第6話 休日
─朝6時─
朝日が差し込む。
魔術師学校に入ってはじめての休日。
今週は魔術師として小さいけど、僕らにとって大きな1歩を踏み出せた。
確かに魔術師を目指すに当たって、こんなものは序の口であり、これからもっと困難にぶち当たる。
だが、あの達成感は気持ち良かった。
今日はご褒美だ。
のんびり過ごそう。
さて、今日は何をしよう。
エルダからもらったマンガは昨晩に読みきったし、残念ながらスマホは繋がらない。
爆発事件で地下ケーブルごと破壊され、魔術世界でスマホが使えなくなったのだ。
一応、連絡手段として固定電話やメイティア王国内仕様の携帯電話はあるが、スマホではない。
本当に何をしよう。
勿論、何もせずにだらだら過ごすつもりはない。
本来この学校の生徒は週に2日の休日が与えられている。
しかし、僕らはいろいろ事情があり、暫くは休みが週に1日だ。
時間を大切に使わねば。
とりあえず、部屋にいてもすることが...
TVがあるではないか!
しかし、こんな時間にバラエティーとかがやっているわけでもない。
というか、そもそもこの世界にバラエティーが存在しない気がする。
やっぱり何もすることねぇ。
ということで、部屋の外に出る。
長すぎる廊下の左右を見渡す。
まだ朝早いため、廊下には誰もいない。
とりあえず、探検がてら寮の廊下を北に向かう。
静かな廊下をひたすら歩き続けるが、何もなく寮の北端に着く。
階段で1階に降りると、外への出口に、郵便ポストがある。
そう言えば自分にも郵便物が届いてたりするのかな。後で確認しよう。
さて、今度は南に向かう。
1階は、寮の共用スペースが入っている。
飲みものや、食べ物、日用雑貨の自販機と休憩所、会議室、トレーニング室、卓球場等色々ある。
夜に見れば興奮するのだろうが、朝の静けさがそんな気を起こさせない。
そのまま何かが起こる事もなく、一番南まで来た。
このまま寮を歩き回るのもつまらないし、不審に思われるかもしれない。
仕方ない、部屋に戻ろう。
そう思ったとき
「なあ、あんた」
「ん?」
1人の男子生徒が声をかけてきた。
年齢は僕と同じくらいだろうか?ちょっとチャラチャラしているようにも見えるが、真面目にも見えなくはない。
「時間潰しに困ってるんだろ?」
「え?」
「あ、当たってた?適度に言ったんだけど。」
こんなくだりどっかで...あっ、兄だ
「ええ、まあそんな感じです。」
「そうか、まあ座れよ。」
僕は言われたままソファーに座る。
と、同時に男が立ち上り、自販機の前に立つ。
「何飲みたい?」
「え?いや、そんな気を使わなくていいですよ。」
「別に気なんか使ってねえよ。こういう事は、素直に甘えるのが一番。で、何飲みたい?」
「では、お言葉に甘えてコーラを。」
「あー、残念、売り切れとる。」
「じゃあココア」
「売り切れ」
「えっ、じゃあスポーツドリンク」
「売り切れ」
「ふぁ!?じゃ、じゃあリンゴジュース」
「それも売り切れ」
「じゃ、じゃ、じゃあ...お茶」
「売り切れ」
「えっ、嘘...」
「はは、嘘だよ。お前の反応面白いな。ほれ、コーラ。」
男はそう言って、コーラを投げた。
男もコーラを買って、僕と少し距離を開けて隣に座った。
プシュッ──
2人ほぼ同時にコーラを開けて、飲み始める。
コーラが、舌から喉にかけて、甘さと潤いと刺激を与えて流れていく。
旨い。
「お前、俺の事知らんよな?俺は津田 裕也、3年生で、今攻撃魔術の氷魔法を専攻している。寮の部屋は329B。」
「僕は大江 修司、一応1年生?ってことでいいと思います。」
「一応?」
「はい、実はつい先日編入してきたばかりでして。」
「ほう」
すると、彼は少しニヤけた。
えっ、その顔は決して僕を利用しようとか、そういった思惑から来たものじゃないよね?
勝手に出来てしまったものだよね?
脅すとかしないよね?
「新入りぃ!もっと働けぇ!」とかないよね?
