第6話 名前を気にし過ぎだなっ!(挿絵有り)
「ご...ごめんなさい! まさかキミが新入部員だとは思わなくて…。凄く失礼な事を言ってしまってホンットごめんなさい!!」
テルマ先輩...、謝ってる姿もメチャクチャ可愛いよな~......
なんかずっと見ていたい位だ。
「テ...テルマ先輩、気にしないでください。俺は全然大丈夫ですからっ!!」
「ホントだよ、テルマ〜気を付けてよ。せっかく仮入部してくれた一矢君がテルマに怒鳴られたショックで、ネガティ部を辞めちゃったら、私の悩み事が更に倍になるとこなんだぞっ!!」
え――――――っ!?
菜弥美先輩それおかしくないですか!?
俺が部を辞めたら何で悩み事が9×2=18になるのかな~???
そもそも何で倍になるの!?
「だって…、毎日毎日、私が教室出てから部室に来る前に何人もの人が私をジロジロ見てくるのよ! ホント気持ち悪いし耐えられなかったの! そして、やっと一番心が落ち着く部室の扉を開けた途端に、君が私の顔をジロジロ見ているような気がしたから思わず......」
いやいやいや~、それはテルマ先輩の気にし過ぎでしょ!?
きっと皆はテルマ先輩があまりにも可愛らし過ぎて、見とれてるだけだと思うし......
「テルマは気にし過ぎなのよ!!」
「菜弥美だってどーでもいい事で悩んでるじゃないの!!」
「どうでもいい事じゃないわよ!!」
オイオイ…何だかヤバくなってきたぞ......
俺ココにいても良いんだよね?
「まぁまぁ、皆さん少し落ち着きましょう。せっかく一矢君が仮入部してくれたんですから、みんなで楽しいお話をしましょうよ」
おっ、さすが美代部長だ。
こういう時は部長らしいんだな?
「と言っても、私は『根暗』だし『ブス』だし『ノロマ』なので何一つ楽しい話題は提供出来ませんが......」
や...やっぱりアンタ、アカン人や――――――っ!!
「ところでテルマ先輩、テルマ先輩の苗字は何て言うんですか?」
「みょ...苗字!?……」
アレ?
苗字の事を聞いたら、テルマ先輩の表情が少し暗くなったぞ。
も...もしかして、苗字は聞いたらダメだったのか?
「あの~、テルマ先輩? 大丈夫ですか?」
「え...えぇ大丈夫よ。わ...私の名前はね…。き…きに......」
「きに…?」
「きっ...き...木西...テルマ...よ......」
「へぇ~っ? 木西テルマ先輩か~」
クルッ......
アレ?
急にテルマ先輩が俺に背を向けたぞ。何でだろ?
「私、フルネームで呼ばれるの嫌いなの。だから私のことは『テルマ』って呼んでちょうだいね。え...えーと...。君の名前は何ていうんだっけ?」
ん?
なんでフルネーム嫌なんだろ??
「あ、俺の名前は『布津野一矢』って言います。よろしくお願いします、テルマ先輩!!」
えっ何??
今度は急にクルッと回って俺の方を向いて少し怒った顔してるぞ。
えっ、何で…?
お...俺、何かおかしなこと言ったかな??
「君が普通の人って事は分かってるの! 私は君の名前を教えてって言ってるの!!」
は――――――っ!?
アンタこそ何言ってるんだ!?
って言うか、どんな耳してるんだよ!?
「テルマ先輩良いですか? よ~く聞いてくださいね? 俺の名前は『ふ つ の ひ と や』です。普通の人かもしれませんが、俺は普通とは思っていませんので…って言うかその話は置いといて、俺は『布津野一矢』ですからしっかり覚えてください。お願いします!!」
ハァ…ハァ…ハァ......
な ...何なんだ...?
またしても自分の名前でこんなに嫌な思いをするなんて......
親父! マジで恨むぞっ!!
「そ...そうなの? ゴメンなさい…。私、勘違いしてしまったわ。『普通』だけどそれを認めたくない『普通』の『布津野一矢』君ね......?」
何ややこしい言い方してんだ!?
アンタ可愛い顔して俺に喧嘩売ってんのか!?
でも表情がめっちゃ可愛いからそんな事言えるわけないけどなっ!!
「一矢君これからよろしくね。そして私の苗字は今直ぐ忘れてね?」
「えっ? そんなに気にする程の苗字じゃないと思いますが…。テルマ先輩気にし過ぎじゃないですか?」
んっ?
ちょっと待て!!
気にし過ぎ...?
気にし過ぎてる…気にしてる......
「あぁ――――――っ!! 『気にしてる』…マ~っ!!!!」
「あ――――――っ!? いっ...言ったわね!? アンタそれ言ったわね~!! 私が一番言われたくない事を…言ったわねーーーっ!!」
い...いや、テルマ先輩もさっき俺の名前で失礼な事言いまくりでしたけど??
なっ...何かおかしくないっすか?
自分のことは棚に上げるタイプっすか?
でも可愛いから許しますけど!!
「一矢君、チョット良いかな?」
「な...なんですか菜弥美先輩??」
「実はテルマは昔から自分の名前にコンプレックスがあって、それを凄く気にしているんだよ。だから『ネガティ部』入部の条件も『下の名前で呼び合う』という約束で入部してくれているから......。テルマの事を今後はフルネームで呼ばないでくれるかな?」
はい、わかりました…っていうか俺だって自分の名前に関してコンプレックス有りまくりだよ!!
ずっと会話してたら分かるだろ~菜弥美先輩!?
でもあまり変なこと言って菜弥美先輩の悩み事が増えてもいけないから、ここは俺が我慢するしかないか......
な...何だろう俺…、まだ仮入部なんだけどなぁぁ......
「はい、話がまとまったところで......」
美代部長、全然話まとまってないですけど......
でも、もうめんどくさいから良いっか。
「そうですね。テルマ先輩とも色々お話したいので、早く部活再開しましょう」
「ひ...一矢君…キミ、『普通』に良い人なのね......」
テルマ先輩、『普通』は余計ですけど?
でもなんか小動物みたいで可愛いし、俺と同じ名前でコンプレックスがあるなんて親近感も湧いてくるなぁ〜......
ん?
でも待てよ。
美代部長も菜弥美先輩もおかしな名前なのに全然気にしている様子はないなぁ…って事は俺とテルマ先輩が気にし過ぎって事なのかなぁ......?
「そういえば部員あと一人いますよね? どんな女性なんですか?」
「えっ? 一矢君、誰も女性だとは言ってないぞ。もう一人は私とテルマと同じ二年生の男性だよ」
「名前は『しりゅう』君って言います。とてもカッコいい名前でしょ?」
「そ...そうなんですか…。男性なんですかぁ…。はああぁぁ......」
なんだろ~この脱帽感は?
何か俺の突っ込み病が出てきそうだ......
そ...そっか、俺は何か期待していて......
でもその期待が崩れようとしているんだ......
そうなんだ、俺がよく観るアニメでは普通最後の一人も可愛らしい女の子のはずなんだ......
それなのに男って......
でもこれは口に出して言うとマズイから、心の中で大きく叫ぶ事にしよう......
『ハッ...ハッ...ハーレムになるんじゃ無かったのか――――――――――――っ!!??』