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そらこい  作者: 仲村
3/5

1-3

「や、やっちまった」


もう日の暮れかかっているころ、俺はある部屋の前で立ち尽くしていた。理由は単純、目の前の光景に驚いていたからだ。

いや、部屋で人が死んでいたというようなシリアスな展開ではない。なぜなら、ここは学校の教室。死体がいるなどまずありえない。もし、この場にしたいが転がっているんだとしたら、一体どんな急展開だ…。そして、俺が今さっき発した言葉から推理するに犯人は間違いなく俺ということになる。まぁ、当然そんなことではないのだが…。


じゃあ何故、俺は教室の前で立ち尽くしているのか?


それは、目の前にはおそらく着替えの途中だったのだろう。下着姿の女の子がいるからだ。何故こんな事になってしまったのか。このことを説明する為には、まず一時間前まで遡らなくてはならない。




一時間前……。


和馬とも別れ、家に帰って来た時、学校に宿題を忘れていたことに気づき、学校に取りに帰ることにした。別に忘れたことにしてもよかったのだが入学式を終えて一週間しかたっていないのにそうそう忘れると言うのはさすがにと思うだろう。しかも変態の烙印をクラスのみんなに押されかけたし…。


取りに戻ろうと決心し、学校についたのは午後六時三十分頃


忘れたことに気づいてからこんなに時間がかかったのはいつも通り両親の帰りが遅い為、代わりに夕食の準備をしていたからである。


この時間の学校はものすごく静かだった。


部活に入っていない生徒は当然、全員下校している。さらに部活に入っている生徒もほとんどが下校していた。


夜の学校は薄暗く、何かが飛び出してくるのではないか? とさえ思わせるような雰囲気だったが、忘れていた宿題をさっさと持って帰る為、教室へと急いで足を進めた。自分の教室に到着し、なんの迷いも無く教室の扉に手を伸ばし、勢いよく開けた。



そう、俺は何一つ間違ったことなどしていなかった。むしろここが教室ではなく、更衣室であったのならば、どんなに急いでいてもノックくらいはしたはずだ。こんな時間に教室で女子生徒が着替えている最中など誰が想像するだろうか…。



そして、今の状態に戻る。女の子が着替えている?



どうしよう……



いつもは誰にでも対し平等に放つ鋭く冷たい彼女の目が、急な出来事だったからだろう。目をパッチリと開ききって…あれ? こう見るとアイツも結構可愛いのではないか?



まて、落ち着け…。


気が動転してて頭が働いてないのか?

と、とりあえずこの扉を閉めよう。そして落ち着こう。


そして俺は一切迷いもなく、勢いよく教室の扉を閉めた。視界から着替えている途中で下着姿の女の子は消えたものの、俺は落ち着くどころかかえって全身からは汗が勢いよくあふれ出すほど気が動転してきている。



薄暗い教室だったのではっきりと見えていたわけではなかったが俺はその女の子が誰であるかにすぐに気がついた。とういうよりその女の子の事をここ一週間ではっきりと分かるようになっていた自分にもびっくりしている。


とりあえず、誰だか分かってしまった以上、恐怖のあまりか体もガクガクと小刻みに震えだした。

もうこれ以上言わなくても誰だかわかるだろうが、一応言っておこう。下着姿で制服の時よりはっきりしたつつましい小さな山二つ。同じクラスメイトであり、自分の後ろの席の女の子であり、入学式の日に自分を殴り飛ばした張本人だからである。



高山 美香。


ど、どうしよう…。殺される。

たぶん、俺が知っている女の中で最悪の女だ。だからこそ今、アイツの着替えを見てしまったのはヤバイ!!



殺される前に逃げよう……



いや、まて。この場を逃げてやり過ごしても明日学校に来れば、まず殴り殺される。てか、誰かに言いふらせてたりしてみろ…。それこそ今度は確実に社会的に死ぬ…。かといって冗談で言い逃れ出来たり、正直に話しても話を聞く耳すらもたないだろう…。


くっそー!! どうしたら……



「ちょっと、あんた」


肩をガクガクさせながら翔はゆっくりと振り向いた。そこにはいつの間にか着替えを終え、見慣れた冷たく鋭い目つき。制服姿に戻っていた高山美香が立っていた。


「な、なんでしょうか?」


「へー、私の着替えを見たってゆーのにわかんないんだ。」


とこちらを見てくる。



凍りきった冷たい表情で……。




やばい…



「だいたい、入学式の日にあんなことしておいて、もう気が済んだと思っていたら……。ああ、もういいや、とりあえず死の。つーか死ね」


うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!



高山が言い終わったころ…。いや、正確には言い終わるより前に翔は走り出していた。高山も物凄い形相で追いかけてくる。


「逃げてんじゃあね!!!!!! 今すぐ私に殺されろ!!!!!!」


「女子高校生がそんな言葉使ってんじゃあねーよ!! てか、マジですみませんでした!! 本当にに事故なんです!!」


「もんどーーーーうむよーーーーーーう!!!!!!!!」



ドゴッッッッッッ!!!!!!!!



他の校舎との渡り廊下にさしかかったところで高山の強烈な飛び蹴りが翔の後頭部を完璧にとらえた。翔の体は勢いよく空中に弾き出された。




あ、そういえば、ここ二階だったっけ?

