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第82話 それは誤解だ!

ヤッ…ヤバイッ!!早くここから離れないと!!


 ガシッ!!


 あっ!! 腕を掴まれた!!


「ダ…ダーリン…。ダーリンじゃないか…。フッ…フフフ…。やはり、ダーリンは私の事を…」


「ちっ…違う!! 違うぞ、ルイルイ!! これは、ご…誤解だ!! 俺は部屋を間違えただけなんだっ!!」


「フフフ…。ダーリン、別に照れる事は無いんだぞ」


「て…照れてねぇよっ!!」


 どちらかというと、照れというより焦っているんだよっ!!


「まぁ、別に良いじゃないか。妻の寝ているベッドに夫が入り込もうとするのは自然な事だ。まだ式を挙げていないから、私も少しは驚いたけどな…」


「夫じゃねぇよ!! それにベッドに入り込もうなんてしてねェしっ!! なんでそんな発想になるんだ!? 俺は子龍先輩が寝ている時の顔の向きがどうなっているのかが気になったから、布団をめくっただけなんだよ!!」


「フフフ…。苦しい言い訳だな、ダーリン」


「苦しくないし、言い訳でもないぞっ!! これは事実だ!! そんな事より早く俺の腕を掴んだ手を離してくれくれよっ!!」


 しかし、ルイルイの奴、意外と力強いんだな!!


「いや、そう簡単に離せないな。私とダーリンは太くて赤い糸で結ばれているのだから…」


「イヤ糸じゃないだろっ!!ルイルイの手だろっ!!」



 コンコン…


「なんだか、ルイルイのお部屋が騒がしいのですが大丈夫ですか…?」


 ヤッ…ヤバイッ!!美代部長の声だっ!!


「心配するな、ミヨミヨ! 私の部屋でダーリンとイチャイチャしているだけだ」



 バッコーーンッ!!!!


 えぇっ!? 何ィ??


 今、凄い音がしたぞっ!?

 今のはドアの音なのか…? 


 そして、美代部長が今までに見た事の無い形相で立ちすくんでいるじゃないかっ!!


「こ…これはどういう事でしょうか…?」


「み…美代部長…。こ…これは違うんです!! 俺は部屋を間違えただけなんですよ!!」


「ミヨミヨ。見ての通りだ。ダーリンが私の布団に入ってこようとしてな…。まぁ、私は全然オッケーなんだが…」


「うっ…嘘をつくんじゃねぇよ、ルイルイ!!」



「どうしたんですか!? 今、凄い音がしたんですが…?」


 ゲッ!! 舞奈まで来ちゃったよ…!!


「なっ!? なんで、一矢がルイルイの部屋に居るの!? そして、なんでルイルイは一矢の腕を掴んでいるんですか!?」


「そっ…それはだな、舞奈…」


「どうやら、一矢君が部屋を間違えてしまいまして…。ここで子龍君が寝ていると思っていたので、どんな顔の向きで寝ているのかがとても気になり布団に近づいてみると……、急に手が出てきて一矢君の腕を掴み、それがルイルイだったという事ですよ、舞奈ちゃん…」


 みっ…美代部長、アナタは『エスパー』ですかっ!?


「そっ…そういう事だ、舞奈! それなのに、ルイルイが全然手を離してくれないんだよっ!!」


「ふ―ん……。な~んだ、そういう事なの? てっきり一矢がルイルイに『夜這い』をかけたのかと思ったわ」


 はっ…話を戻すな舞奈!!

 それに『夜這い』って…、今は真っ昼間だぞっ!!


「おっ…俺がそんな事する訳ねぇだろっ!!」


「はぁ…、つまんないねぇ…。なんか冷めてしまったわ…。ま、今回はそういう事にしてやろう。それに腹も減ってきた事だしな。そろそろ昼食の時間だろ? ダーリン、続きは今夜にしようか」


「つっ…続きなんてねぇよっ!!」





 ~昼食の時間~


「ウワァ―――ッ!! 何だ、この御馳走は!? すっ、凄すぎる……」

「本当ですねぇ…。わっ…私、生まれてこの方、こんな凄い料理を食べた事なんてありません…」


 カシャッ カシャッ カシャッ


「菜弥美先輩、凄い勢いで料理の写真を撮ってますね? SNSにでも投稿されるんですか?」


「えっ? あぁ、この写真はこの間とってもお世話になった前妻木さんに二学期になったら見せようと思って…、同じクラスだし…。私もネガティ部の人達以外には友達がいないから…。もしかしたら前妻木さんとは友達になれそうな気がして…。っていうか、私もいつまでもこのままじゃダメだと思うからそろそろ頑張ってみようかと…。まぁ、それで今悩み事が増幅しているんだけど……」


「菜弥美先輩! あまり無理はしないでくださいよ! ボチボチで良いので…。悩み事が増えたら元も子もないですからっ!!」


「そ…そうよね、分かったわ。ありがとう一矢君…」


 しかし、こないだ押し入れにあった親父達の昔のアルバムを見て驚いたんだが、菜弥美先輩は俺の母さんの若い頃に似ているんだよなぁ......

