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このアカウントでは初投稿です。過去にこれに似た作品を出していましたが、中身を修正する為、新しく投稿します。
更新は遅めになりそうですが、頑張って書いていきますのでよろしくお願いします。
入学式。
それは新しい学校生活の始まりでもあり、新しい出会いでもある。学校の校門へと続くこの長い坂道も既に新入生は買ったばかりのぶかぶかの制服を身にまとい、期待と緊張とが混ざり合った雰囲気が辺りを包んでいた。
俺、神崎翔もその中に混じっている一人である。別に高校に入学したからといって新しく始めようと思っていることがあるわけではない。かといって元から何かやっているかと言われればもちろんやっていない。中学三年間ずっと帰宅部である。高校に進学した今でも帰宅部を継続していこうと思っている。ここの高校を選んだ理由も単に家から近かったから。ただそれだけである。
何も変わり映えのない毎日…。嫌いではなかったが、最近では飽き飽きしているところである。かといって何かを始める気にすらなることはないのだが…。
そんな時、うしろから一人走って来る音が聞こえた。
「あ、やっぱり翔だったか、おはよう。」
「あ、和馬。おはよう。」
と言いながら顔を上げた。
声を掛けて来たのは、同じ中学に通っていた三浦和馬だった。
春休みの間は全く会う事が無かったが、しかし、とにかくいつみても身長が高い。
俺自身も170近くはある。しかし、それでも少し上を見上げなければ和馬の顔の全てを見る事が出来ないのだ。
「あのさ、和馬。お前またデ…… がっ!!」
翔の声は途中で途絶えた。と言うより誰かが後ろから突進してきたことよって強制的に途絶えさせられたのだ。俺と和馬は誰がしたのかはすぐにわかった。いや、こんな事を俺たちにしてくるのは俺が知る限りで一人しかいない。
「いやいや、おはよう。二人とも。卒業式以来だっけ?」
「はは、相変わらずの元気だな、佳奈。」
と和馬。
倉橋佳奈。俺の幼馴染みだ。
倉橋は、小学校の時から空手をしていて、今もずっと続けている。
実は俺も同じ時期に空手をしていたが、なかなか上手くならなかった事を理由に空手を辞めた。
なんか、中学の時より綺麗になったよな……。
俺は、倉橋の事を小学校の時は空手のライバルとして見ていたが、いつからか倉橋の事が好きという気持ちへと変わっていった。なので、いざ倉橋と向きあって話すと緊張して顔を見て話す事があっても、
「そう言えばさ、翔君。春休みの間どうだった?」
「あ、べ、別になんもなかったよ。」
ついこの様に緊張して、言葉が詰まってしまう。
「へぇー、そうなんだ。てかさ、和馬君、春休みの間にまた身長伸びてない?」
先ほど倉橋にぶつかられる前に俺が聞こうとしていた事を倉橋が質問した。やはり、俺の目の錯覚ではなかったのだ。
「ああ、昨日入学式前にと思って自分で測ってみたら、一八八もあったぞ。」
「そ、そんなに!! もーそんなに身長あるなら何か部活すればいいのに」
それは俺も同感だった。和馬は身長が高いだけでなく、身体能力も物凄く高い。
しかし、和馬は中学の時も部活には入っていない。
本人曰く、
「部活なんかしてたら他の趣味に費やす時間が減るじゃないか。」
だそうだ。
まぁ、実際俺も部活に入っていないのであまり和馬のことを言えないが。
「……っと」
和馬たちと話していると突然どさっ、と何かにぶつかった。しかし、目線の先には何も無い。自分の気のせいかと思ったが明らかに何かがぶつかった感覚は今もある。
では、一体何が……
「翔、下だよ。」
と和馬に言われ目線を少し落としてみると、翔の丁度胸のあたりに人の姿があった。
「あ、悪いじゃなくてすまん。ちょっとよそ見をしていたばかりに気づかなくて。」
と翔は一歩さがって謝った。しかし、改めて見ると本当に小さい。実際にぶつかった後も和馬に指摘されるまで全然分からなかった。
「あの、大丈夫か?」
「別に、平気。」
それだけを言いスタスタと歩いて行った。というかなんと言うか、
「なんか、無愛想な奴だな。」
言おうとしたいことを先に和馬に言われた。
「あ、でもでも、あの子空手の推薦で入って来た子だよ。」
「何で分かるんだ?」
「だってほら、私も空手の推薦だし」
と和馬と倉橋が二人で楽しそうに話しているのにまた会話に参加することが出来ない。
はぁ、自分が情けない。
今日だけでもう何回そう思っただろうか。いや、駄目だ。高校では変わると決めたんだ。こんな事一つ一つでくじけてはキリがない。
頑張ろう!!
