エボリス家の貴族の場合③
俺はグラン、この街ではそこそこ大きい貴族の家のお抱えの護衛だ。
もともと冒険者をしていたが、そこそこ強くなった時にそのナンセンスさに気がついた。強いモンスターと戦っていればいつか敗れる日がくる。
俺の仲間がそうだった。順調にランクを上げていくが、ある時、ゴミ屑のように死んでしまう。
死んだら終わりだ。そして冒険者の大半は死んで終わっていった。
俺はそんな人生ゴメンだ。
たまたま、貴族の護衛の募集があったときには俺は喜んで応募した。そして当然採用された。
これでも俺はBランク、しかもAランクに近いBランクと言われていたんだ。俺の剣技はすげぇんだ、グリフォン相手にだって負けやしねぇ。
貴族の護衛の仕事は、楽だ。基本的には自分よりも格下としか戦わない。しかもこの貴族は中立派で、対抗勢力もない。
せいぜい坊ちゃんが欲しいものがある時に、そいつを叩っ斬ってやるくらい。それもどいつも歯応えが無いような連中だ。
夜の屋敷の護衛も、基本はこのエントランスで座っているだけでいい。簡単なお仕事だ。俺はウイスキーの瓶を片手に、うつらうつらしていた。
「コンコン」
玄関のドアをノックする音が聞こえる。
俺はその音に目が覚める。こんな時間に訪ねてくる奴がいるだろうか?もう夜更だ。
「コンコン、コンコン」
再びノックする音、俺は立ち上がりドアに向かう。
右手は背中に背負っている剣の柄を握っておく。用心しておくに越したことはない。
「コンコン、コンコン、コンコン、コンコン」
繰り返しノックされる扉を、俺は勢いよく開いた!
誰もいない。
地面を見ると、どこから飛んできたのか木の板が落ちている。外は風もそこそこありそうだ。
「これが飛んできただけか。」俺は剣から手を離すと、ポケットにしまっていたウイスキーの瓶に手を伸ばす。
その時は一瞬にして訪れた。
誰もいなかったはずの扉が開いて、いきなり後ろから大きな腕がグランの首を掴み、そして。
「ゴキッ」と折ってしまった。
口から言葉にならない叫びを上げて、泡を吹くグラン。そして、もう一度「ゴキッ」と首を折ると動かなくなる。
それと同時に手に持っていたウイスキーの瓶が床に落ちて砕ける。
「簡単な話だ。
お前は自分の飲んでいたウイスキーの瓶に転んで首の骨を折っただけだぜ。」
そういうと、グランの死体をまるでゴミを捨てるかのようにウイスキーの瓶の破片の上に捨てたのだった。