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3/3

時は来た。彼女に伝えるその思い・・・

 「ちょっ!?くっそ、予想外過ぎて対応が追い付かねぇ!!」


 彼女と一緒に居るってことは、こいつら全員魔族って事なんだろうけど……

 まさかこんなに早く再開出来るとは。

 早く話をしたいが、周りの奴らが邪魔すぎる。


 「あれからもう何か月も経ってんだぞ!!これ以上待てないんだよ!!邪魔すんな!!!!」


 ひたすらに蹴って殴る。

 時折つかんで、魔法を撃ってきてる奴らに向かって掴んだ奴を投げ飛ばす。


 あーもうめちゃくちゃだよ。


 「全員止まりなさいッ!!」

 「!?」


 この状況でもはっきりと響いたその声に全員の動きが停止する。

 俺も思わず止まってしまった。


 いや、この状況は止まって正解だな。

 これで俺だけが暴れていたら更に混乱が広がっていただろう。


 にしてもこいつらの執念さえ感じる気迫はヤバいな。

 何度でも立ち上がってくるから怖かった。


 「お、お嬢?」

 「黙りなさい!!私たちの目的を忘れたの?」


 目的?


 「とにかく、今はあなたたちは黙ってて。……久しぶりね、あの時戦って以来かしら?と言っても、私だけ一方的に暴れていただけの気もするけど」


 そうだ、この目はあの時と同じ……


 「……嬉しいよ。神に、いや、君に感謝だ。こうして、言葉を交わす機会を与えてくれるなんて。久しぶりだね。正直、あの時は夢中だったんだ。いきなりの事で君も困惑したと思う。自己紹介もまだだったね、俺の名前は」

 「知ってるわ。ファウスト、人類最強の錬金術師。そうでしょ?……正直に言って、凄く驚いたわ。最初は、聞く必要はない、そう思っていたの。でもね、分からなくなってしまったのよ。あの戦いが終わっても、私の中から貴方が消える事は無かった。……待ったわ、とても……あの戦場で、ずっと待ってた。でも、貴方は現れなかった。あの時のそれは、全て偽りだったんだって、そう思ったの。でも、否定しきれなかった。貴方の身に何かあったんじゃないかって、そんな考えが捨てきれなかったの。実際、貴方はあの時の行動が原因で投獄されていた。……私の心は、今、とても揺らいでいる。迷っているの。だから、確かめたいって思った。ねぇ、聞かせて。あなたのあの時の言葉の意味を……本当の意味を」


 そうか……俺の言葉は、こんなにも彼女を苦しめてしまっていたのか。

 でも、俺はとても嬉しく思ってしまっている。

 俺の言葉は、どんな形であれ、確かに彼女に届いていたのだと。


 だからこそ、もう一度伝えなければならない。


 「俺は、君が好きだ。あの時、君を初めて目にしたその時から、君が頭から離れないんだ。俺は、今の君の言葉を聞いて、嬉しく思ってしまった。君は、沢山悩んでいたのに、苦しんでさえいたかもしれないのに。俺の言葉が、君の中に確かに残っていたことが、嬉しくてたまらないんだ!夜空のように煌めくその髪も、包み込みたくなるようなその手も、優しく、それでいて強い意志の感じるその瞳も、女性らしく、そして信念を感じるその声も、君の全てが愛おしく感じる。……情けないけれど、こんな気持ちになったのは、生まれて初めてなんだ。この激しい衝動を、こころから溢れる感情を、君に伝える術を、俺は言葉しか知らない。……偽りなんてない。誰にも否定なんてさせるもんか。俺は……君が好きだ!!」

 「ッ//////」


 ……本当に情けないな。

 心に浮かんだ言葉を正直に声に出してみたけど……


 はぁ、こんな事になるなら、錬金術以外にも学んでおくんだった。

 知識が足りないッ!!


 「わ、私は……魔族なのよ?貴方は、人族なの。敵同士なのよ……?」

 「そんな事関係ない!!俺は何かを否定するために戦っている訳じゃない!!例え、どんなものが立ちふさがろうとも、俺の思いは変わらない!!……牢の中では、君の事をずっと考えていたんだ。戦友たちには、一時の気の迷いだって、この気持ちを否定された。仲間たちには、お前は狂っているんだって、正気さえ疑われた。……変わらなかった。薄暗く、光のないあの部屋の中でも、この気持ちは変わらなかった。むしろ、早く君に会いたい。この気持ちが強くなっていったんだ。気の迷いなんかじゃない。……なぁ、君の名前を、教えてくれないか?」

 「フェリス……フェリス・ロブレードよ」


 フェリス……フェリス……


 「フェリス、俺は君が好きだ。どうか、君の答えを、聞かせてくれないか?」

 「……貴方は、私の為に、魔族の味方になって戦える?」


 ……戦争、か。

 俺に、魔族と共に人族を殺せと言っているのか。


 「君が、本当に、そんな事を心の底から望んでいるのなら……俺はこの場で自害する。俺は、いくら君のためでも、仲間たちを殺す事なんてできない」

 「どうして?私の事が好きなんでしょ?何があっても、貴方の思いは変わらないんじゃないの?」

 「俺はッ!……俺は、裏切り者が嫌いだ。誰かの思いを踏みにじる奴が嫌いだ。そんな俺が、仲間たちを裏切って君の元に行ったって……必ずそれが心に残り続けてしまう。こんなに好きだと思える君の傍に、そんな奴は相応しくない。いっただろう?何があっても、俺の思いは変わらないと。だから、どうしてもと言うのなら、俺はこの思いを抱いて死を選ぶ」


 胸が苦しい。

 こんな事しか言えない俺が悔しい。

 俺は、どんな時でも堂々と胸を張れる自分でありたい。

 彼女と共に居るのなら、そうでなくてはならないと思っている。

 だからこそ、今の俺には、こんな事しか言えない。

 苦しいな……。


 「……私も同じよ。裏切り者は嫌いだわ。そんな人、信用なんて出来ないもの。フフッ、私は、おかしくなってしまったのね。こうして、人族の言葉に耳を傾け、心を動かされて……もう、何て事をしてくれたのよ……もう貴方の事を殺すなんて、今の私には出来ないわ。……私が貴方に抱いているこの気持ちが何なのか、今は分からないわ。ごめんなさい、私は、貴方の思いに応える事が出来ない。だから……この気持ちが明確な物になるその時まで……私と一緒に、居てくれるかしら?」


 その言葉を聞いて、なんだか心が晴れるような、よくわからないけれど、あふれ出る心地よい感情を感じた。

 多分、彼女は俺の事がまだ好きじゃないんだと思う。

 それでも、俺の思いは彼女に届いた、そう思う。


 「共に居よう。君に答えが出るその時まで。俺は、この気持ちをもっと君に伝えるよ。君が振り向いてくれるその日まで……なんて言わない。伝えるよ、変わらず、ずっと、ずっと。この気持ちは、何があっても変わらないから」


 そう、例え彼女が振り向かなくても、この気持ちが変わる事は無いだろう。

 許されるのなら、ずっと、共に居る事が出来たらいいな。

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