 だからなのかな? 俺が菜弥美先輩の事をネガティ部の中で一番頼っているのは?


 でもこの事は菜弥美先輩には言わない方が良いよな。

 菜弥美先輩の事を母親の様に思っているなんてのは失礼な事かもしれないからな......



「あぁ〜、お腹空いた~っ!! もう早く食べたいわっ!!」


 そりゃあ、舞奈はそうだろうな。

 車酔いで食べたものを全て吐き出してしまっているからなっ!!


「見た目は凄い料理だけど、果たして私の『神の舌』を唸らせることができるのかしら…?」


 おぉっ!

 テルマ先輩がいつになく真剣な表情をしているぞっ!!


「ところで子龍先輩が来ていないですが、どうしたんですかね? 俺、結局自分の部屋に行かないまま、ここに来ちゃいましたんで......」


「まぁ、別にいいんじゃない? 子龍なんて放っておいたら…。お腹が減ればここに来るでしょう。それよりも、もうお腹ペコペコだから早く料理をいただきましょうよ!」


 菜弥美先輩は子龍先輩に対しては凄く厳しいよなっ!?

 あっ! 俺も同じかっ!?



「アナタ達、チョット待ってもらえるかしらっ?」


「どうされたんですか、花持さん?」


「食事の前に本日の『総料理長』からアンタ達に挨拶があるの!!」


 えっ? 『総料理長』だって!?


 そういえばこの夏合宿中の料理は全て一流シェフに作ってもらう事になっているが、一体どんな人が『総料理長』なんだろう…?

 とても興味があるなっ!!



 コツン…コツン…コツン…



「おっ! 総料理長が来たぞ!!」


「毎度! 皆さん、ごきげんさん!!」


 !!??


「ア…アンタは『エグゼクティ部』の『後ろ髪くくった人』じゃねぇかっ!?」


「ハッハッハッハ!! 『ミスター布津野』! キミ、それ見たまんまやがな~」


 なっ…何?

 見た目は少しハーフっぽいけど、喋りは関西弁ってのは?


「あ…あの~…。アナタは日本人なんですか…?」


「ハッハッハッハ!! それはよう言われるわ~…。ミーは『コテコテ』の日本人やで~」


 イヤ、『コテコテ』の使い方、間違ってるだろっ!!


「そして、ミーは何を隠そう『関西人』やねん!!」


 それは言わなくても分かるわっ!!


「ちなみに苦手な科目は英語やねん!! なっ、おかしいやろ!?」


「い…いや、別におかしくは無いですが…。よくある『オチ』だし…。そ…それよりも何故アナタが『総料理長』なんですか!?」


「あぁ、それな。それはミーのパパが『三ツ星レストラン』を全国で数店、経営していて、『料理界のドン』と言われてるねん。そんで、ミーも子供の頃から一流のシェフになる為に料理の修行をしてきたからやねん!! まぁ今も尚、修行の身やけどなっ!!」


「そっ…それは凄いですね!! で、失礼ですができればお名前を教えていただけませんか…?」


「おっと失礼~。そういえばまだミーの名前を言ってなかったなぁ…。いつまでも『後ろ髪くくった人』って言われるのも嫌やしな。そんじゃぁ、自己紹介させてもらうわ~…。ミーの名前は、『伏江 流(ふしえりゅういち』って言うねん。よろしくなぁ~!!」


「ふしえ りゅういち…?」


 ちょっと待てよ!?


 逆にしたら『りゅういち ふしえ』だろ......?

 そして文字を入れ替えると……


 …あっ!?


「い…いちりゅうしえふ」……


「いっ…一流シェフやがな~っ!! って俺まで関西弁に思わずなっちまったじゃねぇかっ!!」





 ブォーン…ブォーン…


「ショウショウ先生!! あとどれくらいで別荘に到着するのですか~!? 僕は早く、『ネガティ部』と『ポジティ部』の『合同夏合宿』に参加したいんですが~〜っ!!」


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