、それを容赦なく踏み潰す、機械が壊れる音が聞こえる、前には数人の人間、そして、右手が黒の液体に染まっている男がいる。その男は此方を向き驚いた表情をしたが、ニヤリと笑い、
「…おもしれぇ、やってやろうじゃねぇか」
と言って僕の方に近づいてきた。僕は威嚇するように唸る。だが男は怯むどころか歩くスピードを上げ、気づいた頃には僕の顔に蹴りを入れようとした。それを僕は回避し男の横腹に拳を入れる、しかしそれを読んでいたかのように男はするりと躱し、男は右手を僕に当てようとする。僕はそれに驚いたが、何とか頭を下げて避ける事が出来た。
そして僕は気づいた。この男の右手の爪が異常なほどに伸びているに、これがもし、この男の右手に黒い液体が付いている事と関係しているなら、先ほどまでこの男の足元に虫っぽい機械種が転がっていた事と関係しているなら、マズイ、あれを食らえば確実にマズイ、僕の額から変な汗が出てくる、しかし、男は未だに僕の方を向き、舌を舐め回し僕を見ていた。
その瞬間だった。男の後ろ側から銃声が聞こえた。どうやら後ろにいた兵士の様な格好をした男が放った物らしい。
「…これは警告だ、お前らが誰かは分からん、だがこのまま戦い続けると言うのなら、次は本当に撃つぞ」
「…俺が気持ちよく闘ってただろ…あ〜あ、萎〜えた萎えた」
そう言った男は右手についた黒い液体を振り払い、異様に伸びた爪はどんどん縮み、最終的に普通の爪に戻った。男はそのまま僕の方を向き、
「…大喰 刃だ、また会う時まで覚えとけ」
とだけ言い残し、男はフラフラと歩きながらその場から去った。僕は…その男に、親近感が湧いていた。
「…それで?そこのお前はどうするんだ?俺達と戦うのか?尻尾巻いて逃げんのか?えぇ?」
銃を持った男がそう言って僕に銃を構える。僕は何か言おうとしたけど、先程まで戦っていた疲労感がどっとやってきた。僕はその瞬間、その場に倒れてしまった。
「お、おい、お前どうしたんだ…!お前ら、こいつ運べ…………………」
何か言ってる…運ぶ…?運って何処に…?でも、僕はそんな考えをする暇もなく、意識を失った。