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天才!脱獄す!!

 「よいか、勇者よ。この先にいるのは、千年に一度とさえ言われた天才錬金術師である」

 「は、はい……」

 「どうか、彼を正気に戻してほしい」


 俺は天河あまかわりゅう、日本人だ。

 いつのも学校の帰り道で、突如地面が光り、一緒にいた友達と共に異世界に来てしまったんだ。

 俺はその世界で勇者をやっている。

 今は王様と一緒に、城にいるある人物を尋ねに来たのだが……


 「その……王様、少しいいですか?」

 「なんじゃ?」

 「えっと……正気に戻してほしい、というのは?それと、ここから先は牢獄では?」

 「……奴は正気を失っておる。しかし、その力は絶大じゃ。奴が正気に戻れば、間違いなく我々人類と魔族との戦争は大きく動く。それは間違いない。……あってみればわかるじゃろう」

 「……(ゴクッ)」


 こうやって聞いても、王様は詳しく話そうとしない。

 騎士団長は、その錬金術師は戦争で気が狂ってしまったと言っていた。

 一体……どれ程の地獄を見たのだろうか……

 最強と言われた人がおかしくなる戦い。

 その中に、また彼を戻してもいいのだろうか?


 ……考えても分からない。

 あって話をするべきだ。

 もしかしたら、俺の力になってくれるかもしれない。


 「ここじゃ」

 「…………」


 今、目の前に一つの扉がある。

 頑丈そうな金属の扉だ。

 異常なほど鍵が付けられている。

 そして、その全ての鍵と扉本体、壁にまで魔法が付与されている。

 厳重すぎる……俺が入ったら、出るのにどれくらいかかるのか、想像することも出来ない。


 このなかにいる……


 ガチャガチャ……ガチャガチャ……ガチャガチャ……ガチャガチャ……


 「…………」

 「…………」

 「す、すまんな。もう少し待ってくれ」

 「あ、はい」


 ガチャガチャ……ガチャガチャ……ガチャガチャ……ガチャガチャ……


 「……(なげぇ)」


 ガチャガチャ……ガチャガチャ……


 「……ふぅ、ようやく開いたぞ。さぁ、勇者よ。どうか、彼をよろしく頼む」

 「わかりました。俺に任せてください」


 俺は扉に手をかける。


 「(……よし、開けるぞ)」


 ガチャ……


 重い扉がゆっくりと開いた。


 「ッ!?」


 中は薄暗く、何もない。

 部屋の真ん中に、一人の男が座っているだけだ。


 俺は、勇気を振り絞って、胡坐をかいて座ったまま動かない男に近づいていく。


 「……見ない顔だな。初めまして、俺は錬金術師のファウストだ。君は?」

 「初めまして、勇者をやっています。リュウです」

 「そうか、君が……」


 男はうつむいたまま自己紹介をした。

 動こうとしないが、普通に喋っている。

 狂っている様には思えないが……


 「あの……俺は、あなたがおかしくなってしまったと聞いています。どうして、こんなところに入れられてしまったのですか?」

 「なんだ。聞いていないのか……あぁ、そうだとも。俺はおかしくなってしまったんだ」

 「…………」


 話してくれるのか?この人が、どのように狂い、何が原因でそうなったのか……

 これは、俺にとっても貴重な情報になるはずだ……ッ


 「『恋』さ」

 「……へ?」

 「戦場で、恋をしたんだ……初恋だった、一目惚れだった……」

 「恋……ですか?」

 「あぁ……やはり、分からない」


 少し、言葉に込められた感情が強くなった気がする。


 「みんなそうだ!!俺の話を聞いて、それは一時の気の迷いだとか言うけどッ……違う!!いくら考えてもッ、悩んでもッ、俺の答えは変わらないッ!!!」

 「ッ!?」


 男はいきなり声を荒げで喋り出した。


 「ッ……ふぅ、すまない。何も知らない君に、見苦しいところを見せてしまったね」

 「大丈夫……ですか?」

 「あぁ、ありがとう。もう大丈夫だ。……俺は正気に戻った!!」

 「…………」


 何だろう……裏切った奴がそのセリフを言って戻ってきて、かと思ったらまた裏切るとかいうトンデモない事をやった奴の顔が見える気がする。


 「あの、本当に大丈夫ですか?」

 「俺は正気に戻った!!だからここから出してくれ!!」

 「騙されるな勇者よ!!それはそいつが以前もやって脱走を試みた手口だ!!」

 「ッ!?」


 やっぱりかッ!!

 そう簡単にはいかないみたいだね。


 「本当にそう思うか?」

 「なんじゃと!?」

 「天才と言われた俺が、二度も同じ手口を使うとでも?……もう準備は整った」

 「一体何を……ッ!?王様!!危ない!!」


 俺は咄嗟に王様に覆いかぶさる。

 すると、当たりは強い光に包まれた。


 「……だ、大丈夫ですか王様」

 「う、うむ……助かったぞ……いや、待て……まさかッ!?」

 「え……しまったッ」


 牢屋の中は、既に空になっていた。

 周りに被害は何もない。


 「やられたッ!!フェイクだったか!!」

 「クッ……逃げられてしまったか……」

 「申し訳ございません王様。俺が余計なことをしたばかりに……」

 「謝ることは無い。我も詰めが甘かったわ」

 「しかしッ、このままでは被害がッ」

 「その心配はない。奴は人を傷つけるようなことはせん」

 「……えっ?じゃ、じゃあ何でこんなに厳重に……」


 一体、何のために?

