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その瞬間はすぐに理解する事ができなかった。
投げられた錬金薬が肉を焦がし、溶かし、異臭と肉を溶かす音を立てる。
走り寄る勢いの乗った剣が振り下ろされ腕が断ち切られ、鮮血が飛び散る。
そして戦槌で叩き飛ばされたその身体が錐揉みし、4度5度とバウンドした後に十字架をなぎ倒した後に私達から離れた場所にある石の段を砕き、めり込み土埃を上げる。
何が起きたのか、分からない、理解できない。
「リンちゃん!!!」
でも一つ確かな事が目の前にある。
私はリンちゃんに走り寄る。
私達を守る為に#拳を突き出した状態の__・・・・・・・・・・__#リンちゃんに。
なんでそうなったかは分からないけど、リンちゃんは五体満足で、お父さん達のアンデッドは武器を振り下ろした状態のまま動かない。
警戒する私達とその目が合う。
一瞬の停滞、しかしそれはすぐさま破られる。
「大きくなったな」
呟くお父さんのその目にはうっすらと浮かぶものがあって。
「突然置いていくような形になってごめんなさいねルイス」
涙を流しながら謝るお母さんの姿に私の目の前が滲む。
「おとうさん!おかあさん!」
思わず叫んで、飛び出そうとしたところで、それは叶わない。
轟音が鳴り響く。
「やはりあれじゃ決まらないか」
そういって振り返る黒髪の女性が何かを投げる。
「くそがああああああああああああああああああああああ!!!!」
その瞬間に絶叫が響き渡り、瘴気と魔力の奔流が周囲をかき回す。
「くそがくそがくそがあああああ!貴様ら!俺様に逆らって楽に死ねると思うんじゃねえぞおおおおおおお!!」
そう叫ぶデルクの服は血と土埃にまみれ、切り飛ばされた腕からは流血が続いている。
「それはこっちの台詞だ」
「よくも私達の村を滅茶苦茶にしてくれたわね」
「おまけに我が家の子供に手を出してくれて、そちらこそただではすまさんぞ」
腕を付ける間に3人が啖呵をきる。
「ごみがごみがごみがああああああ!てめえらまとめて廃棄処分だあああああああ!!」
逆上したデルクが走りだし、お父さんがそれに応じて走り出す。
そうして戦いは再開された。
生前のランクはAで終わっていたお父さんは、バンパイアロードのデルクとまともに打ち合うのは難しい。
それは技術の差よりも身体能力と魔力の差が大きいからだ。
生まれもっての生物としての強さの違い。
鍛える事でそれは変るのだが、今それを言っても叶う事ではない。
しかしそれは今現在致命的な差にはならない。
お父さんに投げられる薬品と属性の篭らない魔力。
それは力を、速さを、目のよさを向上させることで強さを別次元へと届かせる。
「チッ!雑魚が群れやがって!うっとおしい!」
そうやって大振りで弾き飛ばそうとするのだが、お父さんはそれを回避して盾での殴打を加え、その剣を振るう。
剣を受け止め、その勢いにのって後退するが、そこには錬金薬が撒かれており、デルクの足を貼り付ける。
「小癪な!」
そう毒づいて一気に足を地面から剥がすが、その一瞬の隙をついて聖魔法が襲う。
「うお!?」
受け止めてその勢いを使って後退したところでデルクの身体を影が覆う。
跳躍からの蹴りおろし。
リンちゃんの一撃は両手をクロスさせたデルクに防がれるが、追撃はできない。
尻尾を振り下ろし宙返りの要領でこちらに戻ってくるリンちゃんを援護する為にアンジェが矢を放ったからだ。
「ええい、ちょこまかと!」
振り払い毒づくが、そのまま攻めに転ずる事はできない。
私も追撃をと思ったのだけど、体が言う事を利いてくれない。
クウちゃんに支えられる形でなんとか立っていられているのだけれど、さっきの魔法と目の前で起きた事の衝撃でまだ身体が動かないのだ。
そうしている間に互いの距離は離れ、仕切りなおしとなる。