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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
機械仕掛けの神
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アブダ・カダブラ

 太陽の如き極熱の大火球。それが幾千、幾万、幾億と造られて天を覆う。それはまさに灼熱の地獄。


 大焦熱地獄の顕現(けんげん)だ。


 サンゴが腕を振り下ろすと、その大火球がデウスに向けて一斉に撃ち出される。劫火の嵐が肌を焼く感覚をその身に感じながら、サンゴは追撃の手を(ゆる)めない。


 劫火の嵐が異界全体を揺るがし、気温を一気に跳ね上げる。


 「(ぬる)いな・・・」


 劫火の嵐の中、静かな声が聞こえた。直後、灼熱の地獄を遥かに上回る破壊の大嵐が発生した。破壊の嵐は灼熱地獄を容易く消し飛ばし、異界全体を更に揺るがした。


 「ぐっ、う・・・・・・!?」


 危うく吹き飛ばされそうになるサンゴ。何とか踏み(とど)まり、更に追撃を仕掛ける。


 サンゴは劫火の大竜巻でデウスを覆い、その中に閉じ込める。恐らく、中は何十億度もの超極熱の地獄となっている事だろう。その破壊力は凄まじいの一言に尽きる。


 並の敵なら刹那の時も生きられない。そう、並の敵ならば・・・。


 「温いと言っている!!!」


 またも容易く消し飛ぶ灼熱。デウスは全くの無傷。ありえない。一体、その身体は何で出来ている?


