表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神殺しの星辰《ほし》(旧題:不幸な少年と病の少女)  作者: ネツアッハ=ソフ
石化の王
63/114

我は始祖竜ハイドレ

 石化していた―――そう、それは決して比喩(ひゆ)では無い。


 全てが石化していた。天も、地も、星々も、世界(うちゅう)の全てが石化していた。


 空を飛ぶ鳥も、海を泳ぐ魚も、地を駆ける獣も、人々も―――物言わぬ石像と化していた。


 (ソラ)そのものも石化している為か、鳥も雲も石化したまま空に縫い留められている。


 空気が薄い為か、全体的に息苦しい。恐らく、石化の為に空気の濃度も低下しているのだろう。


 人々が住んでいたであろう建物は、石の墓標(ぼひょう)と成り果てている。灰色の世界。


 そう、此処は悪魔の支配する灰色の世界なのだ。或いは、悪魔の体内とも呼べるだろう。


 全てが滅び去った世界。全てが夢の跡だ。


 「・・・・・・・・・・・・」


 そんな世界を歩きながら、黒曜は沈鬱(ちんうつ)そうに俯いた。


 ヘリオドールもその表情は暗い。ゲーデだけが、ゆらゆらと愉快そうに笑っていた。


 「ぎゃはははっ!!!何だ何だ!!随分(ずいぶん)と暗えじゃねえか!!もうビビったか?」


 「はんっ!!違えよ・・・。お前はよくそんなに笑えるな・・・」


 ヘリオドールのその言葉にも、何時もの力強さが無い。どうにも、この世界に居ると気が滅入る。


 しかし、ゲーデはそれでも愉快そうに笑った。野卑な声で、ゲタゲタと笑っていた。何がそんなに面白いのか全く理解出来ない。


 「ぎゃははっ!!だからこそ笑い飛ばすのさ。いっそラム酒でも飲むか?」


 「いらねえよ・・・」


 はぁっ、ヘリオドールは深く溜息を吐いた。更に気が滅入って来る。そんなヘリオドールの姿に、ゲーデは尚も笑う。


 黒曜はそんな二人にじとっとした目を向けた。と、その時―――


 『ギイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAAAAaaaaaッッ!!!』


 可聴域(かちょういき)ぎりぎりの絶叫が一帯に響き渡る。石化した世界全てに響き渡る絶叫。


 その声に、誰よりも強く反応を示したのはヘリオドールだ。


 「っ、この声は!!!」


 ヘリオドールは輝く光の翼を生やし、声のした方へ慌てて飛ぶ。その表情は焦りが混じっている。


 黒曜とゲーデも慌てて付いていく。


 「ちょっ、ヘリオさん!?どうかしたのか!?」


 「今の絶叫、竜種の、それも原種(げんしゅ)に限りなく近い個体の声だ!!」


 「!!?」


 「ぎゃははっ!!竜の原種だって!?」


 竜の原種―――それは文字通り竜種の起源に位置する個体達の事である。


 純血である故、他の竜種よりも気性はかなり荒く能力も高い。その力は竜女王にすら匹敵するとも言われている程だ。


 その事から、怪物の王とも呼ばれる程だ。文字通り、他の竜種とは格が違う。別次元だ。


 と、次の瞬間、黒曜達の上を黒い影が通り過ぎた。


 『ギイイヤアアアアアアアアアアアアアアAAAAAAaaaッッ!!!』


 天地に響き渡る大絶叫。石化した世界全体が(きし)みを上げる。


 恐らく、10m近くはあるだろう巨体。それだけで、多くの人々に畏怖を与えるだろう。


 美しい純白の総身に劫火の様に赤い瞳、頭部には二本の角が生えている。純白の巨竜だ。


 しばらく上空を飛んでいた巨竜だが、やがて黒曜達の目前に降りてきた。やはりかなり巨大だ。それだけでもかなりの威圧感がある。


 「・・・・・・・・・・・・・・・」


 『ふむ―――』


 黒曜達は各々身構える。巨竜はそれをじっと見詰めると言った。


 『我は始祖竜ハイドレ―――貴様達、この滅びた世界に何用か?』


 そう問い掛けてくる始祖竜ハイドレ。どうやら、話し合う気はあるらしい。どっしりと座り込む。


 しかし、その瞳は鋭く細められ、かなりの威圧を放っている。どうやら警戒している様だ。巨大な純白の尾がゆらりとゆれる。あれで攻撃するのだろうか?


