偽りの離婚劇場
五十鈴権次郎。38歳、歌手。演歌界でヒット曲を何本もだす。
五十鈴眞身余。旧姓、多摩川。32歳。元美人モデルで頭脳明晰。自身の頭を活かした職につき収入を得ている。
結婚生活10年。それぞれの仲はよく何も問題は無い。
ただ、1つ問題がある。それは彼らの名声である。30歳を超えてからか歳を重ねてゆくと名声が落ちてきた。
権次郎の仕事のオファーが年々減少している。眞身余も仕事場で自身が何をしていたのか忘れ去れている。
ああ、昔のようにちやほやされたい。2人はそうお思っている。
そこで、2人は家で会議を開きどうやったら名声が増えるのか考えた。
いくらか歌手活動をする。しかし、歳でさすがに動きづらい。
他の業種へに手を出す。しかし、失敗の可能性がある。
何かいい手はないのか? あった。
これなら行けるものを眞身余は提案した。偽装離婚劇。
偽装離婚劇とは表面上はお互いに嫌い離婚して慰謝料裁判をする。最も慰謝料を払うのは権次郎で払っても痛くもかゆくもない。上告、控訴はしない。眞身余の再婚禁止期間6カ月が終わるころに再び結婚し「実はお互いに好きでした」と言えばいい。
悪い意味でだが名声は多くもらえる。
で、離婚原因は「お互いの仕事が違い時間が遅れてしまい会えないから」。実際はかなり会っている。
夫婦はお互いに合意した。
一週間後、用意周到にテレビ局、ラジオ、芸能雑誌などに情報を流して多くのファンに目をふれさせた。「10年間も長く続いたおしどり夫婦が離婚」「このようなことが起きたのはなぜ?」「原因は夫婦間における仕事」 すると、多くのファンや興味のある層が寄ってたかって気になってきたではないか。これを2人は待っていた。まるで、昔のような風景である。 手を振りたい、サインをしたい、歌を歌いたい。しかし、我慢だ。 ここは悲しそうな顔をしてこらえる必要がある。ああ、ちやほやされたい。 裁判所に入り裁判が始まる。さっさと終わらないのか下らぬ時間を。 裁判が終わり2人は出た予定通り権次郎が慰謝料を払うことにした。権次郎は事前に同意しているので文句は無い。 これで、2人の離婚劇は長引かせず終わらした。後は6か月後に迎えるまでだ。 6か月後、2人は長らく再婚した。2人は口をそろえて「再び一からやり直して進もうと思います」と言った。お互いに悪い部分を捨てて前へ進もうときれいな言葉を並べた。 しかし、世間は彼らの行っていることをこうお思っている。「初めから離婚などなかった」 と、思われるだろう。
それは、そうだ。彼らがほしかったのは自由じゃない。ちやほやされたい名誉がほしかったのだから。
いわば、過去の栄光にすがる気持ちである。