俺は、姉ちゃんを守る!!
緊急会議が終わり、魔王の城へと帰ろうとした時———石英は急にサンゴに呼び止められた。
「あの、石英さん・・・話があるんですが・・・・・・」
「・・・?何だ?急に畏まって」
「どうしたの?サンゴ・・・」
石英とサファイヤは首を傾げて怪訝そうにサンゴを見る。メノウは心配そうに弟を見ていた。
・・・しばらく言い辛そうに黙り込んでいたが、やがてサンゴは口を開く。
「・・・・・・俺を、弟子にして下さい!!!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
石英とサファイヤは思わず黙り込む。一瞬、意味が理解出来なかった。二人共、フリーズした。
二人が呆然とした顔で黙り込んでいると、サンゴがおずおずと声を掛けて来た。
「あの、石英さん・・・?サファイヤさん・・・?」
「・・・・・・・・・あ、ああ。すまない・・・で、何故僕の弟子に?」
何とか我に返った石英はサンゴに問う。またしばらくサンゴは考え込む様に黙り込む。が、やがて顔を上げると力強い瞳で答えた。
「俺は、姉ちゃんを守る!!守りたいんだ!!だからこそ、その為の力が欲しい!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・要するに、サンゴはデウスと出会った事で強い無力感を感じたのだ。
力が欲しい。家族を、大好きな姉を守れる力が欲しい。それが、サンゴの想いだ。
石英はサンゴの瞳を真っ直ぐに見る。サンゴも石英の瞳を力強く見返した。どうやら本気らしい。
サファイヤもメノウも心配そうにサンゴを見ている。それでもサンゴは本気だ。意思は揺るがない。
———さて、どうした物か。石英は考え込む。
「お願いします!!どんなに厳しくても付いて行きます!!絶対に諦めません!!」
「・・・・・・・・・・・・」
サンゴは勢い良く頭を下げた。石英はそれでも考え込んだが、やがて溜息を吐いた。
石英はサンゴに背を向け、空間に掌をかざした。瞬間、空間がガラスの様に砕けた。
「っ!?これは??」
「黙って付いて来い・・・」
そう言って、石英は空間に出来た穴に入っていく。サンゴは慌てて付いていった。メノウとサファイヤもそれに続いて付いていく。
全員が潜ると、穴はゆっくりと薄れてやがて消えた。誰も居なくなり、会議室は静けさを取り戻した。
・・・・・・・・・
穴を潜ると、視界は黄金に包まれた。何も無い、しかし何処か神聖な雰囲気が漂っている空間。
黄金の魔力に満ちた空間。其処は石英の造り出した異界だ。
他を圧倒する程の神聖な魔力。メノウやサンゴとは、もはや存在の次元が違う。
メノウとサンゴは一瞬でそれを理解した。
それは、例えるなら紙に描かれた炎の絵。どれ程それが激しく燃えている様に見えても、所詮それは絵の中の炎でしか無い。つまりは存在している次元が違うのだ。
絵に描かれた炎では現実の物は燃やせない。対して、現実側の人間はその絵を破れば終わりだ。
次元が違うとは、つまりはそういう事だ。
サンゴの魔力光は赤、その性質は火だ。魔力量も、人間の中では破格と言えるだろう。
その気になれば、水をじっくり沸騰させる程度の弱火から太陽に等しい劫火まで操れる。
並の人間なら、それこそ一瞬で消滅させる事が出来るだろう。しかし、それもこの次元での話だ。
次元を大きく超越している石英には、太陽の如き劫火も紙に描かれた絵と同じでしかない。
つまりは、紙に描かれた絵と設定だ。破ればそれで終わる。
サンゴはそれを一目で理解した。・・・理解させられた。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
呆然と、サンゴは立ち尽くす。石英は。軽く溜息を吐く。
「おい、サンゴ?おいっ!!」
「っ!?は、はいっ!!」
我に返ったサンゴは慌てて返事をした。石英は更に溜息を吐く。
「とりあえず、サンゴの相手は僕じゃない」
「・・・え?」
