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皇宮に戻ってからはゆっくりと過ごして翌日の出陣に備えた……とはできずに工房に缶詰になっていた。
というのも帰りにアンジェとルイスから言われた事が原因である。
二人が討伐に同行する。
そんな事一つも聞いていなかったので俺はあれやこれやと慌ててやるハメになっていた。
なんでかって?そんなの可愛い妹が怪我するかもしれないっていうのに対策しないでいられる兄貴がいるのか!?
という事で恥ずかしそうにシスコンとルイスに言われながらも工房に篭っています。
という事でレイラにもらった鱗と爪の力をメインに作っていく事にする。
今回はアンデッドとの戦場に行くことになるのが分かりきっているので攻撃と防御に使えるものを用意することにした。
主素材はいいのだが、副素材は全く用意していなかったのでアンジェに頼んで執事のセバスさんに用意してもらった。
ルイスには聖属性を付与したロッドを用意する。
これは既存のロッドの宝玉の部分を変更する事にする。
聖銀とよばれるミスリルで出来た杖身自体は属性を良く通す魔法金属として知られている。
に聖属性を持つとされるムーンストーンの宝玉、これに四方から力が集中するように聖龍の爪を埋め込んでいく。
この埋め込む時に変な傷が入れば力の収束が甘くなる、その為注意深く錬金術的な処置を行っていく。
この作業だけに1時間かかり、埋め込めたところで杖身と結合していく。
おおよそ2時間の時間を使い、完成させ次に移る。
アンジェの方は弓をメインに使うということなので、こちらは聖龍の爪をそのまま使わせてもらう事にした。
錬金的手法にて爪の形を変えた後に太さを整えていく。
そこに弦をかける両端の加工と弓束の加工を行い、そこから仕上げていく。
最後に表面を仕上げて終了。
あとは二人の戦場で着る防具に聖龍の鱗を貼り付けていき防御力を強化する。
彼女達の装備を作った後は自分の装備にも聖龍の素材を組み合わせていく。
とはいってもこちらは難しい事はあまりない。
盾の方は魔法具の中でも特殊な部類で、素材を取り込む事でその性質を使えるようになるのだ。
勿論魔力等の代償が必要にはなるのだが、いちいち持ち帰る必要がないので非常に重宝している。
武器の方はこれは完全に追加になる。
爪を刀身に使ったナイフと長剣を用意する。
そうやって作り終わったところで工房の入り口がノックされる。
工房にやってきたアンジェをつれて城内の訓練所にきていた。
「えっと、これはいったい?」
「ああ、さっき作ったもので、今回の戦いに役に立ってくれるはずだ」
そういってアンジェに先ほど作った弓を渡す。
「魔力を流してみてくれ」
そのことばに従って魔力を流したアンジェは目を見開く。
「あの、これって……」
「何かは後だ、そのまま的を狙ってみてくれ」
「わ、わかりました」
そう言って弓を引くアンジェ、その姿は一般的な冒険者よりも様になっている。
「いきます」
その言葉と共に矢が放たれる。
瞬間、的が爆ぜる。
爆音に手を掲げ目を細めるアンジェ。
爆風が収まったので口を開く。
「使い勝手はどうだ?」
「えっと、とても狙いやすいですし、そんなに強く引いてないのにすごい……」
「それならよかった」
使いやすいようでホッと息をつく
「あの、これって!」
「ああ、リンの母親から譲り受けた素材を使って作った、聖属性が強く出るから今回の任務に役に立つはずだ」
それを聞いたアンジェは驚きを深める。
「いえ、あの……」
「遠慮せずに使ってくれると嬉しい。」
頬を赤く染めるアンジェ。
「あの、えっと、ありがとうございます」
赤くなって礼を言うアンジェから何故か目が離せない。
そうして暫く固まっているとパタパタパタという音が聞こえてきて、振り返ると。
「うわっ!?」
