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王都周辺にて、奇怪な再会

 さて、脱獄成功ではあるが、そもそも『彼女』が一体どこにいるのかが分からない。


 「幹部連中はめったに前に出てこないからな……前回はたまたま引っ張りだすことが出来たが……」


 ずっと同じ戦場にいるとも限らない。

 それに、ついさっきまで牢屋の中に居たのだ。

 戦況がどうなっているのかも不明だ。


 「俺を出そうと試みた辺り、あまりいい状況とは思えないがね」


 異種族、それも敵である魔族に恋愛感情を抱いてしまった俺を何とかしようと試みた辺り、何かあったと見た方がいい。


 「そういえば、勇者とかいう奴が居たな。俺が牢屋に入れられた時は居なかったが……」


 一体どこから勇者などという大層な肩書を持った奴を連れてきたのか。

 そんな奴がいるのなら、わざわざ俺を出す必要があるとは思えないが……


 「……まさか、俺を出そうとしたのと戦況は関係ない?」


 だとしたら、俺の知らない何かが国内であったという事だろうが……流石に見当もつかない。


 「ま、いっか。もう関係ない事だ」


 やることはただ一つ。

 彼女に会って、話をする。


 「あの時は何も言ってくれなかったけど、手ごたえはあった……と思う」


 もう一度、この思いを伝えよう。


 「ん?あれは……ワ、ワイバーン!?なんでこんな所にッ」


 戦場を目指して移動している途中で、複数のワイバーンを発見した。

 ワイバーンは亜竜種と言われる魔物で、竜種とは違った存在だ。

 人間とサルみたいな感じ。

 本来こんな所には居ない筈だが……


 「あれは、襲われている人が居るのか!?」


 流石にこれを見過ごせるほど薄情な俺ではない。


 「……まったく、俺は彼女に会いたくて急いでるんだけどね」


 俺は襲われている人たちを助けるために突っ込んだ。


 思い人との再会は、近い。

 サラマンダーくらいの速さで再会する。



~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「くっ……なぜこんな所にワイバーンがッ」


 この任務に就くために数か月かけたのだ。


 私は魔王軍の幹部だ。

 父は魔王様の元で宰相を務めている超が付くエリートである。


 「あと、少しだったのに……ッ」

 「お嬢!!諦めなさんな!!俺たちの力なら、ワイバーンなんて楽勝だ!!」

 「ダメよ!!ここはもう王都に近いの!!派手にやった所を誰かに見られて、もし私たちを調べられたりしたらここまで来た意味が無くなるわ!!」

 「じゃあどうする!?やられる事はねぇが、消耗は抑えられねぇぞ!!」

 「それくらい……わかってるわよ!!」


 この護衛のほかに、お父様と魔王様から頂いた人員が数名いる。


 はぁ、こんなことなら一人で来たかった……一人だったらどうとでも出来るのに……


 『あの人』を探すためにここまで来たのだ。

 その苦労をこんなトカゲ共に無駄にされたくない。


 あの時、戦場で、それも戦っている最中に、私に愛をささやいた人間。

 あれからずっと、あの人間の事が頭から離れない。

 あれが本気なのか、確かめたい。


 本来なら、戯言と切り捨てて、その男を殺すべきだ。

 でも、その男は、私が殺しにかかっているにも関わらず、私に対して一度も攻撃せずに、ただひたすら思いを伝えてきた。

 どうかしていると思う。


 そして、それに対して『興味』を持ってしまった自分もまた、どうかしているのだろう。


 私はもう一度彼に合おうと思い、その戦場にとどまった。

 でも、彼は来なかった。

 やっぱり嘘だったのでは?何か作戦だったのでは?私はそう思った。

 諜報員の調べで分かったが、彼はその行動が原因で投獄されているらしい。


 私は、人間の王都に潜り込み、内部から暴れるという作戦を魔王様に提案し、数か月かけてこの作戦を可決させ、自ら参加の意を示した。

 その時に乗じて、彼と話をしようと思ったのだ。

 ここまでしなければ気が済まなくなってしまう程、彼の事が頭から離れないのだ。

 あの男の口から直接、真偽を確かめたい。

 だからここに居るのだ。


 それを……


 「邪魔させるわけにはいかないッ」

 「お嬢!使い魔が戻ってきました!!」

 「周囲の状況は!?」

 「人間が一人、こっちに猛スピードで向かってる!!このまま暴れて目撃者は殺すか!!」

 「こっちに向かっているのは確かなの!?」

 「間違いねぇ!!」

 「ならその人間がこちらに到着するのを待つわ!!それがどういった人なのか見極めてから動くのよ!!」


 こうしてワイバーンと交戦している間は、使い魔を使って周囲の状況を確認させていた。

 人が居なければ素早く殲滅。

 いるのならそれがどういった存在なのか探ってから動く。

 まだここからだと王都は見えないが、それでも一日とかからない距離だ。

 徹底する必要がある。


 「お嬢!!来たぞ!!」


 私はこちらに来た人間を見た。


 「……え?」


 そこに居たのは……私が探し求めていた人だった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ワイバーンの数は七匹か。

