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 カラン


 私の手から落ちた杖が乾いた音を立てる。


 呆然としてしまった私は拾う事は愚か言葉が出てこない。


 お父さんは這い出て大声で叫んだ後はただぼーっと突っ立っている。


 視線もどこを向いているわけでもなく、本当に何もせずにたたずんでいるだけだ。


 服は年月の経過と共にボロボロになっているが、副葬品として共に入れられていた剣と盾はくすんだ光を放っている。


 佇む姿、その副葬品は以前見たままの姿で変らない、変らない姿でただただ佇む。


 その姿に視界がぼやけてくるのだが、視界が全て塞がれることはなかった。


 突然響く轟音。


 お父さんの真横の土が跳ね飛ばされ、高く上がる。


 それが意味する事なんて誰でも分かる。


 私の真横でも息を呑む音がしたが、私の視線はそこに縛り付けられたままだ。


 「おかあさん……」


 それは音の出ない呟きにしかならなかった。


 口は動いたけど、声を出す事は叶わず、私の身体から力が抜ける。


 不意に私の身体を軽い衝撃が走る。


 あれ?私、何してたんだっけ……?


 旨く思考が動かない。


 ただ、なんか暖かくて柔らかいけど、力が入らない、視界もぼやけて何も見えない。


 どうして、どうしてなの?


 そう嘆いても、事態は変らない。


 何も出来ないでいる私に追い討ちをかけるように、事態は悪化していく。


「あーっはっはっはっは!これは愉快!まさか一番強い死体が聖女の親だったとはなぁ!兵隊を消されたのは予想外だったが、切り札とは最後まで取っておく、そういうものなのだよ!」


 高笑いと共に蝙蝠が集まっていく。


「そんな……」


 アンジェが絶句する。


 その蝙蝠の集まったところにデルクが姿を現していく。


「大層な切り札だったが、俺を殺すにはあれを直撃させねばな、残念だったな」


 勝ち誇るデルクにリンちゃんが私達を守るように前に出るが攻め込む事はできない。


 その横に武装をした私達の両親がいるからだ。


 お兄ちゃんと変らない装備の構成のお父さん、多分前衛だよね、衣服はボロボロだけど、その身体は私の記憶にあるあのときと変らずに大きいままだ。


 副葬品として剣と盾と一緒に埋葬されていたので、その二つを装備して突っ立っている。


 そしてお母さん。


 神官戦士だったお母さんも盾を持っている、右手にメイスと左手に盾。


 女の細腕には不釣合いなものなんだけど、そこは魔力で強化すれば簡単に扱えるのだそうだ。


 おかあさん力持ち!って話した時に教えてくれたから間違いないと思う。


 私の魔力の性質は多分お母さん譲りだからその戦い方は予想はつく。


 多分聖魔法と純粋な魔力による攻撃と防御、そして回復魔法を使いながら近接戦闘をこなしていく戦闘スタイルだと思う。


 私は完全に後衛タイプだけど、教会にはそういう戦い方をする人が多くいるからわかる。


 一応対応はできるけど、近接戦闘は苦手だから苦戦は避けられない。


 そしてそれ以上に二人を傷つける事ができるかというと……


 時間稼ぎをするだけでも一人余るから、それでなんとかできるかもしれない。


 そう思ったのが間違いだった。


「ああ、そうそう、もう一体用意してるんだった」


 その言葉と共に両親の横の墓が陥没する。


 あの墓は……


「ここにはお父さんとお母さんの大事な友達が眠っているの、だから、二人もお祈りしてね」


 在りし日の家族と共にお参りした、両親の親友で冒険者仲間だった人のお墓。


 そこが陥没したと思ったらお母さんより少し若い女の人が歩いて昇ってくる。


 そう、階段を上るように歩いて昇ってきたのだ。


「ほう、錬金術師か、これは手駒にするには面白い」


 そう言って笑うデルクは腕を組みながら言葉を続ける。


「さて、ここからが本番だ、流石に手柄無しで帰る訳にはいかないからな、本気を出させてもらう」


 その言葉と共にデルクの魔力と瘴気が開放される。


「ここからはお遊びは無しだ、そこの女もいい素材になるだろうからな、全員我が君に献上する供物にさせてもらう、聖龍、先ほどまでのようならすぐ血祭りにあげてやるからな、精々抵抗してみせろ」


 獰猛な笑顔を浮かべるデルクに本能が警鐘をならす。


 あれはまずい。


 私達全員が束になっても足止めが精一杯な相手。


 ましてや今のあいつには両親を手ごまにとられている。


 絶望的な戦況。


 それはアンジェも分かっているらしくて。


「ルイス、クウちゃんに乗って逃げて」


 冷や汗と共にアンジェがささやく。


 一瞬理解できなかった、逃げる?私が?逃げた後は?残したアンジェとリンちゃんは?


「そんなの!私だけ逃げられない!」


 いやいやと首を振る私の肩を掴んで膝を突いたアンジェが目の前で言い聞かせるように話し始める。


「聞いて!このままじゃ私達は全滅よ、その中でも貴方は失う事が出来ないの、私には代えが効くから……」


「でも……」


 言いよどむ私の目に映ったアンジェの目は強い決意に溢れていた。


「何も出来ないまま手に落ちるわけにはいかないの、私は皇族だから、命を捨てても最善を選ばないといけないから」



「アンジェ……」


 少し悲しそうな彼女に返せる言葉なんてなくて。


「だからおねがい、ロイド様のところまで逃げて」


「わかった……」


 頷くしかできなくて。


「ありがとう、逃げるからには必ず逃げ切ってね、そしてロイド様に――」


「感動のシーンのところ悪いが」


 アンジェの声を遮って奴が言葉と共に身構える。


「逃がしてやるとおもったか?甘い!」


 そう言い放つと私達が動く間もなく3人とともに襲い掛かる。


 反応できたのはリンちゃんだけ、一瞬で前に出てデルクの拳に拳を合わせるが。


「ほうら!これでまず一人!!!」


 足止めされているリンちゃんにお父さんの剣が、お母さんのメイスが、そして錬金術師の持っていた瓶が向かう。


 避けられない。


 誰もがそう思う。


 それでも何かしないとって足が前に手が前に、今言われた事は関係なく、失いたくなくて、必死でもがく。


 リンちゃんも逃れようと身をよじるが、デルクの拳を受け止めたせいで体勢がつくれず身を硬くする以上のことができない。


 アンジェも、クウちゃんも、動き出すが間に合わない。


 そうして痛みを覚悟したリンちゃんに攻撃が吸い込まれていく。


 そう思った時に、理解出来ない事が起きる。


 それは誰もが予想せず、当事者以外は全て反応に遅れる事になる。


 そうして私達の反撃が始まる。

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