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 領都の中央には時計塔があり、領都の時間を報せる文字通り生活の中心である。


 その日は激しい雨の朝だった、管理人の男は毎日3回、日の出の鐘・昼の鐘・日の入の鐘の3回時計の魔石に魔力を流す。


 少し多めに油を差そう、そう思いながら宿舎を出て中央時計台の門の鍵を開けてから大時計に向かう。


 いつも通りに螺子を回し、いつもより多くの油を差し宿舎に戻る。


 傘を差しても全ての雨は防げない雨が降っていたから濡れても気がつかない。


 粘度が高く臭いの強い油を使っていたから塔内は鼻が馬鹿になるので口を覆っている。


 まだ暗い時間だから視界がきかず細かいところまでは見えない。


 だからその時には気がつかなかった、宿舎に帰った男に妻は悲鳴をあげる。


 男の全身が血に濡れていたのだから。




 領都の警備隊が物々しく時計塔に規制線を引く、とはいってもロープを張り、出入り口に見張りがいるだけなのだが。


 生活の中心であり、高い効率の魔石を使い稼動する時計塔は領都の重要な資産である。


 その中には当然警備設備が備えられておりそれが作動したのだが、警備隊は首を傾げる。


 今までに起こった事のない作動の仕方だったからである。


 通常は、侵入者は警備装置を作動させないように斥候に適した者が発動を避けながら侵入する。


 その末に捕縛されているのだが。


 そう基本は捕縛なのである。


 一応殺傷力の高いものも設置されているのだが、それについては子供にまで広く知られており、作動させるものは自殺志願者しかいない、そう言われているものである。


 だがそれを差し引いても発動することはないのだ、何故ならそれを発動させるためには入り口で直上に10mとは跳躍しなければならないのだから。


 死体は入り口の直上10mに槍としかみえない矢によって縫い付けられていたのだから。




 回収は困難を極めた。


 強力な威力で10m程の壁に縫い付けられているのだ。


 梯子等で上って抜こうにもバリスタの矢は抜けない。


 警備隊は一般人に訓練を課しているが、それでも一般人なのである。


 冒険者ランクにしては一端レベルのEやFランクが主で隊長でもCがいいところ。


 基本的にC以上のものは騎士隊の隊長であり、Aランク相当などは基本は領都の騎士団長くらいしかいない。


 その騎士隊も基本的に訓練や護衛等暇というわけではない。


 残るはランクの高い冒険者しかいないが、日中に町中にいるのは低ランクか休暇でのんだくれているものばかりというのが相場である。


 故にその処理は夜にされることになっていた。


 そして日がくれ、処理の準備をしていた時にそれは起こる。


 


