9
炊き出しを終えて帰路についていた。
ルイスが言うところによると、今日はいつもよりも人が多かったらしい。
恐らく疫病の影響もあるのだろうと。
浮かない顔でそれを話ながら先を行く炊き出しの集団を見つめる。
少し子供の増えたその集団、孤児になった子供達を引き取っているのだそうだ。
孤児になった子供を全て引き取る約定が結ばれたのは今代皇帝の方針だとか。
代わりにその分寄進を増やす事になっている。
おかげで王都のスラムは大分小さくなっており、治安もよくなっている。
そして育った子供は国力になる。
教会としても恩を売りながら信者を作れるのでお互いに特の多い方策だ。
巷では賢帝と呼ばれている皇帝だが、ルイスに言わせて見れば。
「陛下は子供好きすぎるから」
と笑っていたけどな、アンジェから聞いたことだから間違いないそうだ。
その話を聞きながら、先を行く賑やかな集団を見ながら帰路を行くのだった。
その夜教会に泊めてもらう事になったら兄妹揃って子供達の遊び相手をする事になったのは自然な流れなのだろう。
それにしても子供達は本当に元気の塊だった。
そうして夜は過ぎていく。
翌日、教会で少し寝坊したらルイスにたたき起こされた俺は工房にきていた。
「それでお兄ちゃん、これから何を作るの?」
「今日はそうだな、お役立ち道具だな」
「なにそれ?」
「見せた方が早いな、あの棚から4番の瓶とあっちの棚から7番の布をとってきてくれ」
そういってルイスに持ってきてもらった素材を加工していく。
途中アンジェも登場して興味津々に見つめている。
魔法袋、警戒鈴、魔法発動体の腕輪、通信の機能のあるイヤリング、身代りの指輪等々
ルイスに素材を運んでもらって二組ずつ作っていく。
それを魔法袋に入れて二人に渡して終了。
「えっと、お兄ちゃん、これって?」
「なんだ、昨日言ってただろ?魔法袋だ、そこそこ入る容量の」
「えっと、なんか一杯入ってるんですけど、ロイド様は探索の準備をされていたんですよね?」
「そうだぞ?心置きなく探索する為には後顧の憂いがあっては困るからな?護身用の道具を渡しておかないと安心していけないだろ?」
「そりゃそうだけど、護身用って……これ二組あるけど、もう一つはアンジェの?」
「え!?」
「他に誰かいるのか?」
「いえ、あの、えっと、こんな凄い物、どれだけの対価がいるのか……」
「ああ、それなら工房の素材の代金払っといてくれればいいぞ、一つ作るも二つ作るも大差ないし。」
「えっと、それは報酬の内にはいってますよ?」
「ん?そうなのか、それならー……考え付かん」
まずい、つい作ったから押し付けようとしたの思ったのに理由が無い。
思わず頭に手をやるとクスクスとルイスが笑っている。
「もう、難しい事考えないでプレゼントしちゃいなよ、お姫様なんだからプレゼントなんて貰い慣れてるって、ね?」
「いや、ちょっと、ルイス!そんなことないって!そりゃ貴族達からもらう事はあるけど……」
「でしょでしょ?だから気にする事ないよ?」
「でもでも!こんな風にもらった事なんてない!」
気まずい、凄く気まずい!この空気で渡す勇気なんてないぞ!なにせ俺はひきこもr
「ほら!お兄ちゃんちゃんと言う!」
急に思考の最中でルイスによってアンジェと向き合わされてしまった
「えっとな、あの、あー、うん…」
「えっと、はい」
「それな、代金はいいからもらってくれ」
「えっと、いいのですか?」
「ああ、お前達に作ったんだからもらってくれ」
「あ、ありがとうございます!」
恥ずかしくて顔が見れない。
いやルイス、お前のせいなのになんでそんな笑ってるんだって!って、今度はその悪い笑みで近寄ってきてこれ以上何たくらんでやg
「ねえ。アンジェ、折角のプレゼントなんだからお兄ちゃんにつけてもらおうよ」
「え、ルイス!?そんなこといったらご迷惑じゃ」
「いいのいいの!引きこもりの甲斐性のないお兄ちゃんのこんな姿滅多に見られないんだからもっと楽しまなくちゃ」
おい、どういう理由だ
「ほら!お兄ちゃんつけて♪」
そういって袋から出した装飾を一つずつ渡されるがままにつけることに。
最後に指輪を渡して薬指出してきた時には頬が引きつったが。
「ありがと!じゃあ次アンジェね!ほらほら!」
そういってアンジェを前に押し出してきて袋の中から渡されて同じ事を繰り返す。
いや、指輪を薬指まで真似しないでいいっていうか真似しないでくれよ!っておい!ルイスそのニタニタ笑い狙ってただろ!