 この地域でこの数は異常だな。

 ワイバーンの生態から考えても、この数がこの場にいるのは偶然じゃああり得ない。


 ワイバーンは竜種とは違い、そんなに長時間飛べるわけではない。

 必ずどこかで休息をとるのだ。

 更に、ワイバーンは巣を作り、そこを中心に活動範囲が決まる。

 ワイバーンは厄介な魔物ではあるが、こいつらよりも強い魔物はいくらでもいる。

 だから、ワイバーンは基本的に自分の巣でしか休憩を取らない。

 他の魔物に襲われないためだ。


 そして、ワイバーンは谷や峡谷などを好んで巣を作る傾向にある。

 この辺りにそれらしき地形は存在しない。

 ゆえに、この数はあり得ないのだ。


 「(誰かがここまで意図的に誘導した?何のために?)」


 それともう一つ、気になることがある。

 どちらかと言うと、ワイバーンよりもこちらがメインだ。


 「(あの襲われている集団、魔力密度が異常だ)」


 魔力密度は、一定の大きさの空間に存在する魔力の濃度のような物だ。

 空気中にも少量の魔力は存在しているが、生き物の身体には大量の魔力が存在している。

 人間などの魔法を使う種族の場合、その体の中の魔力量によってどれだけの魔法が使えるかが決まる。


 まぁ魔法を使える奴は自分の魔力を他人に悟られないように抑える物だが、身体から漏れ出した魔力は抑えられない。

 その漏れ出した魔力の濃度である程度、相手の魔力の最大蓄積量が予測できる。

 魔力を消費しても魔力の濃度は一定なので、現在どれくらい魔力が残っているのかは本人にしか分からないが。


 今目の前にいる奴らは全員が魔力を抑えており、その魔力の濃度もかなりの物だ。


 「(特に中心にいる女性、あの女性はヤバい。うちの国の宮廷魔法師団長を遥かに超えてる)」


 だが服装などはそこら辺にいる商人と変わらないものだ。

 怪しすぎる。


 「(ま、とりあえずそれは助けてから考えればいいか)」


 助けが必要とは思えないが、力を隠しているという事は何かある。


 「全員目を瞑れッ!!!」


 俺はそう叫んである物を投げる。


 そして、俺が投げたそれはワイバーンたちの中心で少し大きな音を立てると共に、強い光を放った。

 脱獄する時にも使った閃光玉である。


 強い光でワイバーンが一瞬怯む、それだけで十分だ。


 俺は右腕の手首から先を剣のようにしてすべてのワイバーンの首を落とす。

 形をしては、剣を持っているような感じ。

 剣の柄の側面に手がくっ付いているような状態だ。


 こうしないと剣をうまく振れないからね。

 因みに俺の右腕は義手だ。

 だからこうして簡単に変形できる。

 変形させているのは錬金術の応用だ。

 他にも色々出来る。

 普段は普通の手と見分けがつかないようになっている。


 腕は生まれた時から無かった。

 錬金術師になろうとした切っ掛けでもあるのだが、それはまた別の機会に。


 ワイバーンが全て絶命したのを確認して、俺は襲われていた集団に声をかける。


 「全員無事か?災難だったな、こんな所でワイバーンに襲われるなんて。普段は居ないんだけどね」


 すると、一番ヤバそうな女性がこちらに来た。

 ……なんだろう、この魔力は何処かで……?


 「お助けいただきありがとうございます。私がこの集団を纏めている者です」

 「そうか……なぁアンタ、どこかで会わなかったか?」

 「……いえ、こうして会うのは初めてかと」

 「……そうか、初めてか」


 気のせいだろうか?

 いや……でも何だろう、何か……違和感のようなものが……


 まぁいい、今はそれよりもやるべきことがある。


 「それで、あんたたちは何をしに王都へ?」

 「私たちは行商でして、王都で商売でもと」

 「へぇ?今は戦争中だし、いろんな物資が足りていないから、王都の人たちは喜ぶだろうな」

 「フフッ、そうですね。この様な時だからこそ、稼ぎ時かと思いまして」

 「ハハハ、商人は逞しいな。っとそうだ。実は面白い物を持っていてな。これなんだけど」


 俺はそう言ってある物を渡す。

 見た目は水晶玉のようなものだ。


 「?これは一体……」


 そう言って自称商人の女性がそれを手に取る。

 次の瞬間。


 「え?これは、まさかッ!?」


 突如水晶玉から青い煙が出たと思うと、その女性を包み込んだ。


 「お嬢!!ッテメェ!!!」


 後ろから一人の男が切りかかってきた。


 「ハハッ!!!やっぱり力を隠してやがったな。それ!!」


 俺はそれを受け流して男を蹴り飛ばす。


 「ぐっ……クソッ、お前らもやれ!!!お嬢を助けろ!!!!」


 男が指示を出すと、周りで大人しくしていた連中が一斉に掛かってきた。

 更に魔法まで打ち始めてくる。


 「おいおいマジか……」


 一瞬にして辺りが戦場のようになってしまった。


 先ほど自称商人に渡した水晶は、普通なら触っても何も起こらない。

 自分の姿を偽ったりしている者にだけ反応する魔道具である。

 そういう奴が触れると、身体全体が青い煙に数秒間包まれて、変身を無理やり解除することが出来る。


 俺が開発した。

 天才だからね。


 「……え?」


 俺は降り注ぐ魔法や攻撃してくる奴らを適当にあしらいながら、先ほどの女性が一体どんな姿に変わるのか見ていると、煙のなかから予想外の人物が現れた。


 「……マジか」


 そこにいたのは……俺が恋した魔族だった。

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