エボリス家の貴族の場合①
ここは街の外れにある、今は使われていない武器屋。私は辺りに誰もいないことを確かめると、足音を忍ばせて中に入る。
手前は店舗となっていて、奥は商品の保管場になっている。
店舗の床、ぱっと見には気が付かないが一部分だけ色が褪せている。
私はそこの床に指をかけると、持ち上げた。
そこには地下に続く階段があった。
「よぅ、遅かったな。」
私がカツカツと階段を降りていくと、そこには四人の影があった。その中の一人が、私に言葉をかけた。
「最後まで、客がいたからな。
で、今日の相手はどんな奴だい?」
私は静かにそう返すと、古びた椅子に腰掛けた。
「ミスリルの剣って知ってるかい?」
先ほどの一人とは違う、別の一人がそう言ってきた。
「ああ、最近ホルマーの神殿で見つかったってもので、確かC級の冒険者が未発見区域でゲットしたってお客から聞いたな。」
「そうなんだよ。
ところがこの話には続きがあって、エボリス家の次男が冒険者の真似事してるんだけどね。そいつがその冒険者を殺して奪っちまったんだって。表向きは事故ってことにしてね。」
「ひどい話だね。」
「その冒険者は、やっとこC級になって彼女にプロポーズしたところだったんだ。彼女さん、泣いてたよ。
でも、相手は貴族だ。仕返しなんてできない。
だからね。・・・。」
カランカランと貨幣が机に落ちる音がする。
「この晴らせぬ恨み、晴らしてほしいそうだよ。
・・・相手はその貴族と、実際に手をかけた護衛の剣士、そして揉み消した衛兵の三人さ。報酬は一人金貨二枚。」
「ケッ、むかつく野郎だぜ。
俺が剣士の方をやるぜ。腕が立ちそうだからな。」
一番最初に俺に声をかけてきた男。
筋骨隆々の大男だ。頭の上か生えている角が、彼が鬼人族であると証明していた。彼の名前はセンジョウ。
センジョウは机の上の金貨を取ると階段を上がっていった。
「・・・ではワシは衛兵にしようかの。」
ずっと静かに話を聞いていた一人。
彼はドワーフのナット。小柄で小さく、その瞳は眉毛に隠れていて見えない。表情の読めなさが、怖い。
ナットも机の上の金貨を取ると、ゆっくりと階段を上がっていった。
「じゃあ私は貴族、ということになりますね。」
今回の依頼の些細を伝えてくれた彼女。
人族のネイミーにそういうと、残った二枚の金貨を懐にしまった。
「さぁ、仕事の時間だ。」