 それに気がついたのは誰だったのか、今となってはわからない。


 赤い光が見える、その一言に全員がソレを見上げた。


 壁に縫い付けられ1日経った死体、それが光の源。


 その両目に赤い光が灯り唸り声を上げる。


 呆気に取られる回収隊等気にも留めず身をよじり、手足を振り回す。


 手足が壁に当たり轟音を発し、亀裂を生みやがて壁は崩れ落ちる。


 回収隊にとって運がよかったのはその時矢が抜けなかったことだろう。


 壁が崩れればソレも共に落下する。


 それは四足で着地しようと姿勢を制御する。


 そして着地に成功するが、その腹には長大な矢が刺さっている。


 縫い付けられた瓦礫と落下のスピードが加わりその矢は更に食い込むことになる。


 絶叫を上げるソレは手足をばたつかせるが、床に突き立った矢が抜けない。


 しかしソレは徐々に肉を抉りながら一寸、二寸と徐々に前に進む。


 目についた若い兵士にソレは涎をたらし、食いかかるようににじりよる。


 その不気味さに、邪悪さに、おぞましさに、若い兵士は飲まれてしまい動けない。


 周りから下がるように言われるも恐慌をきたしてしまい音は聞こえず、身体の感覚はおぼつかず、ついにソレが飛び掛る。


 その生死を決めたのはなんだったのか、その日の天候に合わせた靴だったのか朝食べ損ねた卵だったのか。


 とにかくそういった僅かな事だったのだろう。


 飛び掛られた瞬間に気を失ってしまい後ろ倒れた新兵の薄紙1枚離れた鼻先をソレの指は掠める。


 届かなかったソレは手足をばたつかせ前に出ようとするが、それ以上は進む事は許されなかった。


 飛び掛ると同時に硬直が解けた兵士達が殺到する。


 両手両足両肩両腿、刑8本の剣により磔にされる。


 それでもソレは暴れるのを止めず手足をばたつかせようとし、首を動かし食いつこうともがく。


 兵士達は弾き飛ばされ解放されようとした瞬間、気がついたときにはソレの首に剣が生えていた。


 それでも暴れようとする、しかし首を振る事でそれは終わりを迎える。


「首を刎ねねば死なぬとは、予想以上に厄介なものだな。」


 馬から降りながら騎士団長アルフレッドはそう言った。

 


 


 調査の結果ソレは逃げてきた男であった。


 上着のポケットに遺書が入っていたのだ。


 更に分かった事がある、この男、防衛装置にかかった時には首の骨が折れていたのだ。


 そして縫い付けられていた辺りの更に上から輪の切れたロープが発見された。


 それは首を吊った後にロープを千切り、落ちてきたところを射抜かれたという事を示していた。


 更に首を刎ねなければ動きを止めない事、赤く光る目からその男はアンデッド、ドラウグルであると断定された。


 それにより領都は揺れたが事態はそれだけでは収まらない。


 その場に居た兵士に伝染病の症状が発症する。


 それにより領都に激震が起こる。


 この男の言っていた事、遺書の内容、それは町が一つ滅んだということだからだ。








 伝染病の正体を調べる為に様々な方面から調査が行われる事になった。


 医者、聖職者、薬師、呪術師、様々な者が調査をした結果、恐らくリッチによる眷属化の呪いであるとの結論が出された。


 この呪い、非常にやっかいな性質をもつもので解呪の為にも非常にやっかいな触媒が必要になる。


 それはA級モンスターとされる一角獣のタテガミである。


 この世界の常識として、一角獣は清らかな乙女以外が近寄るとそのものを惨殺するとされている。


 しかも暮らしているのはローランドの周辺国の森の中であり、そこはユニコーンを頂点とした食物連鎖の作られている森であり、最低でもEやDランクがないと危険であるとされている。


 更に厄介な事に、一角獣は高潔な魂を望む。


 一般人の魂では採集する事が困難なのである。


 もちろん、一般人の中にも可能な者はいるが、今回白羽の矢が立ったのが聖女として知られるルイスと国政に影響の出ない清らかな乙女の皇女のアンジェであったというわけだ。


 アンジェやルイスは採集にいった帰りということだった。


 護衛隊も国境までしか随行出来ず、女だけの集団、山賊には鴨葱にしかみえなかっただろう。


 そして襲撃にあって、今に至るというわけである。


 言ってくれれば一角獣のたてがみくらいなら取りに行ったのだが、それを言うと危ないとかとんでもないとか、うん、よっぽど怖かったんだな、そういって頭を撫でたら殴られた、解せぬ…


 


 この後のことなのだが、どれ位広がっているかを現在冒険者と騎士が調べているらしい。


 その後で根本と思われる壊滅した町を叩く、その為に今最寄の場所にいる有力な冒険者に指名依頼を出しているらしく、疾風の英雄も同様らしい。


 急ぎの移動の時は馬車と言えどかなりの速度が出る、具体的に言うと90日の日程も10日位に短縮できる、まぁその分コストもかかるんだけどな。


 時間を置けば被害が拡大する状況である、そんなわけで騎士達の亡骸を弔う事も後に回さざるを得ないのが今の苦しい現状、ということである。


 それが現状であり、そうしている内に俺たちは国境の町にたどり着く。


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