 彼は何をしたんだ?


 「恋をした、と言っていたじゃろう?」

 「は、はい」

 「……その相手は魔族じゃ。それも、魔王直属のな」

 「え?」

 「奴はな、その魔族に、あろうことか戦場のド真ん中で告白してな。……何とか目を覚まさせようと、いろいろ試したのじゃが……」

 「えぇ……」


 なんじゃそりゃぁ……



~~~~~~~~~~~~~~~~~



 「フハハハハ!!!!馬鹿め!!牢屋の中にあった物と手持ちの物で作ったんだ!!大した物なんて出来るわけが無いだろうに」


 精々『一瞬だけ強く光る変な物体』ぐらいだ。

 あの環境で作れるのはな。


 「待っていてくれ……もう一度、君に会いにいくよッ」


 俺は城の中を駆け抜ける。


 「どけぇ!!!!」

 「ッ!!?脱走だぁああ!!!!!ファウスト様が脱走したぞぉおおおお!!!!!」

 「うるせぇええ!!!!」


 俺は錬金術で改造した体で殴り飛ばす。


 「ハッハッハッ!!!お前らに止められる訳が無いだろうが!!!俺は世界最強の『戦う錬金術師』だぞ!!!!」



~~~~~~数時間後~~~~~~




 コンコン


 「入れ」

 「失礼します。報告があります」

 「……ファウストの件か」

 「はっ。ファウスト様は、城の兵士たちを素手で無力化しながら逃走し、城内にあるご自分の研究室から装備や道具類を持ち城から脱走。先ほど、税金を街の門番をしていた衛兵に叩きつけてから逃走したと報告がありました。税金をぶつけられた衛兵は、腕が骨折、背中を打撲するなどの怪我を負ったようです」

 「……そうか」

 「私からの報告は以上となります」

 「ご苦労だった。下がってよいぞ」

 「はっ。それでは失礼します」


 ガチャ……


 「ふぅ……」

 「お疲れですな、陛下」

 「全くだ。税金をしっかり払って堂々と出ていったあたり、なんとも言えない気持ちになるが……腕の骨折に背の打撲……どんな威力で叩きつけたんじゃ……」

 「怪我をした衛兵は、後程治療費を渡しておきましょう」

 「そうしてくれ」


 はぁ……ただでさえ仕事が多いのに、余計な仕事を増やしおって。


 「ほれ、半分手伝え、ヴァイル」

 「私は私で仕事があるのですが……」

 「どうせサボって茶でも飲む気じゃろうが!!宰相なんじゃから手伝え!!」

 「はぁ、やれやれ。何が悲しくてこんなおっさんと同じ部屋で仕事をしなければいけないのか……」

 「……本気で言っておるのか?」

 「本気で言っていたら、あなたと何十年も一緒にいないですよ」

 「「フへへへへへへ」」


 おっさん二人の笑い声が部屋に響く。

 楽しそうで何よりだ。



~~~一方その頃、勇者は~~~



 「はぁ……」


 まさかあんなに強烈な人が牢屋に入っているとは思わなかった。

 どっと疲れが押し寄せてくる。


 俺は部屋に戻った。

 身体を動かした訳じゃないのにつらい。


 「お?お帰り。どうだったよ天河てんが

 「TEN〇Aじゃない!!あ・ま・か・わ・だ!!変な読み方をするなぁ!!!」

 「ハハハハッ!!!!」

 「はぁ、やめてくれよ疲れてるんだ」


 こいつは犬山いぬやま海斗かいと、一緒に召喚された奴で、小学生からの友人だ。


 「……何かあったのか?」

 「脱走したんだ、団長と王様が言ってた人」

 「は!?大丈夫なのか!?」

 「よくわからないけど、人的被害に関しては大丈夫らしい。ただ……」

 「ただ?」

 「この戦争に、どんな影響がでるかは未知数だって王様が言ってた」

 「マジかよ……っていうか、たった一人で戦争に影響が出るってどんな存在だよ。そんな事出来るの、俺たちみたいな異世界から来た奴だけだと思ってたよ。俺らって勇者とその仲間って事で神様から能力貰ってるし」

 「……王様は、同じ人間だと思わない方がいいって言われたよ。実力に関しては……今の俺たちが束になっても絶対に勝てないくらいらしい。団長も言ってたから間違いないと思う」

 「マジかよ……チートで勝てないって……それヤバくね?俺たちってことは、あの二人も含めてだろ?」


 一応、他にも一緒に召喚された人が二人いる。

 同じ学校に通っている女子が二人。


 「あぁ、全員いても勝てないらしい」

 「……戦ってみたかったなぁ」

 「えぇ……俺は嫌だよ」

 「なんでだよ。気になるだろ?」

 「そりゃあ……戦ってる所を見てみたいとは思ってるけど……」

 「だろ?でも脱走しちゃったのかぁ~。どっかで見れるかなぁ?」


 ……もしかしたら見れるかもしれない。

 口には出さいけど……戦場で、正面からね。


 ま、そうならない事を、今は祈っていよう。

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