32
出陣が明日となった3日目の朝、俺達は街を歩いていた。
フードを目深に被ったルイスにアンジェ、リンとクウ、そして遠巻きに俺達を偽装した数人の兵士が囲む。
俺とルイスだけならいざしらず、アンジェはこの国の姫であり、皇帝に溺愛されている。
そんなアンジェをいくら信用できるとはいえ、俺一人の護衛では外に出したくないようで、兵士達に目を合わせると苦笑いされる。
「お父様も過保護で困りました」
苦笑しながらそれでも嫌というよりは心底困ったという風にアンジェが笑う。
「しょうがないじゃない、うちなんてお兄ちゃんが過保護なんだから!親じゃないのに!」
そういって返すルイスの頭をくしゃくしゃっと撫でながら
「しょうがないだろ、父さんと母さんに頼まれてるんだから」
そう言って昔を思い出す。
まだ幼かった俺達を孤児院に預けて仕事に行く両親を。
その時も今ルイスにしたみたいに頭をくしゃくしゃっとなでられたっけな。
そうして撫で方に懐かしさを感じながら歩いていると下から唸り声が聞こえる。
「うぅぅぅぅぅぅぅうううううにゃあああああ!」
急に叫びだしながら俺に向かってくるルイス。
その頬は赤く染まり、恥ずかしそうに涙目になっている。
テシテシと繰り出される両手のじゃれあいアタックをあしらいながらアンジェのほうを見ると生暖かい眼差しの微笑みを向けられる。
周りに目を向けても顔を逸らされる、と思ったら周囲から殺気のようなものが。
「ビショウジョトノジャレアイネタマシイ……ネタマシイ」
妙に呪詛の掛かった呟きを発する奴がいた気がするがいなかった(ことにする)!あっ、連行されてった。
とそんな寸劇を見ているとルイスが疲れたのか顔を伏せて大人しくなった。
因みにそうしている間もルイスを貼り付けながら歩いていたりする。
流石に止まっていたら迷惑だからな。
そう思っていると妙な視線が飛んできたが、うん、最近は慣れた。
そうして歩を進める。
途中面白そうとリンとクウも引っ付いてきた時には流石に歩きづらかったが、それでも進む。
途中に屋台で果実水やらお菓子を買うとそっちに興味を惹かれて離れてくれた。
ルイスもそれで一緒に離れてくれたのでようやくまともに歩けるようになったので胸を撫で下ろす。
そうして歩いて街を出る。
街を出たら遠巻きに見守っていた騎士達の気配が動く。
何かしたというよりも、急いで移動を始めたというだけなのだが。
そして俺達の外に出た門とは別の街門から騎兵が出発したのが見えた。
話では街中では付かず離れずの距離を保って、街の外では騎乗してある程度の距離を離して巡回するということなのでその為に出発したのだろう。
この忙しい時期に騎士隊を使って何をしているのかと言えばこれも一つの準備になるのだが。
街の外でする準備になにがあるのか?それについては街の中ではできない事が一つだけあったのである。
街道から外れて暫く進む。
薄暗い森に入り、予定通りに少し開けた場所にたどり着く。
そしてクウとリンが少し前に進み出てこっちを向く。
「それじゃ、やるから、見てて」
「が、がんばる」
そういって人化を解いて聖獣と聖龍が現れる。
クウの戻った姿は尻尾の先まで合わせると4メートルくらい。
身体だけなら2.5メートル程度なのだが狐耳と尻尾で1.5メートル位ある。
出会ったときから比べると大分大きくなっているのが分かる。
成長期なのだなと思いながら目を細める。
大してリンの方は尻尾まで合わせると7メートルくらいの大きさである。
そしてリンは聖龍の身体に戻ってもクウの頭をなでていて、クウは身体をこすり付けるようにして甘えている。
「それじゃ2人とも、頼むぞ」
「お願いします!」
「がんばってね」
俺達3人の声に2人が首を縦に振る、
横に並んだ俺達に二人が歩み寄ってくる。
そしてリンとクウが一声泣き声を上げると、2本の光が走り出す。
それは魔法陣を描き始め、書き進むに連れて光があふれ出す。
そして魔法陣が搔き上がるとそこから光の粒子が溢れだす。
それは薄暗い森を光で満たし、空気を動かし、衣類をたなびかせる。
それは時を追うごとに強くなり、魔法陣から吹き出すものが軽い浮遊感に似たものを感じさせるようになる。
そして光に金が混じりだしたとき、2人が一声鳴き声を上げる。
それを切っ掛けに光は柱になり、天に向かって立ち上る。
それが20秒程続き、徐々に小さくなって消えていき、唐突にフッと消える。
強い光に眩んでいた目が徐々に視界を取り戻す。
見えてきた視界を2人のいた場所に戻す。
「いない……?」
2人が居た場所には2人の姿はなかった。
慌てて右に左に視線をやり、探すが見つからない。
真横にいたルイスとアンジェも探すが見つからない。
2人の顔が不安げなものに変わりかけたとき、それを止めるものがいた。
コンコン
そんな音が足元から聞こえた。
その音のしたところに目線を向けるとそこには小さくなった聖獣と聖龍の姿があった。
「「可愛い」」
ルイスとアンジェの2人の声の通り、どちらも全長30センチ位まで縮んでおり、疲れた顔をしている。
俺の足を叩いて気付かせてくれたのはリンであり、叩いた直後には座り込んでいる。
もう一人、クウのほうはリンの真横で横になっている。
そこにリンは座った後抱きついて目を閉じる。
その姿に3人は目を細めて2人を撫でる。
「お疲れさま」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
そう言って礼を言った俺達の頭に声が響く。
「んーん、お礼、成功してよかった」
そういって息をつくと続ける。
「疲れたから、お願いして、いい?」
そうして円らな瞳を向けてくるリンに横の2人は頬を緩ませる。
「ああ、安心して休んでくれ」
「うん、おねがい、おやすみ」
そうしてリンはクウの身体に身体を埋めながら寝息を立て始める。
2人を両手に抱えて立ち上がる。
「それじゃ2人も寝ちゃったから、帰ろうか」
「うん!」
「帰りましょう」
そうして幼児を抱えた俺は用事を終えた森を後にして街に戻る。
眠る二人の可愛さに頭を撫でる二人、頬を緩ませながら森を出るとその出口には馬車が留まっていた。
お礼を言い、馬車にのって街に戻り、皇宮まで戻る。
その途中街中で屋台の臭いに目を覚ました2人がお腹が空いたといって執事さんが屋台に買いにいったり、それを食べさせてる姿に頬を緩ませたり。
やる事を終えた俺達はほのぼのとした時間を過ごす事になった。
昼を食べ終えたところで2人と共にルイスとアンジェは2人を抱きしめて愛でながら眠りにつく。
そうして皇宮に戻った俺達は準備の残りにとりくむのだった。




