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1 プロローグ

SSS級冒険者PT『疾風の英雄』


電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。


龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。


そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。

盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。


当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。


今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。


ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を渡しに近づいた時にそれは起こる。


ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ。


「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」


全員の目と口が弧を描いたのが見えた。


「どういうことだ?」


 苛立ちを隠しながら勤めて平静に問いかける。


「どうもこうもないだろう!お前は大して役に立っていない!今日だってお前がやったのはなんだ?俺たちが倒した地竜を運ぶ以外に役に立ったのか?たってねえだろ!お前の豆鉄砲みたいな攻撃じゃ意味ないもんなぁ!」


 確かに俺は攻撃力のある方ではない、まして冒険者全体でもトップクラスに攻撃力のあるこいつらには及ぶわけが無い。


「今日も硬いって皆言う地竜をワンパンだったしね!私達に盾役なんていらないわよ!」


「逆に報酬山分けの配分減っちゃうもんねー、それだったら居ない方がましっていうか。」


「捨石にいいかと思って置いていたが、我らは強い!捨石何ぞ置いている必要もない!」


 他の3人が示し合わせるように口を開く。


「そういうわけだ、これから貴族のパトロンもつくから運ぶ手もいらないからな、もうお前は足を引っ張るお荷物でしかないってわけで、わかったな?ほら!今日の分の金払ったら出て行けよ!」


 ムシャクシャしてやった、後悔はしていない。


 気がついたときには報酬の入った皮袋を全力投擲していた。


 全員分小分けされた金貨の入った安物の皮の小袋をだ。


 その重さは大体野球ボール程と思ってくれればいい。


 安物の皮に包まれたとはいえ金属の塊が怪物を堰き止める人外の膂力に連投される。


 酔っ払って人を嗤う隙だらけの奴らに避ける術があるかといえば誰もが分かるだろう。


 直撃を受けた4人は脳震盪を起こしてその場に倒れる。


 意識は辛うじてあるものの脳震盪を起こして動けない。


「せいぜい寝首をかかれないように頑張るんだな」


 そう冷たく言い捨てて出口に向かう。


「ロイドぉぉぉぉ!てめえ!おぼ、ぐぼあ」


 ゲラートが何か喚くが途中で途絶える。


「うわ、きたねえ、こいつ吐きやがった!」


「だらしねえなぁ、SSSランクの名が泣くぞ!」


 周りの酔っ払い達が笑いながら囃し立て、それに怒り狂ったゲラートが更に気炎を上げるが自由が利かなずにその場で崩れ落ちる。


 笑い声を背にギルドを出る。


 冒険者ギルド、そこは多種多様な依頼を冒険者といわれる何でも屋に斡旋する仲介所であり、そこには子犬の捜索といったお使いレベルのものから魔物の駆除や街の防衛といった命懸けの仕事まで多種多様な仕事がある。


 冒険者になるのに資格は要らない、必要なのはなるという意思表明と僅かな手数料のみ、故に浮浪者から貴族まで誰でもなれる。


 その能力も人柄も玉石混合、故に冒険者ギルドには実績と信用を担保する為にランクというものがある。


 力が強い、頭がいい、等々の諸々を含めてランクは査定される。


 下はHからA,AA,AAA,S,SS,SSSと上がっていき、H~Gが駆け出し、F~Eが一端、D~Cがベテラン、B

~Aが一流、S以上は英雄と呼ばれ、SSSに至っては生きる伝説とまで呼ばれ、現在は各国の中で5組居るらしいといわれている程度である。


 その一つ下、SSランクでさえ国に片手で足りる数しかいない。


 そんな俺たちは華やかな面から羨望の眼差しと嫉妬の眼差しを受けていた。


 俺の場合は嫉妬の他の眼差しが混ざっていたのだが、それは受付嬢の話でもある。


 俺が運搬や解体、情報収集の雑用をやりながら汚れ役と過酷であるタンクが天職と言える聖盾闘士という目立たない職業である事からスポットライトは他の4人の攻撃が得意な者たちに当たる。


 剣豪、大魔術師、魔拳士、魔弓術士、この職業は攻撃力に偏る上に攻撃も派手になる。


 最初はこうではなかったのだが、5年の月日とトントン拍子に上がっていくランクと周りの声に派手好きな彼らは変っていった。


 そして俺たちの間には溝が生まれて、このざまである。


「全く、情けねえな」


 何に対していうでもなく、そう呟く。


 ギルドの酒場の一件はよくあることでもあるし、刃傷沙汰にならない限りはギルドは介入しない。


 周りに被害が及べばその限りではないが、あいつらに関していえば嬉々として殴りかかってくるしな。


 過去に酒癖の悪い奴と大乱闘に巻き込まれてこってり搾られた経験上それはわかっている。


 それにあれを訴えるのはあいつらのプライドが許さないからな、下手な事はできないだろうさ。


 そんな事よりも、平静を保てなかった事が情けない、1人自嘲しながら俺は街を後にした。





『とりあえず田舎に帰ってしばらくゆっくりしようかな。』


 国境を越え、王都を挟んで逆にある故郷の村を思い出す。


 親も冒険者だった俺は妹と孤児院に預けられる事が多かった。


 俺を生んだ後の両親は共に村の周りの魔獣を狩ったり迷宮の間引きを領主から引き受けて報酬を得る半領主軍といってもいい立場であった。


 公務の為に子供を預かるのも孤児院の一つの業務であり、帰還後は魔物の肉を孤児院に渡していた事もあり俺が来る事に関しては誰も悪い顔をしなかった。


 しかしあるとき、両親は帰らぬ人となった。


 Aランクであった両親であり、実力的なマージンも十分に取る慎重な性格から領主の信任も厚かった二人だが、その日は運が悪かった。


 魔物大行進、通称モンスターパレード。


 何らかの原因があると言われるが不明の突然の魔物の大移動。


 その数は時に万を越えると言われている。


 それに遭遇した両親は即座に撤退を決めたが逃げ切れずに二人でその大群の相手をする事になる。


 魔力が尽きて狙われた母を庇いながら戦う父が重傷を負い逃げ切れないと覚悟を決めた時に母は命と引き換えに道を崩落させ時間を稼ぎ、父は力尽きた母を連れて村に帰って力尽きた。


 その後は領主軍が出張ってきて村は救われて俺の両親は英雄になった。


 幼かった俺たちはそのまま孤児院で育てられた。


 力が無かった自分が悔しかった俺は人を護る力を欲し、争いは嫌いだけど人を救いたい妹も人を助ける力を欲した。


 成人の洗礼という職業を与えられる儀式の時に俺は盾の扱いに長けた戦士に、妹は人を助けられる治療師になった(と聞いたのは手紙でだが)。


 冒険者としての収入の一部を恩返しの為に孤児院に送っていたので稼ぎを良くする為にパーティーを組んでいたがそれも抜けた。


 一度原点に帰ろう、そう思って俺は日の暮れた道を歩き出すのだった。 

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