そう心でつぶやき、誰にもみられないようにガッツポーズをした。
入学式も終わりそれぞれの教室へ向かいホームルームをおこなった。念願だった倉橋とは同じクラスにはなれなかったが和馬とは一緒になる事が出来た。知り合いが一人でもいると心強い。各々の席は出席番号順などではなく、全てバラバラになっており机に名前シールが貼られていた。
俺の席は窓側の後ろから三番目となかなかのいい席だった。和馬は、と言うと一番前の席。それも教卓の真横の席だった。本人自身は全然気にしてなかったが、後ろの席の生徒がとてもみにくそうにしていた。
俺も和馬とそう変わりはなかった。
俺の後ろに座っていたのは登校時にぶつかった女の子だった。真っ黒な髪を長く伸ばし、いかにも運動が出来る子という印象が女の子だった。
「なぁ、席変わろうか?」
先生が決めた席を勝手に変えるのは駄目なんだろうが、このままの席というのもかわいそうな気がする。
「別にいいわよ、どうせ変わったって見えないんだから。」
「そうか、ならいいか。あ、そう言えばお前空手やってるんだってな。」
登校時に倉橋が言っていた事を不意に思い出し聞いてみた。
「誰から聞いたのか知らないけど、そうよ。やってるわよ。何かあるの?」
「いや、特に何も無いんだけどさ、友達にお前が推薦で入学したって聞いていたから。」
「あのさ、初対面の人に対してそのお前って言うのやめてくれない。」
すまん。と言い、続けて名前を聞こうとしたが机に高山美香と書いているのを先に見つけた。
「えーと、高山でいいのか?」
ええ。と高山美香は頷いた。この子が空手の推薦で来た子かぁ。
翔は、一度高山の体を見た。少し見ただけなのであまりよく分からないが、小柄な体格にか細い手足、失礼だがどう見ても推薦される様には見えない。
「おーい、翔。そろそろ帰ろーぜ。」
自分は話が終わったのか教室のドアの前に立っている和馬が呼んでいた。
「分かったよ、今行く。悪いな話の途中で。俺、神崎翔って言うんだよろしくな。」
「別にいいわよ、私もそろそろ帰るから。よろしくね。神崎君。」
と言い、高山も席から立ち上がった。
「おう、また・・・・おわっっ!!」
翔が席から立ち上がった瞬間、何かと背中がぶつかり、翔の体が大きくよろめき倒れた。
「お、わりぃわりぃ。」
ぶつかったのは教室でふざけて走り回っていた奴らの一人だった。まったく迷惑な奴らだと翔は思いながら体を起こそうと床に手を伸ばした。
フニ
床に手をついたはずの手にはとても柔らかい感触があった。
「な、何だ?」
慌てて顔を上げ、感触の正体を確認した。
なっっ!!
翔は、目の前の光景が信じられずしばらく空いた口がふさがらなかった。
なんと、床をついたはずなのに目の前には高山美香が倒れており、そして自分の手元には高山美香の小さくてつつましいしかし、ほどよい柔らかさのある山があった。
「す、すまんこれは事故でって・・・・っが!!」
言い訳もする間も無く高山に殴られ、そのままダイレクトで教室の端から端まで飛ばされた。意識が朦朧とする中見えたのは顔を少し赤らめた高山美香と、
「死ね」
の一言を聞き、そのまま意識を失った。