第93話 本気出してくださいっ!
「オイ、舞奈」
「ん? あぁ一矢か~…。どうしたの?」
「今の試合、ルイルイの飲み物を取りに行かされていたから、最初からは観れてなかったけど、相変わらず美代部長のアタックって凄いよな!? 小学生の頃にバレーボールをやっていたって聞いているけど、小学生の時もあんなに凄かったのか??」
「うん、凄かったわよ。小学生の頃の美代お姉ちゃんはバレー部のエースっていうか、小学校全体の憧れの存在だったわ」
そっ…そうだよな!!
あの容姿で運動も勉強も出来たら、そりゃあ学校全体の憧れの存在になるよなっ!!
「でもね……」
「ん? でも何だ?」
「でも…美代お姉ちゃんのあのアタックの威力があまりにも凄過ぎるのと、絶対に身体のどこかにボールが当たってしまうという恐怖から、ある時部員全員が美代お姉ちゃんのアタックを受けるのを嫌がったのよ……」
「マジかっ!? それは美代部長には凄いショックだったろうな……」
「うん。ショックだったと思うけど……。それ以上にショックな事があって……」
「えっ!? それ以上にショックな事って!?」
「それはね…美代お姉ちゃんの凄いアタックの噂がドンドン広まってしまって、いつの間にか美代お姉ちゃんのアタックが『殺人アタック』って呼ばれる様になってしまった事なの……」
「さっ…『殺人アタック』だってっ!? なんじゃそりゃ!?」
「そしたら、その噂を聞いた他の小学校のバレー部が、全然練習試合をしてくれなくなってしまって……。そしてそのまま大会の日、一回戦の相手が棄権してしまったのよ。理由は勿論、『殺人アタック』で部員達が怪我でもしたら大変だからって……」
「えぇ―――ッッ!!?? それは凄い話だなっ!!」
「そうなのよ…。それで顧問の先生が気を遣ってしまって、二回戦から美代お姉ちゃんを試合に出さない様にしたの…。結局、試合はそのせいで惨敗…。六年生はこれが最後の試合だったから凄く悲しんでたわ……」
そりゃそうだろなぁ……
「そして試合後、部員の保護者の一部から美代お姉ちゃんを試合に出さなかった顧問の先生に対してクレームがついたの。『何故、越智子さんを出場させなかったのか!?相手が棄権しようがそれは向こうの勝手であって、越智子さんを試合に出すべきだった』って……」
まぁ、保護者の言ってる事も理解出来るけど、顧問の先生も可哀想な気がするよな…。もし相手チームの選手を怪我させてしまったらと考えると……
「それで大揉めに発展してしまって…。結局、顧問の先生はそれキッカケに体調を崩してしまって学校に来なくなったわ。そして、その原因を作ってしまったのは自分だと思った美代お姉ちゃんも深く傷ついてしまって…。そしてその事に責任を感じて登校拒否する様になってしまったの……」
うわぁぁぁぁぁぁぁ…………。メチャクチャ重たい話じゃねぇか……
その出来事が理由で美代部長の性格はあんなに『超ネガティブ』になってしまったんだろうなぁ……。なんて悲しい話なんだ……。『天才』が故の出来事だな。俺みたいに『普通』の人間だったら……って、しつこい様だが俺は『普通』では無いからなっ!!…多分……
ピピ――――――――――――――――――――――ッッ!!