「ほら、お兄ちゃん、は・や・く♪」
平静を装って真っ赤になったアンジェの指に指輪を通す。
「あ、ありがとうございます!」
真っ赤なアンジェに礼を言われるが目を見られない。
「アンジェよかったねー!それにしてもお兄ちゃんも隅におけないね!」
ニヤニヤ顔のルイスの頭を鷲掴みにして
「誰のせいかな?」
笑顔で問いかける。
「えっと、おこった?」
「逆に聞くが怒らないと思ったか?」
「やりすぎちゃった♪」
そういってテヘッっと舌を出すルイス、あざと可愛いんだけどそうするって事は分かってるな?
「あたりまえだろおおおおお」
「みぎゃあああああああああ!!!アンジェたすけてえええええ!!」
そうした騒がしい兄妹のやり取りが耳に入っているのかいないのか、アンジェはそのままボーっと1点をみつめていたのだった。
その後二人でお茶してこいと追い出して自分で使う物を準備していく。
途中失敗して爆発したけど、まぁこの位は問題ない、その為の工房だ。
部屋中煙で換気に20分かかったけど問題ない、管理人が引きつった笑いをしていたけどな。
そうして俺は作業を進めていく、途中大声で叫んで暴れているような音が聞こえたけど関係なく。
そうして作った物資を種類を分けて袋に入れて完了。
時間が余ったので帰路に使ったポーションの補充と素材の補充もしておく。
そうしていると夕方になったのでルイスが帰ってきたので共に教会に帰る。
外に出るまで彼方此方から殺気が飛んできた気がしたが、何かあったのだろうか?
そう思うものの害はないので外に出て街を歩く。
「おにいちゃん明日出るの?」
「ああ。」
「そっか、それじゃこれ」
「これは、お守りか?」
「うん、私とアンジェで作ったの!聖女と皇女の作ったお守りだからご利益的面だよ?」
「ありがとう、お陰で無事に帰って来れそうだな。」
「ちゃんと帰ってきてよね?」
「勿論だとも。お前が嫁に行くまでは死ぬわけにいかないからな。」
「またそんなこといって!」
そうして心地よく時は過ぎていく。
帰ってきたらまたこうした時間をとれたらいいと思いながら二人はその日を終えるのだった。
某所
「公爵の爺さん、依頼だ、隣国にいってくるぜ。」
「そうか、隣国というと、アレの相手か。」
「ああ、そうだ、この程度の依頼であの金額だ、ぼろいもんだぜ。」
「それはいいが、深入りしすぎるなよ?引き際は見極めて動け、やりすぎると面倒なことになる。」
「わかってるわかってる。適当にぼちぼちやって引き上げるさ。」
「そうしろ、決してゴズの二の舞は踏むなよ。」
「ヘイヘイ」
「さて、これで盤面は揃った。そろそろ始めさせるか、おい。」
「はっ!心得ております。」
そう言って執事の男は恭しく礼をしてから消える。
「さあ始めようか、楽しい楽しい演劇の始まりだ。」
老人は窓際でグラスの中身を飲み干しながら笑みを浮かべる。
北にある闇の方角を見据えながら。