石英がパチンッと指を鳴らすと、空間に穴が開いた。そして、十歳くらいの黒髪の少年が出てきた。
———黒曜だ。
「何か用?父さん」
「「父さん!?」」
メノウとサンゴが驚愕の声を上げる。そして、まじまじと黒曜を見詰める。良く見れば、何処となく石英と顔立ちが似ている気がする。
石英は苦笑しながら黒曜を紹介する。
「紹介しよう、僕とルビの息子の黒曜だ」
「黒曜だ。よろしく」
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
黒曜がフレンドリーな笑みを浮かべ、手を差し伸べる。メノウとサンゴは呆然としたまま握手した。
石英は静かに頷くと、サンゴと黒曜に言った。
「今からサンゴと黒曜には、模擬戦をして貰う」
「えっ!?」
「へえっ」
石英の突然の発言に、サンゴは驚愕の表情で石英を見る。対して黒曜は面白そうに目を光らせた。
「言っとくが、黒曜はかなり強いからな?」
「うぇっ!!?」
サンゴは更に奇妙な声を上げ、黒曜を凝視する。黒曜はにやりと不敵に笑った。
「大丈夫だ、黒曜も大分手加減を覚えた。死にはしないさ・・・・・・多分」
「ちょっ!!」
最後、ぼそっと聞こえた不吉な言葉にサンゴは悲鳴を上げた。対する黒曜はかなりやる気だ。
「さあっ!!さっさと遊ぼう!!」
「遊ぶ!?今、遊ぶって言ったか!!?遊ぶって言ったよな!!!」
サンゴは更に悲鳴を上げる。しかし、もはや逃げ場など無い。否、石英と黒曜が逃がしてくれない。
サンゴは冷や汗をかく。
前門の虎、後門の狼。否、前門も後門も怪物が居た。サンゴは口元が引き攣るのを自覚した。
そして、諦めた様に溜息を吐く。サンゴはカードを手に、身構えた。
太陽に等しい劫火が舞う。それを見て、黒曜は笑みを深めた。
・・・・・・・・・
「あの、石英さん?聞きたい事があるんですけど・・・・・・」
「うん?何だ?」
メノウがおずおずと問い掛ける。石英は視線だけメノウに向ける。
・・・現在、サンゴは黒曜の攻撃から逃げ回っている。
「黒曜君の首からさげているネックレス・・・あれって、私達のカードと同じですよね?」
「・・・・・・ああ、やっぱりか」
「・・・・・・・・・やっぱり?」
メノウは首を傾げ、石英の方を向く。石英は静かに頷いた。
・・・サンゴが劫火を放つも、黒曜はそれを笑いながら弾く。サンゴは愕然と目を見開く。
「黒曜のネックレスと君達のカードはほとんど同じ様な物さ。科学技術で魔術を制御するという方向性で開発されたデバイスだ。違うのは、形状と疑似人格が組み込まれているくらいだ」
「—————————っ!?」
石英の言葉に、メノウは目を見開き驚いた。
・・・同時に、黒曜の放った閃光でサンゴが吹っ飛んだ。
「ぎゃあああああああああああああああああああっ!!!」
「っ、て———サンゴっ!!!」
メノウが慌ててサンゴに駆け寄る。サンゴは目を回してぐったりしている。
その姿は、まさにボロ雑巾の様だ。・・・酷い姿だった。
「ううっ・・・・・・姉ちゃん・・・・・・・・・」
「ああっ、こんなにぼろぼろになって・・・・・・酷い」
メノウはサンゴを強く抱き締める。もう欠片も元気が無いのか、サンゴはぐったりとしている。
それを見て、石英は一言呟く。
「ふむ、続きは明日からとして・・・改善するべき点は見えてきたな。ああ、明日からはもっと修行を厳しくするから覚悟しとけよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「お、鬼ですか?」
反論する元気も無いサンゴはそのまま意識を手放した。メノウは畏怖を籠めた瞳で石英を見る。
石英は溜息を吐いた。
「誰が鬼だ・・・誰が。僕は人間だ」
「いや・・・今のはどう見ても鬼の所業だよ・・・・・・石英」
サファイヤが溜息混じりに突っ込んだ。石英は不服そうな顔をする。
その後、城へと帰った石英と黒曜はルビに一時間近く説教を受けた。最後にはルビは泣いていた。
流石の石英と黒曜も、ルビの涙には弱かった。




