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神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石化の王
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竜種とは・・・

 ハイドレとの戦いに勝利(しょうり)して、半時間程が過ぎた―――


 世界の全てが石化している為、景色に変化は無い。全く無い。相変わらずの灰色の世界。


 『・・・・・・此処は』


 「起きたか、ハイドレ」


 『ぬっ・・・』


 目を覚ましたハイドレだが、まだダメージが残っているらしく、立ち上がれない様だ。少々やりすぎたと黒曜は反省する。無論、ほんの少しだが。


 傷は一応、治療(ちりょう)している。共に、傷一つ残っていない。


 「今は起き上がらない方が良い。身体を休めた方が良いだろう」


 『そうか・・・・・・』


 そう言うと、ハイドレはうつ伏せに寝そべった。さて・・・。


 黒曜は真剣な瞳で、ハイドレと向き合う。


 「とは言え、お前とは何を話した物かな・・・・・・」


 『ふむ、ならば黒曜には聞いておいて欲しい話があるのだ』


 「うん?」


 聞いておいて欲しい話?黒曜は首を傾げる。ヘリオドールとゲーデは静かに耳を傾ける。


 ハイドレは静かに首を縦に振った。


 どうやら、かなり真面目(まじめ)な話らしい。その瞳が鋭く細められる。黒曜は息を呑む。


 『竜種(ドラゴン)の起源についてだ』


 それに対し、誰より愕然としたのはヘリオドールだ。


 「っ!?それは―――」


 『む?そうか・・・お前は龍の血を引く者か。ならば、お前には解るだろう?竜種の、否、竜種とされた者達の受けた悲劇を・・・・・・』


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ヘリオドールは黙り込む。その顔は、かなり(つら)そうだ。何か、ある様だ。


 黒曜は居住(いず)まいを正す。表情を引き締め、改めて真面目に聞く姿勢になる。


 「何かあったのか?」


 『うむ、そも我々竜種は元々竜の姿をしてはいなかった―――竜種とは・・・怪物にされた人間だ』


 「・・・・・・っ、な!!!」


 驚愕の余り、黒曜は絶句した。怪物に変えられた元人間。それは―――


 「詩人は己の言葉に魔力を()め、伝承(でんしょう)を現実に変える」


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 ヘリオドールは、諦めた様にぽつりと呟いた。その言葉に、黒曜は以前読んだ本を思い出した。


 そうだ。詩人アルクアッド=ブラッドの(ちょ)した本だ。確か、魔力の運用方法だったか?


 「古代の魔術師は歌や言葉に魔力を籠めた―――だったっけ?」


 『そうだ。そして、我々は侵略戦争に敗れ、侵略された事により怪物として広められたのだ』


 「ふんっ!良くある話だな」


 ゲーデが不愉快そうに鼻を鳴らした。どうやら、気に(さわ)ったらしい。不快そうな顔だ。


 しかし、確かに良くある話なのだろう。昔は、それこそ遥か古代の人類にとって、侵略戦争は当たり前に行われていた事だ。それこそ、当たり前なのだろう。


 しかし、それでも禍根(かこん)は残る。恨みは残る。


 その禍根を断つ為に、或いは後世に武勇として残す為に、歴史は捏造(ねつぞう)される。


 侵略戦争に敗れた者を怪物としておとしめ、勝利した者を英雄として(たた)えるのだ。


 遥か古代では良くあった事。そう、当然の話だ。しかし・・・。


 「なるほど・・・。確かに胸糞(むなくそ)の悪い話だ」


 黒曜の目は据わっている。かなり気分を害した様だ。恐らくは、怒り心頭なのだろう。


 当然だ。こんな話、子供に聞かせるには胸糞が悪すぎる。相手が怪物だから、人間では無いから、どれ程奪おうとも許される。どれ程殺そうと許される。


 そんな物、理屈にすらなっていない。そんな理由で、存在そのものをおとしめられたのか。


 要は、竜種とは侵略を正当化させる為に怪物とされた者達のなれの果てだ。


 『不快にさせたか?なら、それは謝ろう。しかし、お前には知っておいて欲しかったのだ。我々一族が受けた悲劇を。竜種の起源を』


 「何故、俺なんだ?」


 何故、黒曜なのか?何故、黒曜に知って欲しかったのか?


 それを問うと、ハイドレは一つ息を吐き、静かな表情で言った。


 『お前なら終わらせてくれると思ったからだ。我々一族の悲劇の歴史を、憎しみの連鎖を・・・』


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 その為には、偏見(へんけん)の無い正しい視点で物を見る能力が必要だ。


 それを、黒曜は持っていたのだ。


 『お前なら終わらせてくれる。憎しみの連鎖を―――そして、その時こそ我々は救われるのだ』


 「・・・・・・・・・そうか」


 そう言って、黒曜は微かに笑った。優しい笑みだった。


 ハイドレは信じているのだ。黒曜なら憎しみの連鎖を断ち切れると、真の意味で竜種を救えると。


 「黒曜・・・・・・」


 ヘリオドールは心配そうに黒曜を見詰める。それほどに、竜種の恨みは根深いのだ。


 黒曜は笑みを消すと、真剣な瞳でハイドレに手を差し伸べた。


 『?』


 「なら、お前も俺達と共に来い。徹底的にお前を、お前達を救ってやる」


 そう言って、黒曜は不敵に笑って見せた。その言葉に、ハイドレは目を()いた。


 『お前は・・・・・・』


 「つべこべ言うな。黙って付いて来い。・・・それと、俺の名は黒曜だ」


 そう言って、黒曜はハイドレの頭部に触れた。その瞳は何処までも力強い光を宿していた。


 『・・・・・・・・・・・・・・・っ』


 ハイドレは目を見開いたまま、呆然と立ち尽くしている。どうやらかなりの衝撃を受けたらしい。


 黒曜はにかっと満面の笑みでハイドレに言った。


 「よろしくな、ハイドレ!!」


 『・・・・・・あ、ああ』


 屈託(くったく)のないその笑みに、ハイドレは思わず苦笑した。

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