先輩の心は綺麗だと僕は信じてます。
「そうか、面白い。」
はい、アウト。
これアウトパターン。
さよなら僕の青春。
とはならなかった。
「じゃあ、俺は今日からお前の頼れる先輩だな!」
彼の顔は清々しい笑顔になっていた。
ああ、やっぱり先輩の心は綺麗だった。
とはいえ、急にこういう事言われると少々驚く。
「え、あ、その、ありがとうございます。」
「いいってことよ。お前出身は?」
「......平瀬です」
「そうか、ってことはあの事件に巻き込まれたんだよな?」
そういった瞬間、彼の顔が曇り始めた。
とりあえず話を続ける。
「はい、僕はあの事件に巻き込まれました。」
「まあ、お前も大変だったな。」
「お前も?もしかして先輩も被害者ですか?」
「んー、まあ間接的にはそうかな。
俺は姓名共に漢字だけど、生まれも育ちもケイネス。だから何もなかったかのように見えるけど、運悪く、事件当日に俺の妹が平瀬に行ってたんだよ。
その後の母の崩壊は凄かった。可愛い妹だったからな、俺だって辛いよ。」
彼の顔は辛そうだった。
ついさっきまでの笑顔は跡形もなく消えていた。
今回の事件は多くの人の心を傷つけた。
特に家族を突然失うことの心の傷は計り知れない。
少なくとも、今目の前にいる彼は心に傷を負っている。
そりゃそうだよね。
自分の隣にいた人が突然いなくなるんだもん。
僕だって兄や美奈が消えたら辛い。
今回の事件、犯人が誰で、どういう目的でやったのかは分からないけど、でも、目的達成のために罪のない国民を犠牲にした。
犯人が許せない。いや、許してはいけない。
そして、僕らに舞い込んできたとてつもなく大きな依頼。
絶対に解決しなければならない。
僕は改めて強く決意を心に刻むのであった。
「やめやめ、暗い話してばっかでもつまんない。パーっと行こうぜパーっと。」
「まっ、そうですね。」
いつまでも過去を引きずっていてもしょうがない。
前を向こう。
「あっ、そう言えばさっき面白いとか言ってましたけど、あれって何だったのでしょうか?」
「えっと、まあ修司には実験台になってもらおうと思って...」
はい来ました。再びアウト。
やっぱり利用する気満々じゃんか。
「一体僕は何に利用されるのでしょうか...」
声が若干震える。
だって怖いじゃん。
「おや...ある人物のね...」
今絶対親父って言おうとしたな。
てか本当に怖いパターンよ、これ。
後で彼の父に何か言いつけて、それで何かされちゃうとか。
ダメだ、いつもこういう事ばっかり考えちゃう。
冷静になろう。
すると彼は質問を変える。
「修司、お前の魔術の実力ってどれくらいだ?」
「恥ずかしながら、火と水の基礎級が使えるようになった程度です。」
「全然ダメだな。」
「ストレートに言わないでくださいよ。」
入ったばかりとはいえ、やっぱり落ちこぼれの目で見られるんだな。
心に傷がつく。が、すぐに治療された。
「ならば、親父の実験台になるべきだな。」
「今さらっとある人物言いましたね。」
「あっ...、まあそれはともかく、お前の大きな手助けにもなるはずだよ。」
大きな手助け。やっぱり魔術師になることについてでだろうか。
となれば、彼は僕の救世主になる。実にありがたい。
「手助けになるのであれば、なってみましょうかね。」
「じゃあ、今日から俺らはダチだな!」
「はあ...」
よく分からないけど、初対面から僅かな時間で、
顔見知り→頼れる先輩→ダチ
へと昇格した。
マブダチへの昇格もそう遠くはないだろうな。
こんなスピード出世、何か思惑でもあるのだろうか。
まあ、学校生活は友達がいるからこそ楽しいものだ。そこは気にしない方向で行こう。
「ちなみに何の実験台になるのですか?」
「それはお前が基本級を使えるようになったら教えよう。」
ならば、早いこと基礎級、基本級をできるようになろう。
「あの、実は僕には兄と妹がいるんですよ。彼らも実験台にさせましょうか?」
奥義!『道連れ』である。
「そうだな...まあ、今回はやめといてくれ。趣味とはいえ、あんまりこの事を広められたくないそうだし。」
「僕は先輩のお父さんの趣味の実験台になるってことですか...」
「あっ...」
ボロボロと情報が出てくる。
趣味か...会話からしてたぶん大丈夫だろうが、広められたくない...疚しいことがあるかもな。
でも、僕の手助けになるのなら目を瞑ろう。
こうして、頼れるダチ?ができて、僕の手助けになるらしい趣味の実験台になった。
騙されていなければの話ではあるが。
その後何となく過ごしてたら何となく時間が過ぎていて後悔するのであった。