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叩き潰し地獄へようこそ

 魔王である。

 魔王はどこにいったのか?

 それは、もちろん地獄である。これから始まるのは魔王にとって今までやらかしてきた悪事の清算とも言える場所へ連れて行かれる。

 果たして魔王の精神は持つのだろうか?



 *



 魔王は目覚めた。見渡す世界は赤い岩山と青い空であった。しかし、妙であった。

 死んだ自分がこんな見知らぬ世界にいるとはどういうことか。勇者はどこにいる。

 魔王はあるこうとした。その時。



「おお、いたいた」



 後ろから声が聞こえた。魔王は声のする方向を振り向いた。

 声の主は鬼であった。黒い作業服を着た日本の角をはやし赤い肌の鬼。それが、魔王に向かってきた。



「よう、あんたがここに来た新人かい?」


「何だ下郎。我は勇者を探すことに忙しいのだ。新人ではない」


「そうでもないよ。あんたはこの叩き潰し地獄に来たからね」


「なんだと?」



 魔王には意味がわからないことだった。無理もない。魔王は自分が死んだと自覚していない。



「おや、あんたは自分が死んだと思っていないのかい?」


「な、何を言っている? 我はこうしている生きているではないか?」


「ところどっこい、あんたは死んでいるとさ」


「ほざきよる。ならば、証拠があるのか?」



 赤鬼は余裕の笑みを浮かべていた。



「あるさ、あんたは知らないと思うが心の中で思ってみろ」


「ほう」



 魔王はためしに心の中で思い浮かんだ。



「バカめがそんなことを……あれ?」


「だろう」


「え、え、え?」



 そう、死んでいる者の証拠は心が筒抜けである。体という強固な鎧によって自らの考えをわからせないようしているが、体を失っているため考えが筒抜けである。つまり、いくら考えても独り言のようにでてくるのだ。



「さあて、これであんたが死んだ自覚しただろうし連れて行くとするか」


「どこにだ?」


「ああ、あんたの性格を更生するために作業所へ連れて行くよ。大丈夫さ、あんたみたいなのが多いから気にするな」


「ほざけ!!」


「あ?」



 魔王は突然、怒った。



「我を誰だと思っておる! 我は第123代目魔王ダーメぞ!

 地獄か何かは知らぬが、我にこれ以上の無礼な行いは許さぬぞ! 我が怒ればおの……」


「やかましいわボケェッ!」


「べパッ!?」



 魔王は赤鬼に顔面を強く殴られ地面に叩きつけられた。



「ぐほっ!? このワシに向かって……」


「何言ってんだお前? ここじゃあお前が生前の地位を振りかざしても「あぁ、そうですか」でスルーされるんだよ。

 わかるか新人。お前が魔王だ、大統領だ、書記長、王様、アイドルか知らねえがここじゃあ何も意味をなさないんだよ。わかったらさっさと歩け。

 足あるだろ?」


「くっおのれえ……」



 魔王は立ち上がり赤鬼に作業所へ案内された。



 *



 魔王が案内された場所は白い工場であった。中に入るとそこには長い机があった。それを挟むように青い作業服を着た多くの生物が椅子に座り何かにホッチキスを打っていた。

 紙には簡単な計算が多く書かれておりそれを皆がホッチキスで打っていた。



「こ、これは?」


「ホッチキスを打つ作業さ。なあに簡単なことだ。なれれば面白いぞ」


「……」



 魔王は悪寒を感じた。今までにないぐらいの寒気だ。生物たちを顔見ると人生をあきらめている顔をした者、笑っている者、恐怖にひきつっている者、独り言をブツブツ言っている者、話し合っている者がいる。