 並の装甲ならば容易く融解する筈の極熱を、デウスは苦にもしていない。


 デウスは笑みを深め、破壊の魔力を解き放つ。破壊の性質を持った白銀の光がサンゴ達を襲う。


 「魔術師隊、全力で防げ!!!」


 響く石英の声。同時に魔術師隊の全力の結界が破壊の光を防ぐ。ぎしぎしと軋みを上げる結界。


 結界はすぐに破壊された。しかし、どうにか防ぎ切った。


 デウスはまだ、余裕の笑みを浮かべている。恐らく、まだ全力の一割も出していないのだろう。


 デウスは遊んでいるのだ。対するサンゴ達は既に全力を出し切っている。中には既に、息を切らしている者も居る程だ。格が違いすぎる。


 「どうした?もう(しま)いか?」


 「全軍、一斉に攻撃せよ!!!不用意に近付くな!!!」


 再び響く石英の号令。その声に応えるように、デウスに向かって一斉に攻撃が仕掛けられる。


 サンゴの放つ灼熱の大火球、槍や矢、魔術が飛び交いデウスを襲う。


 「まだだ!!攻撃の手を(ゆる)めるな!!!」


 誰かの声が響いた。更に激しくなる攻撃に、さしものデウスも———


 「かゆい」


 その一言と共に、巻き起こる暴虐(ぼうぎゃく)。破壊の嵐に、全軍が枯れ枝の様に吹き飛ばされる。


 信じられない。ありえない。十万近くも居た、それも最精鋭の軍勢が一撃で壊滅したのだ。


 これこそが、機械仕掛けの神と呼ばれる所以(ゆえん)。幕引きの神の力だ。


 「ぐっ・・・くそっ・・・・・・」


 「サンゴ!?」


 慌ててサンゴに駆け寄るメノウ。しかし、サンゴはそれを意に介さずデウスを睨む。


 デウスはそれを笑いながら見下ろし、そして言った。


 「ふむ、もしやお前達はあの世界の生き残りか?」


 「「っ!?」」


 その言葉に、サンゴとメノウは同時に反応する。その反応に、デウスは笑みを深める。


 「そうか・・・。なら、此処でしっかりと滅ぼしておかねばな」


 「な・・・んで・・・・・・」


 「ん?」


 デウスの言葉に、サンゴが怒りを振り絞った様な声で呟く。


 「何で・・・あの世界を・・・・・・、俺達の故郷を滅ぼした・・・・・・?」


 「あの世界が最も発達した世界だったからだ」


 「っ!?」


 デウスの無感情な言葉に、サンゴの表情が消え去る。サンゴの怒りの沸点が振り切れた。


 意味が理解出来ない。そんな事の為に、そんな事の為だけに———


 「そんな事で、俺達の世界を滅ぼしたのかっ!!!」


 「それが重要なのだ。人間は悪意の深い生き物だ。そして、それは文明の発達に伴い増大する」


 ———故に滅ぼす。我が手によって・・・。


 瞬間、太陽を遥かに上回る絶対熱が吹き荒れる。それは、もはや炎の形すら取っていない。


 熱量の限界温度、その極熱の大嵐に、さしものデウスも笑みを消す。


 ———此れは、さしもの我でもマズイな。本気で掛からねば。


 「あああああああああああああああっ!!!」


 サンゴも流石にこの熱量は制御し切れないらしく、身体のあちこちを焼かれている。その姿に、メノウは危機感を覚える。無論、自分では無くサンゴのだ。


 「やめて、サンゴ!!それ以上はサンゴも!!!」


 「うあああああああああああっ!!!」


 サンゴは怒りのまま、絶対熱の嵐をデウスへと叩き付け———


 「ふむ」


 絶対熱の嵐は、デウスの放った本気の魔力の波にかき消され、同時にサンゴも余波で吹き飛ばされた。


 サンゴは意識を失い、力なく倒れた。


 「いやあああああっ!!!サンゴ!!サンゴっ!!!」


 メノウの悲鳴が響き渡る。デウスは無感情な瞳で(とど)めを刺そうとして、そして気付く。


 この戦闘において、最も強い魔力を持っていた筈のあの男が、まだ戦いに参加していない事を。


 その瞬間、デウスの周囲の空間を黄金に輝く鎖が奔った。


 「アブダ・カダブラ!!!」


 その鎖はとても美しく、神々しく、そして何よりも強い魔力を放っていた。デウスは瞬く間にその黄金の鎖に縛り上げられ、拘束された。


 「ぬっ、ぐうっ・・・・・・」


 この戦闘において、初めてデウスが苦悶の声を上げる。鎖を破壊しようと魔力を放出するが、何故か鎖は一向に壊れない。否、其処でデウスは気付く。


 自身の意思で魔力を放出しているのでは無い。魔力が勝手に流れ出しているのだ。


 どころか、身体を構成している物質が魔力へと変換されて拡散(かくさん)していく。


 ———此れはマズイ!!!


 危機感を覚えたデウスは拘束を破ろうともがく。しかし、拘束は一向に解けない。それどころか、拘束は更に強くなるばかり。


 「無駄だ・・・。その鎖は拘束した者を魔力に変換し、拡散させる力を持つ。拘束されたが最後、消滅するまで解放される事は無い」


 解放されるならば、それこそ拘束を上回る意思の力を見せなければならない。強い意思の力で、魔力の拡散を防ぐしか方法は無いのだ。


 しかし、機械仕掛けの神であるデウスにそれだけの意思の力は無い。詰みだ。


 「貴様!!最初からこの為に!!!」


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 そう、最初から石英は時間稼ぎの為に十万近くの兵を用意していたのだ。魔力を高め、必殺の一撃を放つ為の少しの間の時間稼ぎ。


 当然、全員にそれを話した上で今回の戦いに参加して貰っている。全員が納得しての作戦だ。


 それを知らなかったのは、サンゴくらいの物だ。否、もしかしたら知っていたのかも知れないが。


 とにかく、デウスはまんまと策に(はま)った訳だ。


 「くっ、がああああああああああああああああああっっ!!!」


 デウスは最後の抵抗(ていこう)とばかりに、魔力を全力で開放する。


 白銀の魔力は巨大な柱となり、天地を貫く。その余りにも膨大な魔力に、異界全体が軋む。


 メノウはサンゴを覆う様に(いだ)き、衝撃から(かば)う。


 無尽蔵にも思える魔力量。それだけで、デウスの力の凄まじさが伺える。


 しかし———


 「其処までだ」


 「ガッ!!?」


 デウスの胸元を、一本の短刀が貫いた。デウスは信じられないという顔をする。


 短刀は魔力の柱を断ち切り、デウスの胸を貫いたのだ。ありえない。そんな事はありえないのだ。


 あれだけ高密度の魔力の柱を、それも破壊の性質を持ち、触れれば即座に破壊する魔力の柱を———


 あの短刀は容易く断ち切ったのだ。よもや、只の短刀ではあるまい。


 最後の力を振り絞り、デウスは短刀を解析した。瞬間、デウスの瞳が驚きに見開かれ・・・。


 「なるほど、対神兵器であったか・・・・・・」


 満足そうに笑って消滅した。


 ・・・・・・・・・


 短刀を拾い上げ、じっと見詰める石英。最後、デウスはこの短刀を対神兵器と呼んだ。


 対神兵器とは一体何なのか?この短刀には一体どんな秘密があるのか?


 ヘリオドールはこの短刀を竜種の宝と言っていた。ある人間が打った短刀だと言っていた。


 しかし、この短刀にはまだ秘密がある。そう石英は感じた。


 「石英さん・・・?」


 メノウがおずおずと話し掛けてきた。どうやら少し考え込んでいたらしい。


 サンゴも目を覚ましたらしく、石英を見ている。


 「すまない、そろそろ帰ろう」


 そう言って、石英は笑った。

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