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「えっと、私は姫なんかではありません、人違いではないでしょうか?」


 そうとぼける彼女、それならそれでいいか。


「人違いか、すまない、それはそうとそっちの彼女は大丈夫か?」


 事情があるだろうから踏み込まずに話を逸らす。


「頭を打ったようで、気を失っていますが、呼吸も落ち着いていますし大丈夫だと思います。」

「そうか、それはよかった、念のためにこれを飲ませたら良い、効き目は保障しよう。」


 そう言って昔妹が送ってくれたポーションを渡す。


 3年前に作り始めた初期の物らしく調合比も滅茶苦茶で味なんて味覚破壊もいいところの代物だがあいつは魔力だけは高かったからな、思いっきり込めたらしく骨折だろうと内臓損傷だろうと治る最高級ポーションと比べても見劣りしない、味を除けばだが。


 そのポーションを飲ませた瞬間反応を起こす。


「う、うう~ん…これは、まっずい、うぅぅぅ、喉がイガイガして舌がピリピリするのに身体は楽になるとか、昔の私はなんて物を…あれ?」


 がばっという効果音が鳴ったのではないかと錯覚するほど勢いよくおきてフードが落ちる。

 白い胸辺りまで伸びた髪の毛に空色の大きな瞳に長い睫、少し小さな背丈の少女は後ろの女の子を見て胸を撫で下ろした後に俺の方を見たと思ったら。


「お…」


「お?」


「おにいちゃああああああん!!!!!」

 その声に驚いて気がついた時にはしがみ付かれて尻餅をついていた。


「おまえ、ルイスか!?」


「そうよ!お兄ちゃんの大好きな可愛い可愛い妹の聖女ルイスよ!」


 そう言いはなつルイスに相変わらずだなと苦笑いをこぼす。


 小さい頃からずーっと世話を焼いてきたからか、ブラコンに育ってしまった妹。


 村を出て冒険者になって兄離れできたかと思ったら、出来ていなかったようで苦笑いがとまらない。


 あれからどうしてただのご飯は食べてるだの寂しかっただのと色々とマシンガンのように紡がれる言葉に苦笑いしながら答えている。


「あの、ルイス、その人、お兄様?」


 突然のルイスの行動に呆気に取られて蚊帳の外におかれていたお嬢様(仮)がルイスに問いかける。


「はい!姫様!紹介します!私の兄のロイドです!SSS級冒険者だっけ?お兄ちゃん!」


 その言葉に驚き目を見開くお嬢様(仮)


「元だ!元!追放されたから全員伸して抜けてきた!」


「ありゃ、そうなんだ、お兄ちゃんを追放なんて見る目無いやつ等だね…ゼンインメニモノミセテヤル」


 黒い笑いを浮かべるルイスの頭に手を乗せて正気に戻す。


「いやいいぞ、あんなのと関わるとロクなことにならんからやめとけ、それよりルイス、バラして良かったのか?」


 その言葉に血の気がサーっと引く音が聞こえたかと思うと壊れた機械人形がギギギっと音を立てて動くように首を動かしお嬢様(仮)の方に向けると。


「ルイス?覚悟はいいですね?」


 黒い微笑みを浮かべるお嬢様(仮)、凄く可愛らしい笑顔なんだけどなんでだろう、恐怖が止まらないよ…


「ちょ、ちょっとアンジェ、ごめんって、私達友達でしょ!ゆ、ゆるしてえええええええ」


 結局、ルイスのポーションの不味さに気絶した騎士の人達が起きるまで説教されました、起きて騎士のアイラさんが出発の準備をすると声をかけてくれるまで…なんで俺まで…




 

「改めましてロイド様、ローランド皇国第5皇女、アンジェリーナ・ローランドと申します、窮地を救っていただき感謝致します。」


 そう言ってこんな場所で見られるはずのない淑女の礼をするアンジェリーナ姫に応える


「ルイスの兄、ライン村出身の冒険者ロイドでございます。姫様の危機を救えました事は戦士として誉れにございます。」


 堅苦しい挨拶は苦手なんだよな。


「ロイド様、普段どおりにおしゃべり下さい、皇女といっても私など大したものでは御座いません、命の恩人に畏まられては私もやりにくいですので、ルイスの事もありますし、その、アンジェとお呼び下さい。」


 そういって頬を赤く染めながら微笑んでくれるアンジェ姫、女神はここにいたか!