 何かがおかしい。この作業部屋は変だ。



「さあてと魔王さん。あんたはここの作業を頼むよ。なあに意外と楽だよ」


「ああ……」


「それから、服を着替えてもらう。そんな、ダサい服でやったら動けないだろう。

 だから、青い作業服を来て作業をしてもらう」


「この服ではダメか?」


「ああ、そうだ」


「――わかった」



 魔王は赤鬼の言っていることにしぶしぶ従った。一分後、魔王は青い作業服を着て空いている椅子に座り作業を始めた。

 ホッチキスの作業はあまりなれないが適当に打ってみた。赤鬼は見ていたが何も言ってこなかった。



「これで、いいのか?」


「別にいいよ」


「――――」



 魔王は他の冊子にもホッチキスを打った。ホッチキスが切れると棚に置いてあるコの字針を探してホッチキスの中にいれて再び冊子にホッチキスを打った。

 一時間、二時間、三時間も同じことをしている。 魔王は思った。死んでいるため体がつかれない。まあ、いいことだ。

 しかし、帰って不気味なことが起きた。精神的苦痛だ。これは、ただの苦痛ではない。

 マグマに落とすとか、針山による串刺し刑とかんと違う。同じ作業を永遠と繰り返す。これは、ゴールもない道を永遠と歩かされるようなものだ。

 魔王はホッチキスを打っていく。30分後、事件は起きた。



「あああああああ」



 突然、一人の作業員が叫び声をあげた。作業員の顔ははげ頭で肌は白い。目は緑色である。

 鬼の作業員たちがはげを取り押さえた。



「よかったね。これで、もう1つの地獄へ行けるようだ」



 地獄? 何のことだ。はげは鬼たちに担ぎ上げられてどこかへ連れて行かれた。

 それから、30分ごとにまた一人、一人と鬼に連れて行かれた。魔王は胸騒ぎがした。彼らはどこの地獄へ連れて行かれた。そもそも、ここはどういう地獄だ?

 魔王は青鬼に質問した。



「おい、ここから下にもう1つの地獄があるのか?」


「ああ、あるよ。これよりもっとヤバいのがある」


「じゃあ、ここは何をするための地獄だ?」


「そうだな説明してやろう」



 青鬼はこの地獄を知らない魔王に説明した。



「いいか、この「叩き潰し地獄」ってのはな、「生前の行いが悪くなおかつ、死が激しい外傷の物で、霊的能力がまだ発動していない者」を収容する場所だ」


「え?」



 なんとこの地獄は霊的能力を発動するための場所であった。



「なぜ?」


「なぜって、そりゃあだって霊的能力を発動しなかったらお前さんらに恨みを抱いている連中が下層にいる。

 そいつらの恨みを晴らさせておかないといけないからお前さんらをここへ置いているのさ。なあに、霊的能力が発動すればそいつらの怒りが伝わってくるだろうよ」


「―――」



 絶句することである。魔王は今ここにいるのは地獄の一丁目である。本番は霊的能力を発動してからである。



「ああ、言っておくがホッチキス打ちは単なる暇つぶしだ。冊子を読むなり破いたりするのは勝手だ。

 まあ、せいぜい最後の晩餐に近い遊びをするこった」



 青鬼のセリフを聞いて頭が真っ白になった。もう、さらなる地獄へ行くことは決まっていたのか。ここはその調整のような場所か。

 魔王は再びホッチキスを打ち始めた。3時間後、何かが感じてきた。

 見知らぬ女の泣き叫ぶ声、男の怒りの声、子供の独り言、老人の痛み。何だこれは?

 これが、地獄からの叫びか。

 1時間後、声の大きさが高くなり魔王は耐え切れなくなった。



「あ、あ、あ、ああああああああ」



 嫌だ、行きたくない。ここに残りたい。裁かれたくない!



「ぎゃああああああああ!!」



 魔王は耐え切れず発狂した。鬼たちが魔王を取り押さえて別の場所へ連れて行った。



 *



 鬼たちは発狂した魔王を外へ連れて行く。連れて行った場所は底が見えない黒い大きな穴であった。鬼たちは底に魔王を投げいれた。

 穴に真っ逆さまに落ちる魔王。不意に魔王は何かに縛られた。縄のようなものに魔王は縛られた。

 と、どこかに落ちた。ここは闇のようだ。闇が意思を持っているかのようである。暗視ができるようになるとゾッとする者が見えた。

 複数の人間が何かを言いながらこちらに向かってくる。本能でヤバいと思った魔王は縄で縛られて動けずじたばたしていた。人間たちが近づくと声がはっきり聞こえた。



「憎い……許さない……殺してやる……引き裂いてやる………………恨んでやる」



 これは、魔王に殺された人々の怨霊である。怨霊たちは魔王への無念がはらせず地獄にとどまっていたのだ。彼らは魔王に近づき魔王を殴ったりけったり顔をひっかいたり痛めつけた。

 これが、どこまでおさまるのか?

 さあ、怨霊の怒り加減でしょう。

 だって、ここまでしたのは魔王のせいですもの。

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