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第5話 基礎級

 エドワードから杖を受け取った僕ら。

 これから魔術師の土台の中の土台である基礎級を習う。


 基礎級は、全8種ある魔術の内の攻撃魔術6種、火、水、氷、雷、風、土魔法全てを手の上で生み出すことが出来る状態を指す。


 これは簡単そうだな。ま、基礎級だし。

 エドワードはまるで一発芸をするかのように軽々と手の上に生み出していく。


 手順はこうだ

 まず、手のひらを向けます。

 同時に、杖の先を手のひらに向けます。

 次に、「ファイヤー!」とか「ウォーター!」とか言う。

 最後に手から色んなものが出ている。


 ね、簡単そうでしょ?

 なんて思ってやったらこれが全然できない。

 できそうな気配もない。


 今日1日僕も、兄も、美奈も誰1人として成功した者はいなかった。


 エドワードは多少は教えてくれたりしたが、基本は僕らが苦戦している様子を見ていた。

 自分が思うようにやれば良いとのことだ。


 そうして今日の課程を終えた。

 寮入りは明日からということで、今日は一旦アルモ家の屋敷に戻る。


 ─翌日─

 午前中は寮入りの準備となった。

 まさか寮入りとは思ってなかったので、部屋は散らかっていた。


 しかし、数日間だったが、本当に色々お世話になった。

 この家のおかげで僕らは魔術師への1歩を踏み出せた。

 感謝してもしきれない。


 荷物をまとめた後、僕は屋敷の住人それぞれに挨拶をした。

 そして最後にエルダ...


 コンコン──


「修司です。」

「いいよー」

「失礼しま!?」


 部屋に入った瞬間、とある光景が目に入った。


 なんと!目の先で美奈がマンガを読むのではなく、鞄にマンガを詰めているではないか!


「ちょちょちょ、何してんの?」

「見ての通り、マンガを詰めてるのよ。」

「ええええ」


 驚きながらエルダの方を見る。


「別にいいですよ。また買えばいいですし。」


 エルダはニコッとする。


 そ、そんなもんかねぇ。

 なんて思っていると、奥で誰がゴソゴソ──

 兄である。


「おい兄ちゃん」

「ん?」

「何しとるんや」

「見ての通り鞄に詰めとる。」


 美奈は10万歩くらい譲っていいとして、兄はいいのか?

 するとエルダが


「修司先生、あの人って兄でいいですよね?」


 あっ、そもそも面識がない...

 存在は知ってたけど兄はずっとバイトしてたから見たことないのか。


 てことはなに?エルダは見知らぬ人に部屋に入ってこられて、マンガを持っていかれる...

 恐怖じゃん。


「はい、なんかすいません」

「全然大丈夫ですよ。また買えばいいですし。」

「本来なら僕らが買わなきゃいけないんですがねぇ。  

 まあ、そう言ってもらえるとありがたいです。」


 とか言いつつ僕も数冊もらったが...


 僕らは準備を整え、屋敷を去った。

 まあ、休みの日に電話一本掛ければむかえにきてくれるが、とりあえずは暫く屋敷ともエルダともサヨナラだ。


 滞在期間が短かったためか、別れの際でもみんな軽かった。

 エルダも少し寂しそうだったが、それまでだ。


 兄と美奈はそんなこと一切気にすることなく、アルモ家が用意してくれた大きな鞄の半分を占めた大量のマンガを読んでいる。


 召し使いは鞄を積む際、軽々と持ち上げようとしたら、予想以上の重さで、現在腰を痛がりながら運転をしている。



 事故らないでね?



