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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石化の王
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星竜バハムート!!!

 劫火と天雷、竜巻の大嵐(おおあらし)が石化の王を襲う。大嵐は容易く彼の身体を砕いていく。


 しかし、それでも石化の王は余裕の笑みを崩さない。傷付いた部分からすぐに再生していく。


 異常な再生能力。石化の王は全く(こた)えた様子が無い。ダメージを受けた様子が無い。


 それも当然だ。世界そのものと同化し、取り込んでいる彼は世界と同等の質量を持つ。今の石化の王は単一の宇宙と同義だ。単一宇宙全ての質量を有する大悪魔、それが石化の王だ。


 彼を殺し尽くすにはまず、その大質量全てを破壊し尽くすだけの大規模破壊能力が必要だ。


 「どうした?その程度か?かゆいな・・・・・・」


 石化の王は身体を再生させつつ、分身である石造の悪魔を幾億と生み出した。幾億の悪魔の群れは黒曜に次々と襲い掛かる。圧倒的大質量の攻撃。


 その一体一体が神に匹敵する力を持つ。石造悪魔の大軍勢。文字通り並では無い。


 牙を剝き、その爪を大地に食い込ませて進軍する。正しく此れは脅威だ。


 大波の如く襲い掛かる悪魔の軍勢を前に、黒曜は———


 「()めるなっっ!!!」


 ロンギヌスの聖槍を再召喚した。


 ロンギヌスの聖槍は不滅の聖槍。破壊されても、何れ何処かで復活(ふっかつ)する。永遠の聖槍。


 黒曜は聖槍を逆手に構え全力で投擲(とうてき)した。


 「くはっ!!」


 石化の王は尚も嗤う。聖槍が放つ黄金の輝きは、幾億の悪魔達を残らず殲滅(せんめつ)した。


 そのまま聖槍は石化の王へと迫る。だが・・・。


 石化の王は飛翔する聖槍を素手で(つか)んだ。そう、素手で聖槍を摑んだのだ。


 「っ!!?」


 聖槍は徐々に石化していき、やがて輝きを失い砕け散った。恐るべき石化能力。その力はもはや、神々すらも容易く退け、無限の領域にすら手を届かせうる程だ。


 ありえない。異常な戦闘能力だ。


 決して油断出来ない———油断してはならない敵。此れが、大悪魔"石化の王"の力。


 黒曜はそれでも瞳で不屈を訴え、睨み付ける。その姿に、石化の王はふんっと鼻を鳴らす。


 「・・・・・・つまらんな」


 そう呟いた石化の王は黒曜をひと睨みした。瞬間、徐々に黒曜の身体が石化していく。


 石化の魔眼。コカトリスやバジリスク、メデューサが持つとされる魔眼。


 視るだけで相手を石化させる魔眼だ。ゲーデやハイドレを石化させたのもこの瞳だ。


 「がっ!!ああっ、あああああああああああっ」


 身体を(むしば)む激痛に、黒曜は悲鳴を上げる。その姿に、石化の王はさも愉快そうに嗤う。


 「そうだ!!その声が聴きたかった!!もっとだ。もっと絶望しろ!!!」


 「あああああああああああああああアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 黒曜の身体が少しずつ石に侵食され、石化していった。そして、最後には全身が石化して黒曜は物言わぬ石像と化した。暗転。


 ・・・・・・・・・


 暗闇の中を黒曜は漂う。黒曜はぼんやりと考える。


 ———ああ、俺は負けたのか・・・・・・。


 悔しくないと言えば(うそ)になる。実際、とても悔しい。


 けど、もうどうすれば良いのか解らなかった。どうしようも無かった。チェックメイト、詰みだ。


 ———ごめん、父さん。ごめん、母さん。・・・・・・俺、負けたよ。


 悔しかった。心底から悔しかった。


 その瞬間、黒曜の脳裏にサファイヤとの約束が過る。


 ———ごめん、サファイヤさん・・・・・・。約束を守れなかったよ・・・・・・。


 涙が溢れた。自分が情けなかった。悔しかった。


 『此処で諦めるのですか?』


 ———っ!!?


