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勇者と魔王と何か

作者: Mee`s

「お前が魔王か」

「ほう、よくここまで辿り着いたな、褒めてやろう」

『さぁ、ついに勇者と魔王の因縁の戦いが、ここ魔王の城の最奥にて行われようとしています!』

「……誰だお前は?」

「なに? 貴様の仲間ではないのか?」

『私はどこにでもいるようなただの実況ですので、気になさらずに続けてください』

「気にするなと言われても……」

「まあよい、相手が何人いようが返り討ちにしてくれる」

『両者ヒートアップしております、これは名勝負が期待できますねぇ』

「いや、お前のせいで逆にクールダウンしたんだが」

「そんなことはどうでもよい、戦うつもりならば早くかかってこい」

『おーっと、魔王が早くも勇者を挑発している!』

「いいだろう、俺の力を見せてやる!」

『天寿をまっとうした魔法使い、釣ったフグを食べて倒れた戦士、イケメンに寝取られた女僧侶、かつて共に旅をし、そして悲しい別れを経験した勇者の孤独な戦いが今、ついに決着の時を迎えようとしております!』

「なんでそれを知ってるんだお前は!」

「なぜ一人で来たのか疑問だったが……貴様、いろいろと大変なんだな」

『長い人生、そんなこともあるさ』

「そんな悟ったようなことを言われても……」

「ふむ……少々可哀想になったのでな、貴様の最初の一撃は素直に受けてやろう」

「いいだろう……その言葉、後悔させてやるぞ!」

『おーっと、あの四天王で最弱だったあいつを一撃で倒したあの必殺技が出るのか!』

「ほぅ、少しは期待できそうだな」

『なお、四天王の二番手は友人の結婚式に出席、三番手はアイドルのコンサートに、最強のあいつはインフルエンザにかかっていて、三名ほど有給休暇を使っていて今回は不在でした』

「そういうことだったのか! 四天王名乗ったのが一人しかいなくて不安だったんだぞ!」

「有給休暇は労働者の権利であり義務だぞ、そういう日があっても不思議ではないだろう。まぁ、あいつのインフルはちと予想外だったがな」

『ちなみに四天王の三番手には、自分の分のグッズを買ってくることを条件に、特別手当が与えられるそうです』

「部下を私物化してんじゃねーよ!」

「それが魔王の権利である!」

「胸張って言うことじゃないだろ!」

『なお手元の資料によりますと、頑張って行列に並んでいたものの、限定グッズのうち三品目ほど目の前で完売になって入手できなかったそうです』

「嘘だろ! なにをやってるんだあやつは!」

「隙あり!」

『おーっと、ここで勇者が奇襲をかけるがごとく、あの必殺技を繰り出したー!』

「ぐぅっ……ほう、なかなかのものだな」

「くっ、耐えたというのか」

『さすが魔王、あれを耐え切った!』

「さて、今度は我の番だな。ふんっ!」

「うわぁっ!」

『おーっと、今度は勇者がよく分からない力で吹っ飛ばされた!』

「いや、なぜ貴様は微動だにせずにそこに立ち続けておるのだ! 巻き込むつもりで放ったはずだぞ!」

『私はただの実況、いわば背景のようなものです。たとえ火を吐かれても背景は燃えません』

「納得いかんぞ!」

「くっ……まだだ、こんなところで倒れるわけにはいかない!」

『おーっと、少年マンガでよくあるようなセリフと共に、勇者が立ち上がった!』

「頼むから余計なことを言うのは止めてくれ!」

「確かに、緊張感がとことんまで削がれて、精神衛生上よろしくない」

『しかし実況することが私の仕事ですので、その辺はそちらで頑張ってカバーしてください!』

「どうにかして、貴様もろともあれを吹き飛ばせないものか……」

「俺をオマケ扱いするのやめろよ」

「……そうか、吹き飛ばせないのならば速攻で今の状況を終わらせればいいのだな」

「物騒な結論に辿り付くんじゃねーよ!」

「そうと分かれば我が使いこなす百八の力の中でも、そこそこの強さのもので終わらせてやろう」

「最強という言葉を使わないのが気にはなるが、それならば俺も一週間前にちょっといろいろとあって習得した最強の必殺技で決着を付けてやる!」

『ついにこの戦いに決着がつきそうでしゅ!』

「……噛んだ?」

「噛んだな」

『先ほど、不適切な発言がありましたことを、視聴者の皆様にお詫びいたします』

「視聴者の皆様って誰だよ」

「もう貴様は黙ってくれ、戦いに支障をきたす」

『先ほども申しましたが、私は背景のようなものですので気にしないでください』

「背景なら喋るな」

『それはちょっと無理な相談ですね』

「いや、なんで黙っていることが無理なのだ?」

『実況とはそういう生き物なのです』

「ええい、このままじゃ埒が明かん。こうなればすぐにでも決着をつけて、とっととこやつも黙らせるしかないわ!」

「まさか魔王の言葉に同意することになるとは思わなかったが、そうだな」

『さぁ、いよいよけっちゃ……』

「最後まで言わせるか! いくぞ俺の最強の必殺技、スーパーマキシマムエキセントリックファイナルブレード!」

「返り討ちにしてくれるわ! ブラッディダークネスナントナクソレナリニスゴイコウゲキ!」

『おーっと、なにやらもの凄い光を放つ勇者の必殺技と、なんかもの凄く真っ黒な魔王の必殺技が、今この瞬間、真正面から激突したー!』

「……ふんっ、所詮はその程度だったか」

「……ぐっ……不覚……」

『ついに勇者が倒れた! この勝負、魔王の勝利にて決着が付きました!』

「いや、だからあの膨大なエネルギーの衝突の中で、なぜ貴様は無傷のまま平然とその場に立ち続けているのだ?」

『本日の戦え魔王チャレンジはこれで以上となります。次に魔王に挑む勇者が現れるまで、今しばらくお待ちください。それでは皆様、シーユーネクスツッ! この後はスタジオで王様による勇者よ情けない反省会の模様をお送りいたします』

「結局、貴様は本当になんなのだ?」


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