 そして学校に着く。

 いよいよ学園生活が始まる。

 どんな青春が待っているのやら。

 そんな期待を抱きながら、僕らは召し使いと別れ、寮に向かう。


 学生寮は、学校の敷地の東側に南北を貫くように建っている。

 建物は7階建てで、巨大だ。

 そして長さはどれくらいあるだろうか。

 おそらく400メートル、いや、余裕でもっとある。とにかく長くて、先が見えない。

 全力で走れば乳酸がわんさか出て、ケツ割れを起こすだろう。


 北から南に向かって走れば、走り終わった目の前には休憩所があり、自販機も設置されている。

 床に倒れ込まずに、ソファーの上に倒れ、自販機で買ったスポーツドリンクを飲む。

 いいトレーニング場じゃないか。


 ちなみに2~4階は男子、5~7は女子、1階は休憩所や会議室など、共用スペースとなっている。

 異性の階に行くのはダメではないが、行くと面倒な事が起きそうだ。


 となると、僕ら3人が打ち合わせをするのは1階の会議室だ。

 あんまり3人の部屋が離れすぎると、そういうことを行うのも大変なので、部屋が近くなるようにした。

 と言っても電話を掛ければいいだけのことだが。


 僕は寮の4階、448B号室、兄は隣の449B号室、美奈は6階の650B号室になった。


 部屋の中に入る。

 部屋は案外立派だった。

 1人で暮らすには十分な広さだ。

 玄関を過ぎ、すぐ右手には洗面所と浴室、左手にはクローゼット。

 さらに進むと右手にキッチンがある。

 その奥にはテレビや机、ベッドなどがあり、ベランダもある。

 ベランダからは、首都ケイネスの中心部の摩天楼が目に入る。

 4階と、やや低い階ではあるが、十分夜景は楽しめるだろう。


 荷物を置き、僕は兄の部屋に行く。近辺の部屋に挨拶をするためだ。

 兄はダルそうにしていたが、一緒に来た。

 が、僕らの左右の部屋は空き部屋だった。

 まあ、これだけ巨大な寮であれば当然だ。

 とにかく、一番近い左右の部屋に挨拶をしようと思ったら、どちらの部屋も留守だった。


 よくよく考えれば、今は授業を受けている生徒も多い。

 夜に出直そう。


 ─昼─

 僕らは敷地の西側、教室棟等が並ぶ中にある食堂へと向かった。

 食堂の中は広く、昼時とあって混雑している。


 昼からは実践練習だから、あまりガッツリした物は食べない方がいいだろうと思いつつ、僕は牛丼を、兄はトンカツを、美奈はステーキ丼をガッツリ食べる。


 ちなみにお金はアルモ家がくれた。

 これからも定期的に送ってくれるそうだ。

 すごくありがたい。

 食堂の食事代も安い。

 さらにありがたい。

 食事でケチケチしなくてもいい。

 最高だ。


 

 一応、この学校は専門学校であり、高校のようにきっつい校則があるというわけではないので、自由だ。

 バイトに出るのもよし、お出掛けするのもよし、旅に出るのもよし、でも自己責任。


 その後、僕らは実践練習場へ向かう。


「ちゃんと寮入りは出来たか?」


 エドワードが問う。


「はい。」

「あの部屋凄くないですか!」


 美奈は若干興奮状態。

 まあ中2で1人暮らしにしてはかなり贅沢だな。


「そうだろうな。あの寮も最近で来たばかりだし、この魔術師学校の一大プロジェクトとして建てたものだから、我々学校側としても自信はある。」


 流石3大魔術師学校。

 これもアピールの一貫だろうか。

 逆に兄は女を呼べないとか何か僕には無縁なことでグチグチ言ってた。


 まあ、住めば都だろう。

 僕個人としては十分都だが。


 そんな話は置いておいて、昨日の続きだ。

  昨日は誰も成功しなかった。

 魔術を扱うにあたって大切なことは3つ。



 技術、集中力、体力だ。



 体力面は別の機会に対策をとるとして、僕らが意識することは残りの2つ。

 魔術を扱えないということは、その2つのどちらか、もしくは両方ができてないということだ。


 さて、どう攻略しようか。

 エドワードはゆっくりとお手本は見せてくれるが、それ以上は教えてくれない。

 やっぱり、自分で試行錯誤して見つけねばならない。


 

「ファイヤー!ふぁいやー!fire~!」


 

 何も起こらない。

 ため息をつきつつ、兄を見るとかなり不機嫌だった。

 やはりできないことにイライラしているのだろうか?


