此れが生か!!!
刹那、ウロボロスは反射的に身体をしゃがみ込ませた。その直後、先程まで彼の首があった部分を斬撃が通り過ぎてゆく。アーカーシャの斬撃が、無の世界の空間を断ち切る。
その斬撃は、無限の多元宇宙を千回は両断する威力があった。例え、ウロボロスであろうと只では済まないだろう馬鹿げた威力だ。威力がインフレーションしている。
ウロボロスは冷や汗を流しながらも、反撃に転じる。爪を振るい、全力で薙ぎ払った。
その斬撃の威力たるや、多元宇宙を百回は薙ぎ払えるだろう。しかし———
「ふむ、その程度か?」
「っ!?」
アーカーシャはそれを、軽く剣を振るう事で容易く祓った。
軽い、羽虫でも払うような動作。それだけで、ウロボロスの渾身の斬撃が祓われたのだ。愕然。
その余りにも出鱈目な力に、流石のウロボロスも目を大きく見開く。ありえない、そう思った。
ウロボロスの渾身の一撃を、アーカーシャは容易く祓った。それほどまでか、奴の力は。
アーカーシャは凄惨な笑みを浮かべ、ウロボロスに向かって言い放つ。
「どうした、そんな物か!?否、そんな物では無かろう!!!」
「くっ!!!」
アーカーシャの言葉に、ウロボロスは再び爪を構える。
循環し、何処までも高まるウロボロスの魔力。それに合わせるように、アーカーシャの魔力も無制限に高まり続けてゆく。ぶつかり合う黄金と翡翠の魔力光。
絡み合い、干渉し、反発し合う魔力光。無制限に高まってゆく魔力。
無の世界が震撼する。世界が大きく揺れ動く。
無の世界だからこそ耐えられる二つの絶対の衝突。もし、此れが多元宇宙の何処かであれば、刹那と持たずに砕け散るだろう。それだけの衝撃だ。
・・・次の刹那、二柱の姿が消えたと思った瞬間、無の世界の各所を斬撃が飛び交った。
常人どころか、神々ですら見切る事の不可能な領域の戦闘が交わされる。当然だ。彼らは今、光速の倍以上の速度で駆け回り、文字通り物質界の限界を超えて戦っているのだ。
アーカーシャの剣技はもはや技術的な研鑽などありはしない。言うなれば獣の体術だ。
しかし、その刃は獣王の爪の如く裂き、牙の如く穿つ。
文字通り、今の彼には神域の技能すらも枷でしか無いのだ。
ありえざるその戦いを一人、位相の異なる異界から見守る者が居た。龍の巫女だ。
巫女は先程アーカーシャが虚空に放り投げた黄金の林檎を両手に持って、その戦いを静かに見守る。
二柱の絶対神の戦いを、巫女はうっとりと見入っていた。その表情はまるで、恋する乙女のよう。
「綺麗・・・・・・」
その戦いに、巫女は魅せられていた。その戦いを、美しいと思った。
もっと見ていたいと焦がれた。永遠にこの刹那を見ていたいと思った。
「ふむ、ぬしもそう思うか・・・」
其処に、初老の男が何時の間にか立っていた。その男に、巫女は僅かに目を見開いた。
「貴方は、ブラフマン様!?」
とても曖昧で形容しがたい姿の男。
初老の男、しかしその姿はとても曖昧だ。男の様で、女の様で、老人の様で、少年の様。
まるで、この世のあらゆる要素を詰め込んだような曖昧さだ。
この男こそ、宇宙の根本法則を司る者。真なる神、ブラフマンである。
・・・・・・・・・
「くっ、ははははははははははははははははははあ!!!」
「っ、ぐ!!!」
戦いは更に激しさを増していく。しかし、終始アーカーシャが圧倒的に優勢だった。
ウロボロスは何とか耐えている物の、それでも圧されている。
状況は圧倒的にウロボロスに不利だ。ウロボロスは冷や汗を一筋。
「どうした、そんな物か?それで終いか?」
「くそっ!!!」
悪態を吐き、ウロボロスは覚悟を決める。此処で、アーカーシャを殺す。
ウロボロスは顎を大きく開く。口内に収束する超超高密度の魔力光。その魔力に、アーカーシャの笑みが更に深くなる。ウロボロスの切り札が、来る。
「ほう、そう来るか」
「ギイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
極光。