 重苦しい威圧の中、黒曜がすっと前へ出る。ハイドレが目を鋭く細める。威圧が更に増した。


 「俺達は只、石化の王を倒しに来ただけだ。だから、お前には用は無い」


 『ほう』


 ハイドレはさも愉快そうにせせら笑う。真紅の瞳に、愉悦(ゆえつ)が宿る。圧力が更に増す。


 しかし、それでも黒曜は物怖じせず語り掛けた。


 「だから、ハイドレには悪いが、此処は退()いて欲しい」


 『退くと思うか?』


 「―――――――――っ」


 立ち上がるハイドレ。同時に膨大な魔力が周囲一帯を覆う。魔力による重圧が黒曜達を襲う。


 それは、余りに濃く重い。正に怪物の王と呼ぶに相応(ふさわ)しい魔力だ。


 ヘリオドールとゲーデが前に出る。


 「黒曜、私達も・・・・・・」


 「いや、此処は俺に任せてくれ」


 黒曜は魔力を物質化し、一振りの剣を創造した。黒曜が剣を構えると同時―――


 『ギイイヤアアアアアアアアアアアアAAAAAAaaaaッッ!!!』


 天地の(ことごと)くを破壊し尽くす閃光が奔った。石化した世界を大きく揺るがす閃光。


 其れは、始祖竜の放つドラゴンブレスだ。原初の竜王が放つ、閃光の吐息。


 まともに食らえば、神王ですら只では済まないだろう一撃。しかし―――


 「ふっ!!!」


 一閃。万物を砕く閃光は、黒曜の一閃によって容易く断たれた。竜の吐息すら断つ、必断の一閃。


 そして、そのままの勢いで黒曜はハイドレに切り掛かる。


 『ほう―――だが、まだ甘いっ!!!』


 必断の一閃はしかし、ハイドレの尾によって容易く防がれた。そのまま、ハイドレは尾を一振り。


 黒曜は枯れ枝の様に吹き飛ばされる。其処に、追撃の牙が襲う。


 「くっ!!」


 黒曜はハイドレの口腔(こうくう)に向け、腕を伸ばす。展開される魔法陣。黒曜はありったけの魔力を籠め、漆黒の魔力弾を撃った。


 『んぐうっ!!?』


 口内に魔力弾を受け、ハイドレは予想外のダメージを受ける。しかし、同時に黒曜もハイドレの振るった尾に弾かれ、吹き飛ばされる。


 「黒曜っ!!?」


 「来るなっ!!!」


 加勢に来ようとしたヘリオドールとゲーデに、黒曜は叫ぶ。その顔は、笑っていた。


 「っ、しかし黒曜!!」


 「大丈夫だ。此処はまかせろ」


 「―――――――――っ!?」


 黒曜はハイドレに向き直り、剣を構え直す。やはり、その顔は笑っている。只、楽しそうに、嬉しそうに笑っている。苦しみや辛さなど、微塵も感じさせない笑み。


 見ると、ハイドレの方も笑っていた。楽しそうに、嬉しそうに。


 「なあ、楽しいか?ハイドレ」


 『ああ、こんなに楽しかったのは久方ぶりだ・・・・・・』


 「そうか、俺も楽しいぞ」


 そう言って、黒曜は駆け出した。爆発的な踏み込みで疾駆する。


 それを正面から迎え撃つかの様に、ハイドレは尾を振るう。黒曜はかがんでそれをやり過ごす。


 しかし、それを追うかの様にハイドレの尾が襲い掛かった。それを黒曜は跳んでかわした。


 だが、それは明らかな下策(げさく)だ。ハイドレは笑う。


 ハイドレは黒曜に向かって口を大きく開く。その口腔内には(まばゆ)い閃光が。


 対する黒曜も腕を前に突き出し、魔法陣を展開する。そして―――


 放たれる閃光。ぶつかり合うドラゴンブレスと疑似ドラゴンブレス。その閃光の衝突は、余波だけであらゆる物質を破壊する。


 やがて、閃光が弾けて爆裂する。原子(げんし)レベルで分解されてゆく物質。


 そして、視界が晴れたその刹那(せつな)―――ハイドレの身体を漆黒の鎖が縛る。


 『何っ!!?』


 ハイドレは鎖を引き千切ろうともがくが、千切れない。どころか、身体から力が抜けていく。


 「終わりだ、ハイドレ―――」


 見ると、上空には幾億の輝く矢がハイドレを向いていた。その矢の一本一本に、神々すら害する程の魔力が籠められている。光の(やじり)


 鎖に縛られているハイドレに、避ける手立ても防ぐ手立ても無い。皆無だ。


 『我の、負けか―――』


 「そうだ、そして俺の勝ちだ―――」


 降り注ぐ、輝く矢。それはさながら光の豪雨。激しく大地を蹂躙(じゅうりん)していく。


 そうして、ハイドレは己の敗北を受け入れた。その時、彼は笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