 2割はそんな感じだが、残りの8割は違うらしい。

 そう言われて、隣の方を見ると、数人の集団が魔術をバンバン使ってた。

 この学校の生徒である。


 本来この学校は春に募集をかける。

 そのため、僕らみたいに途中入学をする者はいない。

 僕らはあくまで特例で認められて入学したのだ。


 今の時期は、新入生が入学して半年は経っている。

 だからみんなもうある程度は魔術を扱えるのだ。

 しかし、彼らは僕らがつい先日入学したことも、平瀬にいたことも知らない。


 つまり、彼らにとって僕らは落ちこぼれとして目に映るのだ。

 さらに言うかなら、この魔術師学校は小学校を卒業すれば入れる。

 魔術世界では義務教育である小学校で基礎級は扱えるようにする。


 また、この学校に小学生から入る人は少なく、中学卒業後に入学する者が多い。

 中学では基本級を扱えるようにする。

 ちなみに、魔術世界に高校はない。

 厳密に言うなら、技術世界の大学に行くための高校はあるが。


 となると、この学校にいる人たちの多くは僕らと同じ年代で、入学当初で最低基礎級、基本級は扱える状態だ。


 しかし、僕らはそんな彼らと違い、基礎級すら扱えない。

 となれば、彼らがとる行動はひとつ。 

 馬鹿にするのだ。


 僕らを指さして笑っている。

「あいつらあんな事すらできないんだ。」とか、「何でこんなところにいるの?場違いすぎでしょ」なんて言っているかもしれない。


 ここは我慢だ。

 現に僕らは基礎級を使えてない。

 馬鹿にされるのは当然だ。


 しかし、兄は爆発寸前。

 こんなところで暴力事件とか起こして退学になったら元も子もない。

 僕と美奈で必死に押さえた。

 そして何とか兄には怒りを鎮めてもらった。


 でも、正直悔しい。

 美奈も悔しそうだし、兄は悔しさではなく怒りとなった。


 だから何とかして基礎級は出来るようにしたい。

 しかし、現実は甘くない。

 今日もできなかった。


 よくよく考えれば、小学生が6年かけてやることだもんな。

 そりゃ、簡単にはできない。

 そんなことは分かってる。分かってるけどあの馬鹿にするような笑いが悔しい。


 僕らはその後寮に戻った後も部屋にこもり、杖を持ち続けた。

 兄はお得意の根性で、僕が寝ようとしても続けていたそうだ。

 美奈も同じく夜遅くまで続けた。


 そんな生活を2日続けた。

 残念ながら未だに誰も1つも成功していない。

 しかし、魔力を注ぐ感覚が少しずつわかってきたような気がする。




 そして次の日。



 

 ボッ──





「やった!やった!火が出た!!!」


 美奈が火魔法の基礎級日成功したのである。

 そして、それに続く形で兄、そして僕も成功したのだ。

 僕は喜んだ。


 たかが基礎級だが、苦戦してようやくできた喜びは大きい。

 すると、今まで口出しをしなかったエドワードが口を開く。


「おめでとう!よくやった!」 


 彼は拍手をしていた。


「私が何故口出しをしなかったか。それは、基礎級は魔術師にとって非常に重要な土台であり、そこを疎かにしてほしくないから。


 問題を解決しようと考え、追求すること、そしていつまでもそのできた喜びと達成感を忘れないでほしいからです。


 魔術師を目指すに当たって、これからもっと困難にぶち当たります。


 しかし、助けてくれる人なんてなかなかいません。彼らだって命懸けですから。そんなとき、自分で立ちあがり、出口を見つける力が必要なんです。


 今回君たちは自分の力で出口を見つけた。その経験はとっても大事です。出口を見つけるのか、その場で諦めて逃げ出して死ぬのかは君たち次第。


 もし、本気で魔術師を目指すなら、何度転んでも起き上がりなさい。嫌になっても起き上がりなさい。


 起き上がり続ける限り、一筋の光が君たちを照らし続けますよ。」




 やっぱり試行錯誤するということは大切なんだ。

 確かに、今回の成功は今後の僕らに大きな影響を与えるかもしれない。そんなに気がした。


「あっ、ちなみにどうやって消すんだろう。」


 美奈が質問する。


「手を閉じればいいんじゃね?」


 そう言って兄が手を閉じる。


「アッチャァァァァァァァァァァ!!!」


 兄が飛び上がる。

 残念ながら違うみたいだ。

 じゃあどうすればいいのだろう...

 そう言えば、最初は魔力を注いでいた。

 ということは、今度は分散させればいいのだろうか。




 その考え方は当たっていた。

 僕らは杖を向け、軽く回してみた。

 そして、ゆっくりと魔力を分散させ、火を消した。

 無事に僕らは火を消すことができた。


 その後、水も出来るかと思ったが、すぐにはできなかった。

 どうやら、魔力の注ぎ方等、意識のしかたが若干違ってくるみたいだ。



 魔力を注ぐと、形を作りそうではあるが、水にはならない。

 これまた厄介と思ったが、僕らは試行錯誤を続けて、その日の内に水の基礎級も成功した。


 夜、僕らは久しぶりにぐっすりと寝た。

作者の呟き


目覚ましが聞こえない...だと!?

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