刹那、無の世界を引き裂いて閃光が奔る。その力の奔流は多元宇宙を億回は焼き尽くすだろう。
何処までも桁違いな威力の極光の柱。それを、アーカーシャは避けようとすらしない。
そもそも、避ける気が無い。相変わらず笑っている。この貌しか知らない故に。
アーカーシャが閃光に呑まれる。流石に、此れにはアーカーシャといえども無事では済むまい。
そう、ウロボロスは確信する。・・・それなのに。
「ふはっ!!!」
一閃。
断ち切られる翡翠の閃光。アーカーシャは全くの無傷だった。ウロボロスは愕然と目を見開く。
「そんな・・・馬鹿な・・・・・・!!!」
そう、アーカーシャは無傷だった。
ありえない。真なる神の、ウロボロスの切り札をアーカーシャは無傷で斬ったのだ。その光景に、ウロボロスは絶望し心が折れそうになる。
そんなウロボロスに、アーカーシャは不服そうに睨む。
「もう、終わりか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ウロボロスは答えない。ウロボロスの目の前が真っ暗になってゆく。
その姿に、アーカーシャはつまらなそうに嘆息する。
「貴様、本当は余に反抗して欲しかったのだろう?」
「・・・っ」
「ふむ、図星か。まあ・・・そうでなければ説明は付かんよな。ウロボロス、貴様は本当は人間に終末の運命を乗り越えて欲しかった。その為に、貴様はわざわざ人間である余を挑発したのだろう?」
違うか?と、アーカーシャは静かに問う。ウロボロスは答えない。
しかし、無言がこの時はかえって明確な肯定になる。
本当は、ウロボロスは石英に倒され黄金の林檎を持ち帰って欲しかったのだ。
だからこそ、ウロボロスは石英を煽り、わざと挑発を繰り返したのだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「なら、貴様は己が責務を最後まで果たせ。案ずるな、余は死なん」
「ああ、そうか・・・・・・」
次の瞬間、ウロボロスの戦意は再び灯っていた。その眼光は、何処までも力強い。
刹那、二柱の姿が同時にかき消えた。直後、再び無の世界全土を斬撃の嵐が飛び交う。その速度は先程までの比では無い。圧倒的な力の大嵐。
時の停止した空間すら引き裂いて、二柱は無の世界を駆け回る。その速度はもはや、時間の停止すらも超越してしまったのだ。
そのありえざる戦いの中、ウロボロスもアーカーシャもその身に多くの傷を負っていた。
しかし、それでも両者共に笑っている。
「ふっ、ふはは・・・はははははははははっ!!!」
「くははははははっ!!!」
「「はははははははははははははははあっ!!!」」
共に笑う。心底愉しそうに、狂ったように笑う。
「素晴らしい!!!」
アーカーシャは心底愉しそうに吼えた。その顔は生き生きと輝いている。
「此れが生か!!!ああ・・・そうだ、余は生きている!!!」
「そうかよっ!!!」
アーカーシャのその言葉に、ウロボロスは嗤う。二柱共に楽しそうだ。
アーカーシャも、ウロボロスも、笑いながら互いを傷付け合う。それは正に、狂気の沙汰だ。
しかし、このとき真実両者共に満ち足りていた。共に、生の実感を得ていたのだ。
「余は負けん。故、貴様が滅びよ!!!」
「ほざくな。俺が勝つんだ、お前が滅びろよ!!!」
互いに限界を超えて戦い続ける。否、最初から限界など無い。故に真なる神なのだから。
真なる神に限界など無い。無限の領域すら超えて活動する事すら、彼等には可能だ。
何時までも続くかと思われた戦い。しかし、それにも当然終わりは来る。
「はああああああああああああっ!!!!!!!!!」
「ぜああああああああああああっ!!!!!!!!!」
天叢雲剣と龍王の爪が交差する。赤い鮮血が舞い散った。
笑う龍王と虚無。勝敗の結果は・・・。
「余の、勝利だ・・・」
「ああ、お前の勝ちだ。アーカーシャ」
血しぶきと共に崩れ落ちるウロボロス。アーカーシャの、石英の勝利だった。
主人公やっべえ!!!かなりの戦闘狂に。




