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五 夜祭り

 昼間の暑さはひいて、すずしい風が、海辺の町にふいた。

 

 夕方になっても、男の子はひとりだった。

 

 そのまま日が暮れるか暮れないかのうち、町に笛や太鼓の音が聴こえ、夜祭りが始まった。

 このお祭りがすぎれば、夏もおわりだといわれているお祭りだった。

 町なかの商店街を抜けて、海水浴場の後ろ手にある神社へつづくまでの、数百メートルの道にお店が並ぶ。

 だけどそれはにぎやかな露天商のお店ではなく、町の商店街が出す小さなお店で、数もまばらだった。

 人も、多くない。

 

 灯かりが道を照らし、おばあさんと、おばあさんに手を引かれる幼い子の影が、大きなけもののようになって、男の子の横を過ぎていった。

 夜店の人は、中でなにかひそひそ話していたり、ぼうっと前を向いたりして、男の子に声をかけるものもなかった。

 商店街の方から、ひととおり歩いたけれど、もうだれともすれちがうことはなかった。

 金魚すくいのお店と、水風船のお店に、子どもらが二、三人座りこんでいた。

 木陰に、お面をかぶった小さな子がいて、一度男の子をちらりと見たようだったけど、それっきりだった。

 ふり返ると、もときた商店街の入り口あたりに、少しひとだかりがあって、ときおり笑い声があがった。

 りんご飴のにおいが、流れてきた。

 

 男の子はやっぱりひとりだった。

 

 笛と太鼓の音が聴こえている、神社へと足を運ぶと、いくつも立ち並ぶ鳥居の向こうに小さく踊る影が見えた。

 さびしい、笛と太鼓の音だった。

 鳥居の影から、じっと見ていると、踊り手の影は五、六もあるようだったが、だんだんと減っていき、そのうち音楽もやんだ。

 すると灯かりが消えまっ暗になり、やがてたいまつをともした行列が、鳥居を抜けてこちらへ歩いてくる。

 

 男の子は、海のほうへ走った。

 

 息をととのえて、防波堤に座りこんでいると、たいまつをかかげた行列は、砂浜ヘとつづく階段をゆっくり下りていった。

 砂浜で、歌か、お経だかしれない、人の声がいくつか重なってひびいていた。

 そしてそのあと、海に、たいまつのよりもっと小さな、小さな灯かりが浮かべられ、それはゆっくり、ゆっくりと、沖のほうへ流れていく。

 

 男の子はそれをいつまでもながめていた。

 

 灯かりは、沖で、見えなくなるかならないかのところでしばらく停止したままのように思えたが、やがて、見えなくなった。

 

 もう砂浜にはだれもいなくて、商店街から神社へつづく道の夜店も皆、かたづけられていた。

 

 男の子は灯かりの去った海の向こうを見つめ、顔をあげれば目に入る、いくたの星々には気づかないのだった。

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