 突如聞こえたアイズの声。黒曜の前に、少女の姿のアイズが現れた。その顔は悲しげだ。


 『マスター、貴方は此処で諦めるのですか?悔しく無いのですか?』


 ———それは・・・・・・・・・・・・。


 黒曜は表情を(くも)らせた。本当は悔しい。心底から悔しい。


 けど・・・・・・。


 『マスターは其処で諦めるのですか?』


 ———けど、僕は負けたんだ!!どうしようも無いくらいに・・・完璧に・・・。


 黒曜の瞳に涙が浮かぶ。どうしようも無い悔しさが心を満たす。


 悔しくて。悔しくて。涙が溢れる。そんな黒曜に、アイズは優しく微笑み掛けて手を差し伸べた。


 『大丈夫、貴方は一人ではありませんよ・・・マスター。それに、まだ負けていません』


 ———っ。


 気が付くと、其処には黒曜一人では無かった。


 大勢の人達が。大勢の魂が、黒曜に手を差し伸べていた。その数は、優に億や兆を超えて。


 『大丈夫、きっと貴方は勝てます・・・・・・まだ負けていません』


 ———アイズ、お前・・・。


 黒曜を眩い光が包み込む。そして———


 ・・・・・・・・・


 再び、世界を静寂が満たす。黒曜も、ヘリオドールも、ゲーデも、ハイドレも、皆石像と化した。


 「くっ、くくくっ・・・・・・あははははははははははははははははっ!!!」


 響く、石化の王の哄笑(こうしょう)。石化の王は自身の勝利を確信した。


 しかし———


 『ある所に、一人の少年が居た・・・』


 「っ!!?」


 突如聞こえた、黒曜の声。しかし、只の声では無い。


 澄んだ、祈る様な言霊。言葉に魔力が籠り、世界に響き渡る。此れを、石化の王は知っている。


 詩人の(つむ)ぐ言霊だ。世界を改変する言霊だ。


 『少年は幸せだった。父が居て、母が居て、様々な人に囲まれて育った・・・・・・』


 「その言霊を止めろっ!!!」


 石化の王は黒曜を全力で破壊しに掛かる。


 しかし、その攻撃は尽く黒曜の手前で防がれる。石化した筈の黒曜が僅かに光り輝き、その周囲を激しい暴風が吹き荒れる。


 魔力による暴風。黒い黒曜の魔力と、黄金の星の魔力。それ等が互いに混じり合い、調和する。


 『しかし、その幸福は奪われた。たった一匹の悪魔によって・・・・・・。少年は戦った。しかし、悪魔はとても強かった。少年は返り討ちに会う・・・・・・』


 「ちっ!!」


 石化の王は舌打ちし、魔力による巨大なエネルギー弾を形成する。それを黒曜に向け、放った。


 しかし、それも黒曜の手前で防がれる。魔力による大嵐が吹き荒れる。


 『少年は願った。力が欲しいと・・・・・・奪われたモノを取り返せる力が欲しいと。故、少年は己の身の内に竜と星々の力を取り込んだ———其の名は』


 そして、黒曜は鍵となる言霊を放つ。


 『星竜(せいりゅう)バハムート!!!』


 石化した黒曜に(ひび)が入り、黄金の閃光が爆発的に溢れ出した。世界を覆う黄金光。


 やがて、光が収まると其処には黒曜の姿があった。ただし、その姿は半分が人では無い。


 黄金に輝く竜の(うろこ)に全身を包まれ、その背には竜の翼、腰からは竜の尾が生えている。


 星竜バハムート・・・。星の力を宿した竜種。黒曜は星竜と成ったのだ。


 「面白い、自ら竜種を取り込んだか!!!しかし、どれ程の力を手に入れようと俺には勝てん!!!」


 『ギイイアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAaaaaaaaaッッ!!!』


 星竜と成った黒曜はその顎を大きく開き、口内に黒と黄金の魔力を収束させる。石化の王も、それに対抗する様に掌に鈍色の魔力を収束させる。


 そして、同時に放たれるドラゴンブレスと石化の閃光。


 拮抗する閃光と閃光。その衝突は森羅万象を破壊し尽くし、石化させ尽くす。


 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!」


 『ああああああああああああああああああああっっ!!!』


 徐々に、黒曜のドラゴンブレスが石化の閃光を押し始める。


 石化の王が更に魔力を籠めるが、少しずつ押されてゆく。


 「馬鹿なっ!!何故俺が!!!・・・・・・・・・っ!!?」


 その時、石化の王は確かに見た。黒曜の背後に、今まで石化の王が殺して来た人達の魂が・・・。


 黒曜が竜と星々の力を取り込む時、黒曜に魂達が応え、その力を()したのだ。


 『はああああああああああああああああああっっ!!!』


 「ぐああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」


 そのまま、石化の王は閃光に呑まれ・・・・・・。世界全体を揺るがす大爆発が起きた。

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