子狐姿のクウと子龍すがたのリンが一緒に飛び降りてきたので咄嗟にキャッチする。
そしてクウはそのまま、リンはアンジェのほうに移り腕の中で丸くなる。
「二人ともどうしたんだ?」
そう聞くが人化していないので何を言われているのか分からない。
二人で顔を見合わせて困っていると今度はルイスが顔を出す。
「あ、クウとリンもここにいたんだ!いきなり飛び出したからびっくりしたわよ!お兄ちゃん、なにやったの?」
現れるなり俺が原因だと断定されてしまう。
「何をって、アンジェの弓の試し打ちだぞ?いきなり実戦で使うのは危険だからな」
「弓って、アンジェのそれ?お兄ちゃんが作ったの?」
「ああ、そうだ」
そう答えるとルイスはアンジェの近くに行ってまじまじと弓をみつめる。
「強力な聖属性の魔力を感じるし、その色、もしかして」
「ああそうだ、レイラからもらった素材で作った」
「えっと、ロイド様、それってもしかして……」
「ああ、リンの母親の聖龍の爪だな」
そう答えた瞬間、アンジェは目を大きく見開いて言葉を失う。
「ちょっとお兄ちゃん、アンジェがびっくりしちゃってるじゃない!常識はずれもいい加減にしてよね!」
「えーっと、俺はお前達の身の安全を考えてだな」
「身の安全を考えても聖龍の爪なんて素材でほいほい武器作って渡すなんて非常識よ!」
「そうか?身内の安全の為なら惜しむようなものでもないと思うけども」
「普通はそんなに凄いもの使えもしないわよ!」
ルイスに詰め寄られて非常識と言われてしまう、そんなに非常識かな?
心の声も聞こえてるようでルイスに睨まれてしまうがそこに助け舟を渡される。
「えっと、ロイド様?さっきお前達と言われましたか?」
「ああ、そうだけど」
「という事はルイスにも何かあるのでは?」
その言葉を聞いて思い出した俺は魔法袋の中からルイスの為に作った杖の包みを取り出す。
「ああ、そうだな、ルイス、こっちはお前にだ」
「何?」
「あけてみろ」
そういわれて包みを開けたルイスが驚きと喜びの合わさった表情を浮かべてこちらに顔を向ける。
「ミスリルの杖身にムーンストーンと聖龍の爪の宝玉を合わせたものだ、聖属性を大きく強化してくれるはずだ」
「ありがと、お兄ちゃん」
ちょっとばつの悪そうな顔でお礼を言われる、そんな顔すんなよ。
「戦場にいくなら自衛できないと危険だからな」
「戦場……か、私のはアンジェのついでに?」
「いや、今回はどっちのそばにもいてやれないからな、二人とも自衛できるように作らせてもらったんだ」
揺れる瞳で尋ねるルイスに首を横に振り言い聞かせる。
「そう、なんだ」
「それにルイスは治癒もしないといけないだろ?それを使って少しでも負担を少なくしていてほしいんだ」
「えっと」
「それに、それがあれば救える人も増えるかもしれないから、使ってくれないか?」
「でも……」
「お前にしか頼めないんだ、頼むよ」
「……うん」
「ありがとう」
漸く受け取ってくれたとホッとしたのだが。
「でも」
そういって顔をあげるルイスに嫌な予感を感じる。
「帰ってきたらいう事聞いてもらうんだからね!」
「ああ、いいぞ!」
ルイスの勢いについ答えてしまったがまずいかもしれない。
「手加減しないから覚悟しておいてね!」
「お手柔らかに頼むよ」
「手加減なしよ!」
機嫌が直ったのはよかったのだが、何を言われるのかと少し怖くもある。
やっちまったなと苦笑するしかできないけどな。
「ルイス、良かったわね」
「むぅ……」
「心配しなくても貴方からロイド様をとりはしないですよ」
「ちょっ!アンジェ!?」
「ふふふ、分かりやすすぎです♪」
そう言って微笑むアンジェと赤面してぐぬぬと唸っているルイスという光景。
その腕の中には小さなクウとリンが抱かれている。
こんな平和な光景がいつまでも続けばいいなと思った出陣前夜のひと時だった。