「ありがとうございます、それでは失礼して…これでいいか?アンジェ。」


「はい、そのほうが私も兄が増えたようではなしやすいですので。」


 どういう理論なのか理解はできないが、この方が楽だから渡りに舟、やぶへびにならないように深くは考えないでおこう。


「それで、何故アンジェ達が隣国で僅かな護衛を連れるだけで襲われているんだ?普通なら近衛騎士の部隊の一つや二つがついているものじゃないのか?」


 話を逸らしたんだが、その言葉に焦ったようにアンジェとアイコンタクトをとるルイス、いやおまえ、わかりすぎるだろ。


「それは、えっと・・・」

「あのね、お兄ちゃん」


 気まずい・・・藪はここにあったのか。


「あー、えーっとな、言い辛い事なら言わなくていいぞ、機密とかもあるだろうからな。」


 流石にここで問い詰めるというのも気分が悪いので助け舟を出す。


 深呼吸一つして覚悟を決めたように首を振り一歩踏み出すアンジェ。


「…いいえ、構いません、ここで私達に関わってしまったのであれば、どちらにしろ無関係ではいられませんから。」


 その顔にはさっきまでの戸惑っていた姿は無い


「アンジェ、いいの?」

「ええ、貴方のお兄様なら信じてもいいと思います、そうでしょ?」


 笑顔でそういわれると照れるな、このどじな妹をこれだけ信じてくれるとは嬉しい限りだ。


「それはそうだけど、えっと。」


 おい、妹よ、そんなに兄が信用ならないか…


「責任は私がとります、急ぎの旅です、移動しながらお話しますので、馬車に乗ってください。」


 そういって押し切ってしまうアンジェ姫。


 その声に従って馬車に乗りその場を後にする。







 発端はある町だった。


 原因不明の伝染病が発生した。


 症状は全身に黒い斑点が現れ、徐々に広がっていく。


 その進行は緩やかで苦痛の無い奇病であると認識されていた。


 しかしある夜に事件が起こる。


 最初に奇病に罹った者の家族が惨殺されたのだ。


 その患者は悲しみにくれた。


 その夜からだ、その町に絶叫が響く事になる。


 しかし被害者は見つからない。


 その夜も、次の夜も、怪奇現象は続く。


 そしてある晩の事である、その日は絶叫は響かなかった。


 しかし住人は気付いてしまった。


 夜になると赤い目の怪物が町を徘徊しているのだ。


 その住人は夜を震えて過ごすと、翌朝すぐに役場に駆け込んだ。


 身振り手振りを加えて必死に訴えるが誰も信じようとしない。


 信じて貰えないならギルドで、酒場で、町中で、ありとあらゆるところで訴えるが、薄笑いと共にそんな事はないと否定される。


 ここでは話にならない、そう思って領都に駆け込んで訴えた。


 それでも言葉は伝わらない。


 そうして重い身体を引き摺り見下ろした橋の上で見てしまった。


 斑点が全身を黒く染めている事を。


 男は絶望した、絶望し嘆き叫ぶ。


 襲われる恐怖、信じられない恐怖、蔑まれる恐怖。


 自分にしか被害がないなら耐える事ができた。


 しかし、人を害するかもしれない、その恐怖には耐えられなかった。


 男は決断した、全てを書き記した、神に祈りを捧げた、これまでの全てを込めて。


 そして翌日の早朝、領都の中央に死体が発見された。


*物語が動き出します、お気に入りと栞をつけてくれてありがとうございます、励みになります!

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