「よしっ! これで四強が出揃ったな。準決勝第一試合が『ミヨミヨ、モチモチペア』対『美男と野獣ペア』。そして第二試合が『ヤミヤミ、ムキムキの副部長ペア』対『テンテン、ショウショウの性格真逆ペア』だな……」
「オイ、準決勝は十分の休憩後に行う事にするぞ。それまでブオブオは私の肩を揉んでくれないかっ!?」
「ルッ…ルイルイッ!! 何て事を言うんだっ!? 生徒に肩を揉ませるなんて…。アンタ、何様のつもりだよっ!?」
「えっ? 俺は全然良いぜ?よしっ、喜んでルイルイ先生の肩をお揉みしよう!! ンフフフ……」
「モブオッ!! なんだ、そのエロい表情は!?」
「ところで仁見……」
「えっ? な…何ですか? 上空君……」
「オイオイ、同い年なんだから敬語は止めてくれないか?」
「あっ、ゴメン…。つい君を見ると親戚の叔父さんと間違えてしまって……」
「いや、そっちの方が失礼だなっ!!」
「すっ…すみません!!」
「だから…、敬語……」
「あっ…。ゴメンよ…」
「まぁ、良いさ…。ところで仁見は身長はどれくらいあるんだ?」
「えっ…僕…? うーん…。おそらく百八十センチはあるとは思うけど…。でも、何でそんな事を聞くんだい?」
「い…いや、俺はおそらく学園で一番背が高いと思うんだが…。誰と話をしても結構下を向いて話さないといけないから結構疲れるんだよ。でも仁見と話をすると、今までの様な首やら腰やらの痛みが全然無くて話しやすいなぁ〜と思ったんだ…。こんなの初めてだから少し嬉しくなってしまってさ……。ただ、仁見の顔が常に横を向いているのは、少々気に入らないところではあるけども……」
「そっ…そうなのかい!? そう言ってもらえて僕も嬉しいよ…。僕もまともに話が出来るのは部活の人達くらいだったから……。ただ、上空君に対して一矢君と同じ様な感情は全然沸いてこないけども……」
「同じ様な感情!? 何だそれ? それは喜んで良いのか? それとも悲しむべきなのか……??」
「まぁまぁ。そんな事よりも、上空君は双子なんだろ? 双子なのに男女の違いはあるとしても全然似てないよね? 特に、体の大きさはかなり違うよね?」
「あ…あぁ…、芽仙の事か…。まぁ、そうだな…。多分俺が母親のお腹の中で栄養を独り占めしたんだろうな…。現に俺が生れた時の体重は五千グラム以上あったらしいが、アイツは逆に『超未熟児』だったからな。命の危険もあったらしい…。俺は生まれた時からアイツに迷惑を掛けてしまったから、どこか引け目があって……。今でもアイツには結構気を遣ってるんだ……」
「へぇ…そうなんだ…。でも兄弟がいるのは羨ましいよ。僕は一人っ子だからさ……」
「あっ…兄貴~っ!! そして仁見君…(ポッ) 私とテルマの敵、絶対とってよ――――――っ!! これはゲームだし、別に花持部長達に気を遣う必要なんて無いんだからねっ!!」
「き…気の強い妹さんだね……」
「ま…まぁな……」
「それに、いつの間にか『テルマ』って呼んでるし…。あの二人、いつの間に友達になったのかな?」
「まぁ、ちっちゃいもん同士で気が合うんじゃないのか? それはとても良い事じゃないか。それじゃあ俺達も、大きいもん同士で仲良く頑張ろうぜっ!!」
「えっ? あ…うん…。頑張ろう……」
「みっ…美代部長!!」
「えっ? 何ですか、一矢君……??」
「あの二人なら絶対大丈夫です!! さぁ、本気のアタックを打ってくださいっ!!」
「えっ…? 本気のアタック……?」
「そうです!! 今までの色々な悲しい思い出をを吹っ飛ばす為にも、この二人に本気の『殺人アタック』をぶちかましてやってくださ――――――いっっ!!!!」
「おい仁見…? 布津野君は一体、何を言っているんだ??」
「ひっ…一矢君!! 君はなんて事を言うんだっ!? 僕は最近『顔面やられキャラ』みたいになっているんだぞっ!! み…美代部長も一矢君の言う事を本気で捉えないでくださいねっ…!! ねっ……?」
「ひ…一矢君から何故かよくわかりませんが、本気を出していいと、お許しを頂きました……」キリッ
みっ……美代部長の目の色が変わったぞ――――――っっ!!!!