そう思った時には既に遅く、翔は背中から地面に落ち、そのまま意識を失った。



 


翔の意識が戻ったのは意識を失ってから三十分後のことだった。二階から落ちたにもかかわらず骨は折れていない、それどころか目立った外傷一つすら見当たらない。実はある事情により昔から体が尋常じゃないくらい頑丈なのだ。


「つー、これぐらいで俺が死ぬと思うなよ、そんなやわな鍛え方されてねーんだよ。」


口ではそう言っているが、まだ体には痛みが残っているのか起きあがるのに一苦労した。



高山 美香かぁ、またやっかいなのと関わってしまったなぁー。


翔は不意に入学式後のことを思い出す。思えばあいつのことを聞くときは大抵悪いことばかりだった。例えば、高山美香を好きになり、告白してきた他のクラスの生徒をしばらくの間精神的に立ち直れない状態にしたり、絡まれた不良二人組を逆に返り討ちにしたりなど、とにかく悪いうわさが跡を絶たない。うちの学校で高山美香の名を知らないものはいないのでは? と思ってしまうくらい…そのくらい高山美香の名は知れわたっていた。


関わるのは、今日の一件までにしようと翔は心の底からそう思った。しかし、物事が自分の思った通りになる訳でもなく……



「げっ、あんた何で学校に来てんの。」


それは次の日の朝の事だった。


翔はいつも通り時間ギリギリに登校し、教室へ向かっているとき偶然にも朝練が終わって教室へ急いでいる高山と鉢合わせになってしまったのだ。


「来てちゃ悪いのかよ」


「殺す気で蹴ったつもりだったのに……」


分かってはいたが殺す気だったのかよ!! 今更だが改めてこいつの恐ろしさを体感した気がする。


「あのな……」


俺はあれくらいじゃ死なねーよ。と言おうとしたが途中で高山によって遮られた。


「いや、たとえ死ななくてもあの高さからあの体勢で落ちたんだから最低でも骨折はしているはず、なのに全然平気……分かった!! こいつはきっと幽霊だわ。」



などと反論も聞かず、美香は自分一人で納得した。

このヤロー、人のことを無視しておいて、挙句に幽霊扱いかよ!! と翔は言おうとしたが昨日の事があるのでその気持ちを抑え、


「生きてるよ、じゃーな」


とそのままの勢いで教室へと向かった。もう関わらない。もう関わらない。ずっとその単語だけが頭の中でグルグルと回っている。


しかし、待ってと高山に呼び止められた。

何? まだなんかあるんですか? 早く解放されたいのに呼び止められ、いい加減翔もイライラしていた。


「あなた、昨日の事と言い入学式の時といい、あれで済んだと思ってんじゃないでしょうね」



終わってなかったの?

あんなに殺すとか言っといてそれ以上のひどい事をするつもりですか?


「もういいや。で、何をするつもりなの?」


翔も昨日や入学式の事はさすがに自分にも非があるので、拒否をする訳にはいかなかった。


「そーね……。あなた空手はやってた?」


「一応、やってたけど」


それが何だと言うんだ。今関係ないだろ。


「よし、決まり。私がレギュラーになるまで私の練習に付き合って」



はい? 今、なんて?

あまりにも意外すぎてその場でかたまってしまった。



「だ・か・ら!! 私が空手部でレギュラーになるまで、部活がない時の練習相手になれって言ってんの!!」



えーと……なんで? 昨日までもとい、ついさっきまで人の事殺すとか言っていたのに、その人物を空手の練習相手に?


「……なんで俺なの? 空手部員とかで練習した方がいいんじゃねーの?」


「部員の子相手じゃけがさせちゃ悪いじゃない。けど、あんたならちょっとやそっとじゃ壊れなさそうだし。」


ああ、そうですかい。まぁ、そんなことだろうということくらい気づいていたよ。ちなみに、俺だったら壊れなさそうって俺は物じゃないんだからさぁ……。


「あ、ちなみにあなたに拒否権なんてないわよ。分かっているとは思うけどもし断ったらどうなるかわかっているわよね?」



「ちなみにどうなんの?」


翔が苦笑いをしながらきくと、


「あなたが女子生徒の着替えをのぞいた挙げ句に手まで出した変態野郎だってことをこの学校……いえ、この近辺すべての地域に言い広めるから。」


それは、だめだ!!


噂通り、それに経験通り相変わらずの悪女だ。よくもまぁそんな物騒なことがすぐに思いつく。しかも、話がちょっとどころかかなり脚色されているし……。


しかしそんなことに感心している場合じゃない!! もしも、高山がさっき言った宣言通りの事が起こったら俺が社会的に死んでしまう。



「わかったよ」


こうして俺の波乱の高校生活の扉が勢いよく開かれた。


時間ができたのでいつもは夜中ですが、今回は夕方に投稿してみました。


ゆっくりと書いていますが内容の方はほぼ頭の中に入っているので、後は自分で書いてどうなっていくのかが楽しみですね。ちなみにネタバレとかそんなのではないのですが、サブタイトルの「1-1」、「1-2」などには特に意味はなく、単純に私が整理することが出来ないためこのような感じになっています。


本編は時間があるときに少しずつ書いていますが、あとがきは毎回投稿するときに書いているので今後はこの場所をお借りして何かについて語ったり、本編の説明的なものもできたらなと思っています。

というわけでまだまだ至らない所…というより機能的に分からなくて出来てない面に関しましては日々努力していきますので、よろしくお願いします。

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